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異世界の一夜城

 なんだかんだで、俺は制御センターの地下第4層にいる。

 ここは病院だの工場だのがたくさんある階層だが、今回必要なのは工場の方だ。モードラの話だと、大抵のものは作れるという話だったが……


『ユーマ君。それは材料があれば… の話だよ』

「いや、大したものを作る気はないよ。森の木材を使えば、ベニヤ版くらいは作れるんじゃないかな。それから、布…… なんだが」


 俺が考えているのは、墨俣城(すのまたじょう)の再現だ。永禄9年に木下藤吉郎が築いた一夜城というのは、伝説でもフカシでもない。

 藤吉郎が敵軍の目の前に一晩で、城を出現させたのはまぎれもない事実だ。

 それも、当時としては画期的な建築方法を使っての事だ。


『という事は、ユーマ君。君も城塞を一晩で建設すると?』

「うん、砦を皇帝に見せつけたいだけだから、形だけあれば良いんだけどね」


 実際、そんなもんなんだよね。藤吉郎が作った一夜城。

 敵前で一晩で作り上げた城というのは、実のところハリボテ同然だ。城のように見えるけど、実質的には砦に毛が生えたようなもんだ。


 この墨俣城は後で補強や増築をして、まともな城として完成させたけど。

 ハリボテとはいえ、最初に見た敵軍は死ぬほど驚いただろうなぁ……


 そのレベルまで行かなくても、この場合は何かがあるという事だけで充分だ。


『つまり、この城塞の実用性は考えなくても良いという事なのだね?』

「そういうこと。それも思いっきり簡単なデザインにしようかなぁ…… って」


 つまり砦をお城に見立てて、前線視察に向かう途中の皇帝を何とかしようと言うわけ。最初に皇女サマにも出てもらうけど、あくまでも通行手形みたいなものかな。実際に戦うのは、あくまでも俺じゃなくちゃならないから」


 俺が、ここまで腹を決めたのには理由がある。

 あの腰巾着が街道を通り抜けた時に、皇女サマが急に闇化したんだけどさ。

 でも、その様子を見たモードラが変だと言い始めたんだ。彼女が感情を表に出したのを見た事が無い… ってさ。


 彼女が感情を表に出すのは珍しい? そんな事は無いね。

 俺の目から見た皇女サマは、感情たっぷり欲望モロ出しのお姉さんなんだが。

 暇があれば抱きしめに来るし、風呂に入れば覗きに来るし。


『ひょっとして医療ミスとか。モードラ、BBAの頭の配線間違ってない??』

『テラのホロン。どうして君がそのような結論に達したのかじっくり聞きたいものだが? いやなに、遠慮する事はないとも……』


 あーあ、ホロンも余計な事を言うから。モードラもムキになったじゃないか。

 まあ、頑張れ。処理落ちしておっさんに迷惑かけるんじゃないぞぉ~


 言うだけ無駄なのは知ってるけど、言っておいた方が良いと思うんだ。

 誰のためでもなく、俺の精神衛生的にな。


 という事があって、ひとり残された俺は地下第5層を歩き回っている。

 ここは文字通りの意味で巨大なデーターベースだ。本とかディスクでの保管には限界があるけど、電子情報なら永久保管だって夢じゃない。

 だから、適当にタイトルを選べば…… このVRゴーグルに投影される。


 本を読むんだから、椅子に座ってだが…… っと、変なの選んだかな? 視線制御って面倒なんだよね。……まあいいか、データ転送始まっちゃったし。

 って、もう終わったの? ずいぶん早いじゃないか……


「お… おおおおお!?」

『サクマユウマ! 大丈夫ですか、意識はありますか?』


 本… と言っても写真集みたいなものだ…… これは凄いな……


 読み始めてすぐにリ・スィがやって来た。やってきたというのは変か。

 いきなりリ・スィの立体映像が表示されたというのが正しいな、うん。

 で、その10秒後に凄い勢いで飛んできた壺がから飛び出したお世話ロボットが俺を壺の中に押し込むと……


「なあ、リ・スィ。いったい何が起きたんだ?」

『いきなりこんなデーターを見せられたら、誰だって心配しますよ!』


 これなに? 心拍数と血圧のデーター? いいじゃないか、健康そのものだと思うよ、この数値。リ・スィの健康管理のおかげだな……


『問題は、このタイミングですよ、サクマユウマ』


 データーが少しづつ巻き戻されていく。

 今は正常だけど、少し前までは… うわぁ、数字が跳ねあがってる。いきなり血圧が4割近くも上がれば、さすがのリ・スィでもビックリするか……

 それを検知したリ・スィは慌てて飛んできたと?


 でもさあ、俺どこも悪くないけど。うん、至って健康。


『その姿で主張されても説得力はありませんよ、サクマユウマ。

 まず、よだれを拭いてください。あとは… 鼻血は止まりましたか』


 症状からすると、脳の病気が疑われるって…… ちがぁう! ろれつは回ってるし、手足の感覚も正常! 痺れとかも無いからぁ。

 だーかーら、これ読んでただけだって!


『ユーマ君。君は一体何を…… ふむ。ナパーアのリ・スィ、案件終了だ。それからユーマ君。君がそういう年齢だという事は、充分に分かってるが……』


 モードラはVRゴーグルに転送された書名データーを読み出すと、すうっと姿を消した。たぶんホロンとの『討論』に戻ったんだろう。

 でも、最後のハードルというか…… 来たぞ… 皇女サマが。


『ゆぅまあぁあ!』


 すごい形をした皇女サマが、ティアラ片手に全速力でこっちに走ってくる。

 リハビリの途中だったんだろうか。体操服…… にしては、過激だな……

 うっ、また鼻血が……


『大丈夫なの? 身体の調子が悪いなら、すぐに治してあげるから!

 このティアラを使えば、私だって強力な回復魔法を使う事が出来るのよ』


 そう言うと、彼女はティアラを頭に近づけて…… その時に俺は、はっと気が付いた。そして思わず出した大声に、彼女は凍り付いたように動きを止めた。


「ティアラをかぶるな、スカリットぉ!」


 俺が皇女サマに向かって大きな声をあげたのは、これが初めての事だった。

 ぽかんと口を開けて、俺の方を見ている皇女サマってのもなかなか。

 これはこれで、心の中のアルバムに保管するとして…… よしっ。


「ようやく、謎が解けたようだぞ」


 なんで皇女サマの人格が変わったのか。

 分かったかも知れない……

墨俣城は岐阜県にあるお城で、一夜城として有名です。

このお城、木曽川にある程度組み立てたパーツを放り込んで、下流の墨俣でそれを拾って組み立てたと言われているんです。今でいうプレハブ工法に近いかな。

そして築城当時の資料が全く見つからないという、謎の多いお城なのです。

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