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荒れ地に咲く花

 春分の日を過ぎると、急に気候が変わってきた。

 今日にいたっては外の気温は15度もあるんだぜ。

 昨日までは連日のようにさ、朝は1度だ昼は2度… って温度計を見ながら震えていたんだぜ?


「だってぇ、寒いものは寒いのよ? それも、この温度計? こんなものを見せられたら風邪をひいてしまいそうだわ」


 そう言ってくるまった毛布から手を伸ばして… 俺を引きずり込もうとしているのはスカリット姫だ。指令センターの第3層に住み着いているのは、リハビリを兼ねての事だ。


 なにせ半年かけて、骨から内臓から筋肉から…… 全身の3割以上は医療システムの手が入っているんだ。いくら再生医療が発達していても、訓練を重ねて作り上げた筋肉までは再現してくれない。

 後天的に作り上げられたものまで再現出来たら……


『出来るよ』「えっ!?」

『筋肉強化剤と電気刺激、そして脳細胞のチューニング。3日もあれば完璧にこなせるよ? 本人が頑なに拒んだので処置はしていないのだが』


 モードラが言う方法──培養槽の中で電気刺激を与える事で筋肉を動かしていたからだが──下手をしなくても筋肉ダルマになるんだよ。

 そうなったら、全力で逃げるだろうなぁ。

 ハグされるたびに、全身の骨がギシギシって… そんなの嫌だからな。


 かと言って、筋肉増強剤を使わずに最低限の処置だけだも歩くとか、座る、物をつかむなんて事は出来る。

 でも、それが限界なんだよなぁ。


 でもそこで不思議な事がある。

 皇女サマは決して感情任せで行動した事は無いんだが…… なんで処置を受けなかったんだろうね。


 だから今になって困った事になっているってわけだ。

 ほぅら、皇女サマ。リ・スィが来たぞ。


『スカ・リト。そろそろリハビリの時間ですよ』

「えー? 少しぐらいサボったって良いじゃないのよぅ」

『それについて……、…・… ……、スカ・リト。どうしますか?』

「……リハビリを頑張らなくては!」


 ……行ったか。

 リ・スィも皇女サマの操縦方法が分かってきたのかな。何か耳元で小さな声でささやきかけていたようだが…… 魔法の呪文でもあるのかな。

 何にしても、彼女の体力回復は急務だよ。


 だって、今の皇女サマの体力は、中学生と同レベルだ。背が高いし、一部を除いて整った体格してるからなぁ。腰まであるプラチナブロンドのサラサラヘアをなびかせて歩く姿には、魅入られそうだよ……


『宿主さんは、植林を頑張ろうか』


 ホロンも、さらに解像度が上がったから人間の姿に見えるようになってきた。

 身長は30センチくらいの… たぶん幼女だ。ざっくり言えば背中からトンボの翅が生えた──フェアリーって奴か──あれに似てきたかな。


 リ・スィの立体映像も実体波を合成したら、すんごくリアルな姿になったんだよなぁ…… それまでの立体映像との大きな違いは、身体の凹凸に合わせてできる影だろうな。こいつがあると無いでとでは、見た目が大きく違ってくるんだ。


 ちなみにホロンの身体には影が出来るほどの凹凸は無い。

 リアルりみちゃん人形って言えば分かるか? うん、そうそれ。父親が転職の達人なのか、母親が再婚の達人なのかで論争が起きたアレだよ。

 それがリアルに動いているんだからなぁ……


『どうしたの? 宿主さん。BBAと一緒にいた方がいいのかなぁ?』

「んな事ぁ、ねえよ。じゃあ、今日も頑張りますかね」


 この時期なら、植林と言っても楽なもんだ。リ・スィが遺伝子を書き換えた木や草は、最初の1年『だけ』は爆発的に成長するんだ。それも、丁寧に穴を掘って植えてやらなくても良くなっている。実質的には、挿し木と変わらないよ。


 地球でも、同じような例は多く見かける。たとえば剪定で切り落とした枝を、杭の代わりに地面に刺しておいたら根が付く事もある。これがリ・スィが成長速度を早めた苗木を生み出すヒントになったのは間違いない……


「ほーれ、荒れ地に花を咲かせましょう! ってなぁ」


 結馬は、壺に増設したマシンガンの引き金を絞る。


 パパパパ…… とすとすとすとす……


 軽やかな破裂音と共に打ち出された苗木は、次々に地面に突き刺さっていく。

 それと同時に、結馬の左右に伸びる太い筒から飛び出すのはピンポン玉ほどの土の玉だ。

 もちろんリ・スィが絡んでいる以上は、ただの土の玉ではない。


 土の玉には、色々な種類のカルス… クローン栽培で作り上げた薬草の種子と肥料が練り込まれているのだ。

 このカルスは数日もすれば、爆発的に成長を始める事だろう。

 小高い山と魔の森に挟まれた荒れ地は、文字通り花園へと変貌する事だろう。


 皇女サマの予想では皇帝が前線視察に出掛けるまで、もう少しだ。

 そのためにリハビリを頑張っているし、時々ホロンやリ・スィと話し込んでいる事もある。

 最初のころは、あいつらすんごく仲が悪かったんだが……


 その3人が、仲良くしているのをいぶかしんだモードラが近づいたら、すごい勢いで文句を言われたらしい。

 とつとつとなぁ、延々となぁ…… 愚痴を聞かされたよ……


『サクマユウマ、人間を探知。早く戻って下さい!』


 なんだって? 人間を探知って……


『騎兵が対地観測衛星の監視エリアに入りました。1時間以内には、砦の近くまで来ますよ』


 そう言いながら、俺の視界の中でウインドウが開くと衛星からの映像が送られてきた。典型的な騎士がひとり。後ろを走っている4人は従者だろう。

 あの鎧は……


『ユーマ、妾も同じものを見ています。あれは愚弟の腰巾着ですわよ』


 って事は、あの騎士は貴族出身か。だとすると、重要な報告があるって事だ。


 だとすれば…… ポラーナ王国が、落ちたか。

リミちゃんパパ、ミスタ・ピヨール。実は最初のうち行方不明だったのです。

でも、気が付いたらパパがいるんだもん。それも豪華客船の船長さんとか国際線のパイロットとか音楽家とか。パパって本当に同一人物なのかな……

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