蘇る巨乳の皇女
ないない尽くしの俺達だが、それを何とかするには人手が必要なんだ。
それも多ければ多いほどいいんだが、これにはあてがあるんだよね。
条件さえ満たせば、人手なんかいくらでも集める事が出来る。
どこから集めるんだって?
手近なところでゼムル帝国からだな。
あそこは人口600万人を誇る大国なんだ。
そして、帝国を統治する権力機構の糸は、すべて皇帝に繋がっているんだよ。
だって皇帝ってのは独裁者で、最高権力者だろ。
だから、俺がゼムル帝国の皇帝になれば、人材なんて思いのままだ。
何でもかんでもやりたい放題だぜぇ? たとえばさ、かわい……
『だ・ん・な・さ・ま?』「うひやあ!?」
俺の後ろから伸びてきた2本の白い腕が、首にするりと巻きついた。
そのまま背中には、柔らかい感触がぎゅうぅぅっと……
『何やら良からぬ事を考えてるようねぇ?』
背後から俺を抱きしめているのはスカリット姫だ。
さすがに半年近く培槽槽の中に浮かんでいたから、筋肉とかが弱くなっているけど、確実に頸動脈をキープしている。
「おわあ! それ気のせい。気のせいだからぁ!」
『そうなの? なら良いけど』
死は病気… ってのは不死者ジョークらしいが、そのくらいゼムレン文明では死というものに縁がない世界だとは思わなかったよ。あの時の皇女サマくらいの怪我なら時間をかければ治療できるレベル…… なんだもん。
死んだとばかり思っていた皇女サマだが、モードラが言っていたとおり、実は死んではいなかったんだよね。
あの時の彼女は一瞬で上半身を焼き消されていた。地球の医者なら、間違いなく死亡判定を出すはずだ。
でも、人体というのは思ったよりもしぶといものらしい。
たしかに心臓が止まって酸素や栄養の供給が断たれた脳が駄目になっても、その他の器官が、すぐに駄目になるってわけじゃない。放っておけば、そのまま死んでしまうかも知れないが、適切な処置をすれば身体を修復する事が出来る。
それを、ゼムレン文明の科学者は、やってしまったわけ。
この指令センターの地下にある病院で、たった半年の時間で皇女サマの肉体を完璧に治す事が出来たんだな。
考えてみればナパーア星人の科学力でも、同じ事は出来るんだよね……
石像に吹き飛ばされた俺の身体のスペアもあるって話だもん。魔法が使えない状況ってのもあり得るし、あの時は間違いなく、そうなりかけたからな。
とにかくゼムレン文明でも、高度な再生医療技術があるって事だ。
だから、たいていの重症でも…… 身体『だけ』は治す事が出来る。
それで生き返るのかと言われれば、そうでもないんだな。
もうひとつだけハードルがある。
それは、本人に生き返る意思があるかどうか… なんだ。
それは生への執念と言えば良いかな。死んでしまった人の魂魄が、成仏するのを良しとせずに、頑張ってこの世に留まり続けると言えば良いか。
つまり本人に生きるという強い意志が必要って事だよ。
皇女サマの場合は、死んだ事に気が付かないまま、指令センターに留まっていたわけだが。そのお陰で蘇生はスムーズに進んだらしい。
『ユーマ君の言う魂魄が、人間の本質であり存在そのものだ。当然の事ながら病院には魂魄にエネルギーを供給する設備があるとも』
皇女サマの蘇生に成功してから、モードラは幽霊じみた振る舞いを控えるようになってきた。前は音も気配もなく、すーっと床や壁からにじみ出てきたんがからなぁ。
もっとも立体映像だから、そういうエフェクトが好きってだけなのかも。
『そういえば、ユーマ。地上で何かあって? こんな早い時間に来るなんて』
「ええと、それを話す前に…… 当たっているんですケド……」
背中にふたつ、ふにふにとしたモノが。そして、首から腕を話してくれたのは良いけど、その手で何をしようとしている?
そういうのはヤメレ!
「ひうっ!」
リ・スィの作り出した人工皮膚は、実に良く出来ている。今の俺の身体は、首から下は、ほぼ完全に人工皮膚で覆われている。全身タイツみたいなものを想像してくれれば良いんだが、これがまたトンデモな性能でなぁ。
有害な放射線を吸収するし、熱や衝撃にも強い。
そして、人工皮膚を通してでも、感覚があるんだ。どうやら、ある一定レベル以上の刺激だけをブロックするんだろう。ムニムニされれば、それはブロックされないから……
「ひゃあぁあ?」『うふふ、可愛いわねぇ。私のユーマ♪』
むにむにむにむに……
「だ・か・ら! 不毛な事は止めて!」
何とか皇女サマのハグから脱出した俺は、お立ち台の近くにあった椅子に腰かけた。お世話ロボットに食事を頼むと、改めて俺の前でニコニコ笑っている皇女サマを見たんだが。
彼女は先週まで培養槽でプカプカ浮いていたとは──地球なら死亡判定間違いなしの大怪我をしていたなんて思えない。
そう、彼女が『完治』したのは先週の話なんだ。
あの日は去年始めた森の復元をペースアップするためのシミュレートをしていたんだが……
ちょっと遅くなったので、こっちに泊まる事にしたんだ。家具なんかは砦の地下室から運び込んだのがあるから、コスーニ並みの快適な生活が出来る。
それに食事だって何とかなるのは分かっていたからな。
普通に食べて、普通にベッドに潜り込んだんだんだが……
事件が起きたのは、その翌朝の事だった。
苦しくなって目が覚めた時は、マジで死ぬかと思ったんだぜ……
顔に弾力のある何かが押し付けられててさ……
「むぐぐぐ…… ぶはぁ……」
なんとか口と鼻が自由になった俺は、ベッドの中を見て頭から氷水をぶっかけられたような気分になったんだ。
ベッドの中に、誰かがいる。それも人形やロボットじゃない……
何度もスキルで確かめたけど、そいつはちゃんと生きている人間だ。
だけど、人間は俺ひとりしかいない筈なんだ。
コスーニの中にも、うさぎ屋敷にも。もちろん、この指令センターにも、だ。
その時に頭の中にあったのは、ショックを感じたのは……
添い乳をされた事よりも、したのは誰なんだって疑問だったんだ。
添い乳窒息死ってのはゴホービだとかヌカす奴もいるけどね。
平均的な体格の持ち主の私には無理な相談だよ! ……ちくせう。