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瓦礫の中の騎士

 私はネポロ。ポールク家の嫡男にして、栄えあるゼムル帝国の騎士だ。

 我ら土の精霊騎士団にとり、第1皇女殿下、スカリット・ケイティ・ゼムル様こそが我らが主君。我ら70名の騎士は、森に住まう異種族の戦士たちと共に皇女殿下の玉体を御護りする事こそ騎士の誉というもの。


 それというのも、我々は知ってしまったからだ。

 皇女殿下がなぜ魔の森と怖れられ、忌み嫌われた地で魔法の研究をなさっておられたのか。その真の理由をだ。

 皇女殿下は、ゼムル帝国による世界の統一に疑問を持てれておいでなのだ。


「妾は思うのです。戦争だけが、世界を統一する方法なのでしょうか」

「無礼を承知で申し上げます。それはゼムルの民だけが特別な存在……」

「ねえ、ネポロ。それは誰の言葉?

 この世を創りたもうた創造神様の神託… ではないでしょう?」


 皇女殿下が発したそれは衝撃的なひとことだった。

 子供のころから、ゼムル帝国の民こそが世界で最も優れた民族であると教え込まれてきた我々にとって、それを否定するようなものなのだ。

 それも、皇帝陛下に最も近しいはずの皇女殿下の御言葉なのだ。


「だからと言って、戦争をするなと言っている訳ではなくてよ。あくまで戦争は最後の手段なの。妾が疑問に思っているのは、はじめに戦争ありきという考え方なの。そこは分かってくださる?」


 皇女殿下に諭されて、我々は目が覚めた思いだ。

 交渉もなく、いきなり戦争を仕掛ければ… そこに残るのは憎しみだけだ。

 そこで生み出されるのは、憎しみの連鎖と、永遠に殺し合いを続ける世界だ。

 殿下は我々に、そういう世界を生み出す事の是非を問うておられたのだ。


「すべての戦争を終わらせるための戦争…… それはやむを得ない事なのかもしれません。それこそ歴史の必然ですわ。 それでも妾はどうにかしたかった。

 そのために妾は、大きな魔力を持って生まれたのかも知れなくてよ」


 たしかに、皇女殿下の魔力量は常人を遥かに上回っておられる。

 幼少のおりに、すでにその道の達人と称される大魔法使いであられたのだ。

 そして、その魔力をお使いになられる日が来たのだ……


 去年の夏に皇女殿下が行った魔法実験は、そのためのもの。残念ながら実験は失敗に終わってしまったという。

 そしてその影響は決して小さなものではなかった。もしも土の精霊の庇護が無ければワルハラに召されていたやも知れぬ。

 あの魔法実験は、禁呪を安全に使うためのものだ。


 だが、禁呪を使ってまでもゼムルの民の幸せを願う皇女殿下を悪く言う者はいないだろう。仮にそんな事を口にしようものならば……

 たとえ神が許そうと、皇帝陛下が是と断じようとも、決して我らは許さぬ。

 かような不遜の者共は、我ら土の精霊騎士団が粉砕してくれようぞ。


 だが、声高に正義だけなら誰でも出来る。だがそれには力が伴わなくては。

 どこまでも正義の意思を貫き通す力が無くてはならない……


 力なき正義は… 妄言に過ぎない。

 だが、精霊の祝福を受けた我らは違う。

 我が心は正義の炎に溢れ、我が身は常に戦場にあり。

 それゆえに、日々の研鑽を怠る騎士は、ひとりもいないのだ……


「おはよう、騎士ネポロ」

「おお、騎士ザーリン。今日も鍛錬に勤しむとしよう」

「当然の事だ。我らが皇女殿下のために」「皇女殿下のために!」


 そうだ。我らの身は皇女殿下のために。

 感激を込めて唱和をした我々は、食事をとるために地下通路を進む。

 地下通路というのは、普通は狭いものだ。基本的には建物から脱出するための隠し通路のようなものだから仕方が無い。


 だが、ここはそうではない。

 土の精霊が住まうコスーニ宮には劣るとはいえ、通路は充分に広く、照明も行き届いている。


 ──おお、騎士ネポロではないか。これから朝食かね?

「うむ、今日は暖かいぞ。もうじき夜より昼の方が長くなる時期だからな」


 途中で合流したのは、黄金の甲冑に身を固めた異種族の戦士だ。


 食事を済ませた我々が最初にする鍛錬は森の奥にある神殿までのマラソンだ。

 鎧兜をはじめ、完全装備で走る5キロの道のりは──最近でこそ鼻歌交じりの気楽な行軍だが、鍛錬を始めたころは永遠にも思え距離に思えたものだ。


 これも精霊の巫女が授けてくれた秘薬のおかげだな。

 皇女殿下より賜ったティアラを身につけ、颯爽と歩き回る姿は堂に入ったものだが、その姿は幼少期の皇女殿下そのものだ。


 そして、この顕現した巫女だが……

 我が騎士団には『土の精霊の巫女に逆らうな』という不文律がある。

 つまり、そういう事だ。


 そして、ひと休みしてから始めるのが神殿の清掃だ。この神殿は戦乱を潜り抜けてきたせいか荒れてしまってはいるが、最近はかなりマシになってきた。

 清掃を終え、ひと休みしたら剣術の鍛錬が始まる。

 剣術の基本は素振りからという巫女のアドバイスに従って、我々は黙々と剣を振り続ける。


 時おり、深紅の鎧をまとった騎士がやって来ては剣術の手ほどきをしてくれる。

 彼──たぶん彼で良いのだろう──は、とても無口だが、戦士としての技量は超一流だ。そして、彼は無口ではあるが、最近はそれなりに意思疎通も出来るようになってきたのだが……


「なあ、騎士イペリよ。皇女殿下は、土の精霊が住まうコスーニ宮に身を寄せられておられるが、ご不便は無いだろうか」

「あの巫女殿がお傍にいれば、何の問題も無かろう。皇女殿下も、あの巫女を気に入っておいでだからな」


 たしかにそうかも知れない。

 皇女殿下が巫女にお姿を真似る事を許されるほど、深い信を置いているのだ。

 よほどの事がなければ、そのような事がある筈がない。巫女もそれなりに気を使って、ティアラは模さず、服装も変えてくれているから見分けは付くが。


 我らは土の精霊より祝福をうけし者。

 そして、我ら騎士団の… 土の精霊騎士団の名は、皇女殿下より直々に賜ったものなのだ。

 騎士団に名を賜るというのは、騎士として末代までの誇りである。


 そして、私は騎士団長の任を受けし者なのだ。

 生命にかけても、精霊騎士の名に恥じぬ働きをせねばならぬ……


 私の名はネポロ。

 皇女殿下にお仕えする土の精霊騎士団の、団長だ。

佐久間君が捕虜にした騎士サマ再登場!

いつの間にか骨のズイから、皇女サマに懐いてしまいましたとさ。

何があったのかって? そのうちに話すよ……

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