よく眠った次の日は
目を醒ました俺は…… うん、本当によく寝た。
昨日はとっても疲れていたんだろう。夢も見ずに眠ったというのは、いつぶりの事だろうなぁ。
半月前にウサギ達と探検に来た、このつるつる洞窟は、ゼムレン文明の遺跡なんだ。それも、生きて──完璧に機能して──いるときたもんだ。そこにはゼムレン文明のトンデモ技術を目の当たりにする事になった……
なぜなら生きていたのはメカだけじゃなかったからだ。
ここには『生存者』もいたんだよ。モードラというスプーキーなヤツ。
そして、何故か皇女サマの幽霊もな……
それから毎日のように皇女サマと話をする事になったんだが、お陰でこの星に起きた色々な事情に詳しくなってきたと思う。
230年前に起きた大破壊を生きのびたいくつかの地下都市のこと。そして大規模な地殻変動で荒野と化した大地で暮らし始めた地下都市の住人たちのこと。
他にも色々あったけどさ……
それもこれも彼女が充分に満足して、成仏するまでだと思っていたんだ。
ところがモードラの奴は、彼女が生きているとか言い出してさ……
話をしているうちに、マジで頭がどうかなるかと思ったぜ。
その仕上げはホロンに運動中枢を乗っ取られて……
と、まあ… なんだかんだで、昨日は酷い目にあったんだ。
あれは別の意味で、頭がどうかなるかと思ったぜ……
んっ? 何があったのかって?
………すまん。
聞かないでくれ……
と、まあ昨日は色々あったけど、久しぶりに夢も見ずにぐっすり眠れたよ。
最近はホロンも壺を経由して立体映像ネットワークにリンクするようになったから、ちょくちょくサーバーに遊びに行ってるってのもあるか。
お陰で頭はスッキリしたけど、寝不足っぽいんだよね。
『おっはよー、宿主さん』
「おあをー」
いや、寝すぎてボーっとしているだけか。
これなら身体を動かしてりゃ何とかなるだろう。
『ねえねえ、今日から新装備だよ。楽しみだねぇ♪』
そう言えば、リ・スィが放射線シールドジェネレーターの改良に成功したって言ってた。たぶん改良したのは、バッテリーだろうね。
今は燃料電池を使っているけど、反応剤が切れたらお終いだ。なによりバッテリーは衝撃に弱い。何かのはずみで火でも吹いたら一発でアウトだよ。
『さあさあ、早く起きて。それとも、また一緒に歩いた方が良いのかなあ?』
「それはヤメレ」
ホロンに促された俺はベッドから這い出した。
ふむん、体調はバッチリだ。身体の動きに違和感は… あれれ、なんか変?
なんか身体がふらつくんだよね……
『宿主さんがなにも着ていないからだと思うケド?』
「ぬおおお!?」
そう言えば、昨夜は風呂場まで歩かされて…… まあいいか。
とにかく服を着たら、移動するぞ。たぶんトレーニングルームとして使っている空き部屋にあるんだろ。
『冴えてるねぇ、宿主さん。大当たりだよ♪』
いつになく浮かれているホロンは放っておくとして。俺はトレーニングルームにやってきたんだが…… ここにもあったよ、トンデモが、さ。
「これが新装備… なのか?」
結馬が目を丸くするのも無理はない。
空き倉庫だった場所を改装したトレーニングルームには、高さが2メートルはありそうな大きな箱が鎮座していたのだから。
箱からはうっすらと木の香りが漂っているところを見ると、素材は魔の森に生えている巨木なのだろう。
森の木の多くは鋼鉄並みに硬いが、白法師が持っていたレーザーソードをを使えば、それほど難しい話ではない……
「……まさか、変形してロボットになるとか言わないよね?」
目の前のサイコロは、半世紀ちかくも前に一世を風靡したテレビ漫画に出てきた巨大ロボットそっくりだ。ファンの間ではサイコロと揶揄されたが、そこそこ人気はあったようで、いくつかの続編にも登場しているという。
彼が見たのは、そのうちのどれかだろう。
サイコロを不安そうに見ている結馬の脇に、珍しくリ・スィが現れた。普段は声だけの存在なのだが、どのような風の吹き回しなのか、先日の──スカリット姫の幽霊と対峙した時に姿を見せて以来、彼の前に頻繁に姿を現している。
リ・スィは、触手で結馬の背中をつつきながら話しかけた。
『これは新装備の装着用ハンガーですよ、サクマユウマ』
『わかってくれた? じゃあ、宿主さん、脱いで♪』
脱げって……?
『この装備品は身体に密着させる必要があるのですよ、サクマユウマ』
そう言えば放射線シールドジェネレーターの改良型って言っていたよね。あれはハーネスで身体に縛り付けていたようなものだからなぁ。いくらハーネスの完成度が高いとはいえ、長い時間装備していられるようなものでもなかったんだ。
どこまで行っても、ハーネスはハーネスでしかない。それもジェネレーターやバッテリーが動かないようにぎっちり固定していたからなぁ……
うさぎ屋敷で風呂に入った時に、肩や腰には痣が出来ていたんだよ。
『今回は、そのあたりとエネルギー問題を改善しました。着心地は良くなったはずですから、半年くらいは装着したままでも問題はないでしょう。
それに…… もうひとつの懸案事項もこれで解決するかもしれませんよ』
リ・スィが言っているのは、俺の戦闘スタイルだ。
この時ばかりはホロンも俺の精神に常駐する。当然のながら、この時ばかりは感覚中枢は共有している。
ホロンは探知と分析、そして魔法を任せている。もちろん最優先すべきは、俺がダメージを受けた時の回復だが、使える魔法は他にもあるぜ。
攻撃魔法も防御魔法も、選びたい放題って奴だ。
だから、俺はダメージを気にすることなく攻撃に専念できる……
ダメージ無視で突っ込んでこられたら、誰だって怖いよね。