おっさんに煽られた俺
異世界召喚、かぁ。
ぶっちゃけ別の宇宙の別の惑星に行くって話なんだが、大丈夫かね。
おっさんの話を聞いているうちに冷静になってきたと言うか、冷静になったから疑問が浮かんできたとか色々あるけどな。もしもこれが夢でも何でもなく、本当に異世界召喚だとしたら困った事になるかも知れない。
人類ってのは、極地から砂漠地帯までありとあらゆる環境に適応し、高度な知性と旺盛な闘争本能を持った種族なわけだ。
そのあたりは人だろうとエルフだろうとドワーフだろうと変わりはない。
だけどな、人類ってのはタフなように見えてけっこう脆いのよ。
たとえばワールドカップの中継でラジルポまで行った取材クルーは、現地でおむつが手放せなかったと言ってたのを知っている。
ヤポネスの感覚で生水飲んで、おなかPPPになっちゃったそうな。
その原因は水の成分とかじゃなくて、間違いなく細菌感染だ。
風土病以前の問題で、土着の地中細菌なんかもちょっと違ってたらしい。
そのちょっとした違いがお腹にキたって話だ。似たような事はヤポネスに来た外国人にも言えるらしいけどな。
何が言いたいと言うと、ポピュラーなはずの雑菌でさえこのザマだってこと。
ましてや別の惑星に行くんだろ?
大気成分や重力だって地球とは違うかも知れない。細菌とかもそうだけどさ…
そもそもあっちのモノって食えるのか?
「ああ、そのあたりは心配しなくてもいいぞ。向こうの環境は地球と同じと考えてくれていい。時間の流れも似たようなもんだ。
それに有害な病原体なんか無いから安心せい」
マジか? 頼みますよ、そこんとこだけは。
着いた途端に病死なんてシャレにならないもん。
で、喚ばれた場所ってどんな所なん?
「君が向かう世界は、いわゆる剣と魔法の世界と言う事になる。文明レベルは中世になりかかったという処かな。大抵の事は魔法で片付けてしまうから科学の発達は望めん。まあ、不便と言えば不便もあるが、特に問題はあるまい?」
たしかにな。郷に入れば何とやら… って言うからなぁ。
あ、そう言えばいくつか知っておきたい事とかあるんだけど、良いですかね。
ここってさ、転生ルームというか、そんな感じの場所っぽいんだよね。
だからチートとかスキルとか色々つけてもらえそうな予感がするんですけど?
「うんにゃ。わし神様じゃないから無理」
なんだよぅ、ケチ!
そのくらい融通してくれたって、いいじゃないかよぅ。
出来るのにやらないなんてさ、青少年に対する何とかって奴じゃないか?
なあ、ホントは出来るんじゃね?
だってさあ、そう考える根拠はあるんだぜ?
ただのおっさんがこんな所に居るはず無いじゃないか。
それに召喚魔法のプロセスに割り込みかけたとか言ってなかった?
ただの『元化生まれのアラカン』とかに出来るもんじゃないだろ。
それに、だよ。
いたいけな高校生が異世界に無理矢理に拉致られようとしているのに、その仕打ちって… あんまりだと思いませんかあぁぁ?
ぐすっ… ねえ、おっちゃん… 助けてよおぉぉォ……
「ぐぬぬ… それ反則だろ」
ふっ、ちょろいぜおっさん。
喫茶店のバイトでメイド服着てたのは伊達じゃないんだぜ。
ちょっと目をうるうるさせて、軽く握った両手を口の前に持ってくれば大抵のヤツはオチるってもんだ。
「はぁ… 仕方が無いなぁ。チートはやれんが、手は貸してやる。とりあえず身体強化は必須として…… ときに佐久間君。今の状況をどう思うかね?」
異世界召喚って奴だよね。
おっさんが召喚魔法に介入してくれたお陰で、ここに留まってるってだけで最終的にこのプロセスを止める… というかキャンセルできないって話だったか。
拉致られたかと思うと、さすがにムカつくよね。
「だろう、な。このままでは業腹だろ?」
だよ。おっさんもそう思うだろ?
だから召喚した奴らを…… おっさんが何とかしてくれてもバチは当たらんと思うんだが。そのあたりはどうなんだろ。
「その程度なら簡単に出来るが、君はそれでいいのかね?」
だってさぁ、チートも何もなければただの高校生だぜ。
向こうは剣と魔法の世界とか言ってたけど、それなら向こうの連中って戦争に慣れてるっていうか、そういうプロがいる世界って事だろ。
だったらさ、俺は拳を構えただけで瞬殺されるかも知れないじゃん。
死にたくなかったら、おっさんを頼るしかないと思うよ。
それともまさかチートをくれんの?
だったら勝てないまでも負ける事は無いと思うぜ。
無事に逃げ出すことが出来りゃ、あいつらの面子も丸つぶれだろ。
あとはなるようになぁれ、って感じかな。
実際のところ、異世界召喚までして人材を手に入れようって考えなら簡単に殺される事は無いはずだ。そこに付け込む隙はあると思うしな。
ならば隙を突いて何か出来るかも知れんだろ。
あとは破壊工作に徹するとか、親玉の暗殺… はさすがに無理か。
親父なら簡単にやってのけそうな気もするけどな。
とにかく逃げ出す事くらいなら……
修一郎さんって、意外とケチだったんだ……
それにしても、佐久間君のバイト先の制服って… じゅる。