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滅びた去った文明(その2)

 俺は、モードラの話を聞いてガックシだよ。

 これがゼルカ星はのジョークって奴なのかね……


『モードラ=ルディナ、500光年は、宇宙的な観点からすれば目と鼻の先。

 その上で、蓋然性が認められるという判断がなされたのですね?』


 今まで静かに話を聞いていたリ・スィが、急にモードラに話しかけた。

 口調こそ静かなものだけど、それも背筋がゾッとするような…… そういう不気味さがこもっているんだ。


 それに対して、モードラは何も言わなかった。それは決してリ・スィの迫力にビビったって訳じゃない。

 あえて沈黙で応えた…… って奴かも知れない。


 それからしばらく、重苦しい空気が流れた。

 額のあたりから、たらり… と、ひと筋の汗が流れてきた。


「なあ、リ・スィ…」


 そろそろ緊張に耐えられなくなってきた俺はリ・スィに話しかけようとしたんだが、それを遮るように……


『サクマユウマ。複数のザーラルを自爆させる事で地表までの土砂は一気に排除できますよ。そうすればコスーニを離陸させる事は出来ますが?』


 リ・スィは、暗にゼルカ星から逃げ出せと言ったんだ。この判断は、あくまでも俺を生かすためのもの。いくらなんでも、そのくらいは俺でも分かるさ。

 たしかにコスーニが離陸できれば、間違いなく俺は… ゼルカ星に何があろうと俺だけは助かるだろう。


「でもさぁ、俺だけってのも…… 何となく後味が悪いんだよね」


 魔の森の地下600メートルあたりに埋まっているナパーア星人が建造した宇宙船なら、ゼルカ星から脱出する事が出来るはずだ。もしもリ・スィが言ったように壺を自爆させれば…… 大型の原子核爆弾なみの破壊力はあるもんなぁ。

 たぶん半径10キロの範囲が滅茶苦茶になるけど、コスーニは離陸できる。


 宇宙に出てしまえば、そのまま宇宙探検をしてもいい。地球型惑星を見つけてスローライフを楽しむのもアリだ。

 ……でも、本当にそれで良いのかな。


 せっかく宇宙的災害を生き延びた人たちを見捨てて。

 俺だけが生き残るって考えはさ……


 俺は異世界召喚で地球から拉致られ、地球には帰れない身の上の地球人だ。

 そして、異世界召喚の実行犯──皇女サマをはじめとした関係者ご一同様は全員が報いを受けている。

 ここから先は、そういう事情とは無縁の──無辜の人たちなんだ。


 でも、あいつらもゼルカ星人なんだよね……


『宿主さんが悩むのも仕方が無いかも。こういう時は、お腹いっぱい食べて、寝ちゃうのが一番のオクスリだよ♪』

「……帰れるのか?」

『ええ。誰かさんが無茶をしなければ、昨日は焼肉祭りだったのですけど…』


 リ・スィの立体映像が、ちらりと赤法師を見た… んだろうな。多分あの仕草はそういう事なんだと思うよ……

 たしかにリ・スィの言うとおりなんだけどさ。


 俺がここにいるのは、石像との戦いで身体が(けんえつ)になったからだ。

 こういう場合はコスーニに戻ってゆっくり治療するのが最善の選択だ。

 あそこの医療区画のトンデモ能力の前では、死というのは病名の一種じゃないかって思っちゃうんだよね。


 リ・スィの見立てでは、全治半日…… 半月でも半年じゃないぞ、半日だ。

 地球だったら半年どころの騒ぎじゃないし、確実に後遺症が残るかも知れないような大怪我だってのにな。

 それが出来なかったのは……


 そこで言葉を切った俺も、ちらりと赤法師の方を見た。


『まあまあ、宿主さん。赤法師も反省している事だし……』


 そうなんだよね。石像と戦い終わった俺が、ここに留まっている理由。

 それはコスーニに帰る事が出来なくなっちまったからだ。そのためにホロンは俺に初級魔法をかけ続けたんだ。

 赤法師(こいつ)が余計な事をしなけりゃ、そんな事をしなくても済んだんだ。


『だからぁ、もう済んだ事だしぃ……』

『結果から考えるのなら、赤法師との和解には大きなメリットがありますよ』


 う、うん。そうするよ。

 たしかい、あいつがいなかったら、俺も抗してはいられなかった。

 それに、古城のおっさんも言っていたんだよ。

 仲間を増やせ…… ってな。


「あいつ、命の恩人だもんなぁ……」


 だから、ここは…… あいつがしでかした事は…

 水に流す事にしよう。


 モードラが閉鎖した隔壁を、赤法師が物理で通り抜けたせいで…… って事は忘れる事にしよう。いや、するしかないよね。

 あれだけ完璧な土下座をされちゃったらさぁ……


 アレを見たら、怒る気が失せちゃったよ。


『じゃあ、宿主さん。帰ろう♪』


 そうだな。ホロンの言うとおりだ。

 こういう時は肉祭りに限るな。食って、寝るのがベストな判断かも知れん。

 スカリット姫は、難しい話はキライ! と言って、どこかに消えちゃったから引き留められる事も無い。


「じゃあ、小屋で肉祭りだ!」


 俺は、そう言って壺に乗り込んだ。もちろん、護衛はつけてもらった。

 壺に乗せた作業用ロボット部隊と赤法師をね。赤法師は身体が大き過ぎて壺に入りきらなかったから、頑張ってしがみ付いてもらったけど。


 これだけの戦力があれば、何があっても… よほどの大群で攻め込んでこなければ何とかなると思うし。

 そして地上の様子は… 対地観測衛星でのチェックは… オッケ、大丈夫か。


 じゃあ、森に帰ろう。

 俺たちの家に……

回復した佐久間君は、森に帰りましたが、スカリット姫がそれに気が付いたのは、もう少し先の話。


最初のプロットでは、前後編で終わる筈だったこのエピソードですが……

何故かボリュームが倍になってしまったので、タイトルを前編→その1に変更しました。

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