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滅びた去った文明(その1)

 俺は長々と話してしまったけど、それをモードラは静かに聞いてくれた。

 時々、頷くような仕草をしているって事は、俺の言った事とゼルカ星人の歴史とは重なりあう部分があったのからかも知れない。


 とにかく知りたいんだ。

 ゼムル帝国みたいなファンタジックな世界は、この地域だけの──趣味人の集まりに過ぎないのか。それとも……


 ──ユーマ君。君の疑問はもっともだと思うよ。

 君の目から見れば、この惑星は実に奇妙な世界に映るだろう。だが、これには理由があるのだ。

 スカリット姫の言う先史文明──我がゼムレン文明は滅亡したのだ。


 そして、ゼムル帝国をはじめとするいくつもの国家群は、我々ゼムレンの民の末裔なのだよ……


「なんだってぇ? 滅亡って…… 戦争でも起きたのかよ」


 ──そうではない。そうではないんだよ。

 我々… ゼムレン文明にとって戦争とは遠い過去の思い出に過ぎない。

 我が文明は宇宙的な災害に巻き込まれてしまったがために、滅びたのだ……


『宇宙的災害って…… 何があったか知らないけど、よく耐え抜いたねぇ』

 ──いや、地球(テラ)のホロン。それが、そうでもないのだ……


 モードラの話にあった宇宙的災害は、現在進行中の出来事だそうだ。

 どうも、近所にある大質量の恒星がいくつか不安定になっていて、いつ超新星爆発を起こしても不思議はないそうだ。

 少なくとも、その中のひとつが爆発したのは230年も前の話なんだが……


「そういや、ベテルギウスが超新星爆発を起こしたら… ってのが話題になった時期があったなぁ」

『ねえねえ宿主さん。宇宙雲が地上に降るのが先か、超新星が先か? という話だよね。でもベテルギウスが超新星爆発を起こすのは10万年も先だよ♪』


 天文学者の研究結果が発表されるのが、あと少し遅かったら大変な事になっていたらしいんだな。自暴自棄になった人達が暴動を起こしたり… とか。

 古城のおっさんなら知ってるかも知れないけど、俺は知らないよ。


 なにせ俺が幼稚園にいるころの話だもん。


 ──はははは。地球人(テラナー)は実に運が良い。運命の神に愛されているな。

 だが、我々は… ゼルカ星は神に見放されたのかも知れない。


『神とは… 科学者らしくない発言ですね、モードラ=ルディナ』


 何を言い出すかと思ったら、神様かよ。で、見放されたって……

 そう言えば地球のそれと同じような言い回しはあるんだよね。たとえば『天は我々を見放した』なんて感じのフレーズだ。

 今風に言えば、『もうだめだ!』とか『詰んだ』ってなニュアンスかね。


 つまり、もうこの星に未来は無いって事なのか……

 でも、超新星爆発が起きたのは230年も前って言ってたよね?

 じゃあ危機は去ったって事じゃないのか?


 結馬(ゆうま)の目に映るモードラの姿が薄くなったように見えた。

 彼に身体があれば、深いため息をついていたのかも知れない……


 ──残念ながら、ユーマ君。状況はそう簡単な物ではないのだな。

 太陽系から500光年ほど離れた空域にあるルベーロという赤色超巨星も超新星爆発を起こすだろうという事も分かっていたのだ。


 広い宇宙では赤色巨星は簡単にも見つけ出す事が出来る。赤色巨星で構成されている銀河だっていくつもあるのだよ。その意味では赤色巨星はサイズの大小に関わらず、ごくありふれた天体という事になるな。


 それなのにルベーロが注目されてきたのは、おおむね6年周期で収縮と膨張を繰り返しているからだ。それも相対的には徐々に暗くなっている。

 この調子で膨張と収縮を繰り返すなら、そう遠くない未来──我々の計算では、300年以内に──ルベーロの中心核は崩壊する。


『300年? じゃあ…… その赤色超巨星は70年以内に爆発するの?』


 最初に反応したのはホロンだ。その声を聞いて、俺もはっとなった。

 じゃあ、なにか? まだ危機は去っていなかったって事なのかよ。


 ──ルベーロが超新星爆発を起こすのは間違いない。観測結果がそれを裏付けているからね。そして、その影響だが……


「超新星爆発が起きてもさ、何とかなるんじゃ…」


 俺もモードラに話しかけたが… 俺が全部言い切る前に、彼は首を横に振った。

 という事は、どうにもならないって事なのか……


 なあ、マジで…… この星は終わる… のか?

 地球と同じように、ゼルカ星も……


 ──いやいや、君たちの… チキュウは簡単に滅びたりはしないだろう。

 高い技術力を持った文明世界なのだろう?


「そうでもないよ。地球だって…… もう長くはないんだ」


 かつてガガーリンが、地球は青かった、と言ったけど。

 今の地球は不吉な事を連想させるような恐ろしい色をしている。

 ある場所はどす黒く、別の場所では青白い燐光を放っている。

 それは放射能を含んだ雲が成層圏の上層部を漂っているせいだ。


 雲の正体は、銀河系の赤道面に集まっている星間物質だ。

 公式には宇宙雲と言うんだが、大半は放射能を含んだ砂や軽石だな。

 そして、その総量は数億トンにものぼると言われている。


 それはいずれ地上に降り注ぐことだろう。

 それは地球が再びその美しい姿を取り戻す時でもある。

 その代価は地上に住まう全ての生命……


 だから、人類は他の星に移住しようとしていたんだ。

 そのための恒星間宇宙船だが、最初に作り始めた何隻かは完成している……


「でも、ゼルカ星は大丈夫だよね。230年前の超新星爆発の影響だって何とか防ぎきったんだ。だからきっと……」


 ──いや、はっきり言って分からん。

「…………なんだって?」

 ──場合によっては、全く無傷という事もあり得る。


 なにドヤってるんだコノヤロー!


 この星は終わるって話じゃなかったのか?

 それを防ぐために頑張って生き延びたんだろ。


 なのに、このオチって……

予想以上に長くなってしまった……

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