表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/165

朴念神と人工知性体

 俺は、改めて部屋の中を見て、思わず唸ってしまった。

 壺の爆発で部屋の中は滅茶苦茶になったというのに、いくつかの設備は致命的なダメージを受けずに済んだらしい。

 皇女サマのお立ち台や巧妙に隠された照明なんかがいい例かな。


「それにしても頑丈な部屋だよね。天井が崩れてもおかしくないのに……」


 この2日間で瓦礫はすべて片付いたけど、それが逆にこの部屋を殺風景なものにしたというか… 大理石の壁は焦げたり穴が開いてるし、天井だってススだらけだ。床も… おおおおお? 床はきれいになっている!

 石像とはいえ、メイドさんの仕事は完璧だぜ!


『この区画のチェックが終わりました。ここは安全ですよ、サクマユウマ』


 そうは言うけどさ、通常運転中とはいえ壺のエネルギー炉が爆発したんだぜ。

 なのに、無事だなんて… どんだけ頑丈に出来てるんだよ。

 つか物理法則はどうなっちゃってるんだ?

 どこかで居眠りでもしてんのか?


『それについては何とも。あくまでも想像の域を出ませんが、魔法を妨害していたシステムと似たような何かが存在するのかも知れません』

「……さよか」


 魔法を妨害するシステムは、とても優秀だ。放出した魔力が魔法として発動するまでの刹那的な時間で魔力をどこかに吸い取っているようだ。

 もしもそれが物理法則にも有効だとすれば? 仮にそうなら壺が爆発してからわずか数分で、部屋の温度が元に戻ったのにも納得がいく。


 あいつなら、やるかも知れないなぁ……


 俺は、お立ち台の脇に立っている奴の姿を見ていた…

 奴の名前はモードラ=ルディナ。黒いローブを着て、フードを深々と被っているのでどんな顔をしているのか、男か女かさえも分からない。

 結論から言うと、皇女サマ以上にスプーキーな奴だ。


『たしかにスプーキーだけど… って、宿主さん、あいつが怖いの?』


 俺は幽霊とかエクトはちょっと… な。

 そういうのに興味がある奴もいるし、そっち系の雑誌がある事も知ってる。

 かなり昔に『廃墟に出逢いを求めるのは…』とかいう番組も会ったよね。

 古城のおっさんなら見てたんじゃないか?


『ぬっふっふ……』「なっ、なんだよ、そのいやらしい笑い方」


 ホロンの解像度は随分上がってきたけど、まだ表情まで分かるほどじゃないんだよね。でも、今のあいつがどんな反応をしているかは分かるぞ。

 間違いなく楽しんでるよね?


『宿主さんもマニアックだねぇ。あの番組って、あんまり視聴率高くなかったんだよね。でも視聴者参加型だったし、なによりコアな信者がいたからねぇ……』


 こらぁホロン! 勝手に納得してるんじゃねぇ!

 なつきと芹那に付き合わされて… いや、あの時は罰ゲームか何かで一緒に見ようって話になっただけだ。

 それも昔の人気番組の最終回だけを見ていこうって企画の深夜番組な!


 それもだ。いざ見ようって段階で、2人そろってムーニー装備って何だよ。

 たしかに内容的にはアレだから、そういう事をするのは分からなくもない。

 でも、そいつを俺に見せるのはどうかと思うんだ。

 あの番組は、そんな装備をしてまでも見たい番組じゃないと思うんだが?


 案の定、番組が始まったら最初から最後まで、テレビの前で俺にしがみ付いて離れなかったし。

 あいつらテレビ見にてるのか、俺を抱き潰したかったのか……


『うんうん、宿主さんが筋金入りの朴念仁(ぼくねんじん)だという事は、よーくわかった……

 ここまでくると、宿主さんは、朴念()だよ。

 妹ちゃんも幼ちゃんも苦労していたんだねぇ……』


 なあホロン、ヤレヤレとでも言いたげなゼスチャーは良いけど誤解するなよ?

 なつきと芹那にとって、俺は扱いやすいオモチャ兼財布ってだけだ。

 あいつらの事を話してやっても良いけど、ロクなもんじゃなかったぜ。


『宿主さん、その話KWSK!』


 えっ?


『WKTK』


 えっ? リ・スィまで何だよ。

 いったいどうしたって言うんだよ。つか、お前ら立体映像のままにじり寄ってくるんじゃねぇええ!


『話してくれたら、ご褒美がありますよ?』『嬉しいご褒美あるよー♪』


 いやこれ黒歴史だから。聞いても面白い事なんか、何も無いって!

 だーかーらー、そういうのはヤメレ! ゾンビは嫌あぁあああ……


『サクマユウマ。ここまで好奇心を掻き立てておいてオアズケですか?』

『ねえねえ宿主さぁん… 話してくれないと、BBAをけしかけるよ?』


 うっ… すんごい圧だ。何がこいつらを駆り立てるんだ?

 だーかーらー、その姿でじわじわと寄ってくるのヤメレ!


『ならばサクマユウマ。あなたに選択肢を提示します。素直に話すか……』

『それとも自白剤を使った方が良いかなぁ♪』


 ……これ以上抵抗しても無駄みたいだな……

 あいつらの事だ、どんな手段を使ってでも俺の口を割らせる事だろう。

 食事に自白剤でも混ぜられて、洗いざらいしゃべらせるか、ホロンかリ・スィが強引に俺の記憶中枢にハッキングするか…… リ・スィなら後者かな……


「わかった、わかったよぉ……」


 それからしばらく、なつきと芹那との間に何があったのかを話す破目になったんだが…… とっても疲れたよ… 心がね……


 ──打ち合わせは、終わったかね?


「うわああああ!」


 俺の脇に、ゆらぁ… と、黒いローブ姿の人影が浮かび上がった。

 こいつがモードラ=ルディナって奴の現れ方だ。いつだって、こいつは俺の心臓を止めにかかってるんじゃないかと思うんだ。


 初めて姿を現した時には、死神が迎えに来たのかと思ったよ。

 いきなり俺の脇に音もなく、すうぅぅっと、現れたんだからな。


 マジでアレにはビビったぜ……

お化け屋敷の事をスプーキー・ハウスという事もあるそうで。

つまりスプーキーというのは、不気味とか幽霊のようなというニュアンスを含んだ英単語のひとつなのです。

ちなみに、アメリカでは本当に『出る』とか… ガクブル ガクブル……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ