もう地球へ帰れない俺
何というか不思議なところ… つか、ここはシュール過ぎないか。
宇宙空間の中にある超巨大な、それも透明な何かで出来たトンネルの中に浮かぶドールハウスの中に居るんだぞ。
それも純和風というか、爺ちゃん家のような古い造りときている。
そこで、俺は奇妙なおっさんとちゃぶ台を囲んでいる。
キャンプ場で何があったか、話をしながらな。
話は変わるけど、この茶菓子って蓮根の粉を生地に練り込んだアレだよな。
スーパーで山になってるのを見たけど、結構売れてるんだよね。
サービスカウンターに、こいつの入った段ボールが山になるのは、この時期の風物詩… ってな。
あ、ごめん。
そのあとはさ……
「そうか、君は佐久間 結馬君と言うのか」
おっさんの名前は古城修一郎というそうだ。
元化生まれのアラカンとか言ってるけど、こんな所に居る時点で充分に怪しくないかね。
それよりアラカンって何だよ。
「わし、永遠の59歳だがなにか?」
そんな事を言いたいんじゃねぇよ!
ここはいったい何なんだよ。つかおっさん新手の妖怪とか宇宙人じないよね。
「殴るぞ!」「おぶぅっ…」
殴ってから言うなよ。
……ったくよぉ、もっと若者をいたわれっつーの。
俺の爺ちゃんも気が短いというか口より先に手が動くけどさ。
最近の老人てのは、みんなそうなのかね。
それより、ここは何なんだよ。
「ここは2つお宇宙を繋ぐ超次元通路の中だ。で、この部屋はだな、異世界召喚の術式に干渉してみた結果だ。
このままではヤヴァイことになりそうだからなぁ。
特に佐久間君、君が… だ」
やっぱ異世界召喚かよ。なんとなくラノベとか熱血小説の主人公ぽくなってきたんじゃねーの?
これが勇者召喚とかだったら魔王を討伐とか…… なんかワクワクするな。
おっさんはさ、どう思う?
「ねぇよ、そんなもん。そもそも魔王なんぞ存在せんからな。そしてあの世界は最大限に褒め称えてもあそこは中世の入り口にさしかかった… 群雄割拠の戦国時代って所だ。そして、佐久間君。君はだな……」
異世界への片道切符だと?
もう地球に戻れない?
ウソだろ……
「現状では不可能と思ってくれ。今はまだ時空間が安定していないから、発動してしまった召喚プロセスに干渉したり──キャンセルするのは自殺行為だ。
……最悪の場合は、こうなる」
いきなり俺の頭の中にイメージが広がった。
それと一緒に、説明じみたものが頭に流れ込んできたけど。
ええと……
宇宙空間に2つの球体浮かんでいる。よく見ると細い糸で繋がってるようだ。
しばらくすると糸が途中で膨らんだかと思うと、いきなり破裂した。切れた糸はそのまま双方の球体に引き込まれていくが、糸が生えていた辺りに細かなひびが入り始めて…
2つの球体は風船が破裂するように……
文字通りの意味で、粉々に砕け散ってしまった。
それもカケラひとつ残さずに、だ。
「こうなるのは数万年後の話だけどな。それでも構わんと言うなら……」
いや、そりゃ拙いだろ。
俺はそう答えるしかなかった。なぜかと言うと、だ。あの2つの球は大宇宙だという事が本能的に分かってしまったからだ。遠くにある大きなものが俺のいた所で、小さい方がこの空間の流れる先──いわゆる異世界って奴だろう。
そして、この召喚プロセスをキャンセルする事は… 不可能だ。
ときに、おっさんは神様か何かなん?
大宇宙を『外』から見下ろす事が出来るんだもん。
ふつうの人間に、そんな事が出来るはずがないもんな。
「さあ、な。お前さんが何を考えているか分からんが、俺は神なんかじゃない。それに近しい何かが出来ると言うだけの──見ての通りの人間って奴だ」
「ぜってぇ、嘘だ!」
ニマニマ笑ってはぐらかそうとしているが、こいつ何かを隠している。
自分では神様ではないというけどさ、ならあんたは何者なんだ?
ホントは魔王とか……
「言っておくが、俺は魔王でも、邪神でも、その手先でも、ないからな?」
「じゃあ、さ。異世界召喚… だっけか? 事前に防ぐとか出来なかったん?」
「無茶を言うな。創造神にだって、そんな事は出来んぞ」
言われてみればその通りか。なにせ大宇宙の姿を見てしまったからなぁ。
大宇宙は数えきれないほどの超銀河団を内包している。超銀河団は数千億とも言われる銀河で構成されていて、俺たちのメサイア=ゼロ星雲もそのひとつに過ぎないんだ。
そして太陽系は… 地球は……
「納得してくれたようでなによりだ」
「全知全能の神様にも出来ない事はある、って事だけはな」
こうなったら仕方がないな。向こうの世界に行く事は決定事項だし、地球に帰る事も出来ない。おとなしく異世界人に拉致られるしかないんだろうな。
そうなると、その先の事も考えなきゃ駄目じゃないか。
召喚される先の世界がの事とかさ……
あらあら、修一郎さんたら……