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死の淵から帰り着いた俺

 とりあえず、石像との戦闘は終わった。

 終わったけどさ…… 無事なのは、お立ち台の周りくらいで、戦場と化した地下第3層は、ほぼ完璧に廃墟だよ。

 俺の身体も、はっきり言って(自主規制)って状態だ……


『ホロン、身体の修復状況はどうなっていますか?』

『はいはーい、ほとんど終了だよぉ♪』


 ホロンが回復魔法をガンガン使ったのに、ここまで回復するのに1時間以上もかかったそうだ。どうやら内臓もいくつか駄目になっていたらしい。

 例えてみれば何回も大型トラックに撥ねられたようなものだ。

 そういう意味で、生命があっただけでも運が良かったかも知れない。


『身体に違和感はありませんか、サクマユウマ』

「……ん。特に問題はないかな」


 中身がそういう状態なんだから、当然、お出かけ服も駄目になっている。

 いくらお出かけ服が頑丈に出来ていても、ここまで酷使する事は想定していなかったから仕方がないよね。

 ホロンがスペアの服を持っていなかったら、別の意味でヤバかったぜ。


『では、着替えを済ませたら、しばらく安静にしていてくださいね。

 一時的とはいえ、あなたは生命機能が停止していたのです』


 生命機能が停止… かぁ。ホロンの話だと、俺の心臓は止まっていたらしい。

 徐々に身体も急に冷たくなっていくわで、パニくったみたいだな。

 そのうえ、医学的な──蘇生処置も受け付けなかったからなぁ……


 ホロンもリ・スィも、AED──電気ショック──から始まって、ナパーア星人用の蘇生薬まで試してみたようだが… こいつ、副作用が心配だな。

 3分近くの時間が流れ、もう駄目かと諦めかけた時に、俺はむっくりと起き上がったそうだ。


 現実問題として、人間は心臓が止まってから1分ほどで呼吸が止まる。そして、それから3分から4分の間に心臓が動き出さなかったら……

 状況によっては、冥府に向かってまっしぐら、だ。

 運良く心臓が動き出しても、植物人間になっている可能性はあるよ。


『ねえねえ宿主さん。本当に大丈夫なの? 手とか痺れてないよね?』

「大丈夫、大丈夫だから……」


 さっきからおろおろと、俺の周りを飛び回っているのはホロンだ。きちんと声も出せるようになっているんだが、これはあいつが進化… なんて事は無い。

 壺に組み込まれているホロディスプレイを調整して、立体映像を表示しているだけだよ。リ・スィも同じ事が出来るからナパーア星では普通の事なんだろう。


 実は心臓が止まっていた数分間の間に、何があったかと言うと──実は意識はあったんだよね。気が付いたら、古城のおっさんの前で正座しててさ。

 延々と説教を喰らってたんだ。たぶん半日くらい… かな。

 その時の事は思い出したくもないから、心の奥底に封印だな。


 簡易ベッドに寝かされた俺の近くに、お世話ロボットが近付いてきた。

 俺をお神輿担ぎをして、部屋のいちばん奥の部分に運んでいく。こいつも森の中にあるうさぎ屋敷から連れ戻された以来だが、今回はなすがままだよ。

 実は腹が減り過ぎててさ、自力じゃ動けないんだよね。


「……あれから時間は経っていないってのに、なんか懐かしいなぁ……」


 栄養液のチューブを口の中に突っ込まれた俺は、部屋の片付けをしている連中をながめている事にした。

 はっきり言って、今の俺は赤ん坊とおんなじだ。

 極端な話、寝返りひとつ打てないんだもん……


 ──さすがは妾のユーマ。あれだけの軍勢を退けるなんて。

『こらぁ、BBAは近寄るなぁ! 宿主さんが汚れる!』


 ホロンの隙をついて現れた、スカリット姫が様子を見に来たんだが。

 すんごく嬉しそう… つか、このひと… こんな風に笑う事が出来たんだな。

 詩的に表現すると、まるで大輪の花が開くような… そんな感じでね。

 この笑顔を見ていると、綺麗なお姉さん……


『ねえねえ宿主さん。BBAは私が引き受けるから、ゆっくり休んでいてね♪』

「あ、あぁ…… そうするよ」


 どうしちまったんだろう、俺……

 気が付くと、彼女の姿を目で追っているなんて。

 あいつがここまでの状況を招いた──イガルタでキャンプをしていた俺を、この星に召喚した張本人だというのにな。


 ゼルカ星がある宇宙の名前は、シラフェイアという。俺が生まれ育ったガイア宇宙とは超次元通路で繋がっているんだが、こいつは1方通行だ。

 ──今の君は、2度と地球には帰れない。

 そう考えてくれと、古城のおっさんも言っていた。


 おっさんは宇宙的な災害に巻き込まれた結果、この宇宙に流れ着いた… この宇宙では先輩ってとこだ。さすがにアラカンなら悟りも開けるかもな。

 でも、俺はそこまで人間が完成してないよ。

 だから、いつの日かきっと… 地球に還るんだ!


『ねえねえ宿主さん。それ無理、絶対』

「いんや、俺は諦めないからな。来る事が出来たんなら帰り道もある筈だ」


 超次元通路の流れはガイアからシラフェイアに向けて1方通行のように見えるけど、それだとおかしくないか?

 おっさんはガイア宇宙は膨張を続けていて、反対にシラフェイア宇宙は縮んでいるって言ってたじゃないか。

 こっちに色々流れ込んでいるのに、縮んでいく。膨れていくなら……


『宿主さん、この宇宙は間違いなく縮んでいるんだよ。主様は、どこかの時点で収まるっていっているけどね。それが明日なのか、それとも100万年後なのか分からないんだってさ』


 おっさんが? 確かに、そう言ったのか。

 なんでそんな事を知っているのか知らないけど、おっさんだからなぁ……

 実際、あの人は人間離れしてるよ。


「人間離れしている… か」


 俺を護衛してくれる奴らも、人間じゃないんだよなぁ… 少なくとも地球の感覚では、そういう事になる。

 その主力は、リ・スィが用意してくれた壺だな。ホロンとリ・スィが操縦する壺と、俺が乗って来たやつ… そして応援部隊の乗って来たやつだ。


 さらに、俺の脇には、最強の護衛がいる。

 皇女サマでさえも、こいつにはビビっているらしい。


 まあいいか…… とりあえずは身体の回復を待つしかやる事がない。

 こういう時は、眠っちまうのが一番…… かな…


 …ぐぅ……

魔法は決して万能ではないのです。

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