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アンティル・ジ・エンド

 今の俺が身体強化モードを発動していられる時間は、それほど長くはない。

 最大でも30分くらいしか保たないんだが…… それも半分を切った。

 時間になれば自動的にモードは解除されてしまう。

 それ以上は、俺の体力と魔力が許してくれない。


 モードを解除した俺は、ちょっと古武道が上手なだけの、15歳のガキだ。

 とても石像と戦えるようなもんじゃない。

 ホロンとリ・スィが操縦する壺も、強力だが決定打に欠けている。


 つまり視界の隅で刻々と少なくなっている数字。

 これが俺に残された寿命ってところだな。

 ははは…… 穿かない人生だったなぁ……


『宿主さん……』

「なーんて、言うと思ってんのかよ!」


 俺が死ぬ時ってのは、少なくとももうちょい先の予定だよ。

 よぼよぼの爺さんになって、縁側でひなたぼっこをしながら膝の上の猫を撫でながらだ… ってね。

 そして曾孫か誰かが、遊んでもらおうと近づいたらさ……


『それならば、生きる努力をしなければいけませんね、サクマユウマ』

『そうだねぇ…… 私も見てみたいよ。宿主さんの曾孫』


 まあ、期待しないで待っててくれ。

 そういう事だからさ、全力でいくぜ。チャンスだと思ったら、いつでも石像にマイクロ波を浴びせてくれ。

 構わないから俺ごと撃つんだぞ。


 石像を倒せなくても、動きを止めるだけでも御の字ってもんだ。


『了解…』『わかりました』


 ホロンとリ・スィとの打ち合わせは思考の中だけで済ませているから、ほんの数秒の出来事だ。

 しかしその間にも、カウントダウンは容赦なく進んでいる。


 11:28、27、26……


 減っていく数字を見た俺の心が、すぅっと、醒めていく。

 さっきまでは半分パニックに陥りかけていたけど、今は違う。

 時間が引き延ばされたような感覚と共に、バックルの宝玉が再び輝き出した。

 神経が、精神が、細く鋭く研ぎ澄まされていくにつれて、周りの音も徐々に小さくなる……


「こうなったら、とことんやったりゅあぁーーーーー!」


 そこからの結馬(ユーマ)は、ただひたすらに戦った。

 無数の石つぶてに続いて繰り出された槍を躱したところに、戦鎚が襲いかかる。

 それを受け止めた左腕が、鈍い音と共に妙な方向に折れ曲がった。

 たまらずに、ひっくり返った結馬の上を青い光線が通り抜ける。


 それが合図だったかのように、部屋の中に嵐が生まれた。

 結馬(ユーマ)が放つ無数の魔力弾が石像に降り注ぎ、弾幕を突破した石像は手に持った武器を振り回す。

 マイクロ波を浴びた石像が、次々と砂の山に変わっては復元を始めている。


 だが、多勢に無勢。

 いくら身体を強化して、超人化した結馬の肉体に限界が訪れようとしていた。

 徐々にだが、石像の攻撃を躱しきれなくなってきたのだ。


「ぐうぅ……」


 剣士タイプの石像が振り回した剣が結馬の右肩を粉々にした。

 背後から浴びせられるマイクロ波で、シールドを輝かせながら石像の腕をへし折ると、左腕で剣をむしり取った。

 そこに、再び浴びせられたマイクロ波が石像を粉々にした。


 床に転がったコアを踏み割って、その場を離れようとした結馬の背中に、別の戦鎚が襲いかかる。

 それを躱そうとしたところに1本の槍が突き出され、わき腹に突き刺さった。

 だがそれに構わずに、槍を持った石像の頭を蹴り砕いた。


 ようやく動くようになった右手で、わき腹に刺さった槍をずるり… と抜く。

 傷口から血が噴き出しながら、焼けるように痛むのをこらえながら、正面にいる石像に向けて、槍を投げつけた。


『わひゃあぁ!』


 視界の隅で、2体の石像が振るう戦鎚の一撃を受けた壺が床を転がっていくのを見ると、回復魔法での止血をを待つことなく、激痛に耐えながら移動する。


 無数の敵がひしめく戦場で立ち止まる事は、死を意味するのだ。

 全身に回復魔法の光を煌めさせながら、結馬は必死で動き回る。


 青い光を放つマイクロ波が、壁が動いたかと思えるほどの石つぶてが宙を切る。

 戦鎚が、槍が… 相手の身体に激突し、腕を、足を、そして胴体を… 砕く。


 そして……


「はあ、はあ… はあ……」


 結馬は石像から奪い取った槍に縋りつくようにして立っている。

 防御能力の限界以上の攻撃にさらされた服は、あちこちが裂け、千切れ飛び、あるいは穴が開いている。

 それでも彼は、目の前の敵に向かって不敵な笑顔を浮かべていた。


「あとは、てめぇだけ… だなぁ?」


 結馬の前に立っているのは、最後まで残った石像だった… もの。

 もはや人間の形をしていないそれは、幾度も復元をしたせいか身体からは4本の腕が生え、胴体はいびつなまでに歪んだクリーチャー……


 沈黙に包まれた部屋の中で、結馬と石像は静かに睨み合っていた。

 その間にも、タイマーは刻々と最後の時を刻んでいる……


「へ… へへへへ…… もって、くれよ… 俺の身体……」

『宿主さん?』『サクマユウマ! なにを……』


 すでに感覚のない両腕に魔力をまとわせると、槍を構えた。


「道連れにしてでも、あいつを粉々にしてやるぜっ!」


 きっ… と、前を向いた結馬は、これが最後とばかりにクリーチャーに向けて走り出した。


「うぅおおぉぉ──っっ!!」

遂に佐久間君は、最後の敵──クリーチャーに突撃しました。

彼を待ち受けている運命は、果たして生か。それとも……

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