謳われざる戦士たち
完全装備で地下第3層に乗り込んだ俺だったが、そこで俺を待っていたのは、予想をはるか斜め上を突っ走っている存在だった。
そこにいたのは……
──ねえ、ユーマ… どうして近くに来てくれないの……
……花嫁衣裳に身を包んだ、皇女サマ──スカリット姫──の幽霊だ。
どうしてそうなったのか全くもって謎なんだが、彼女の頭の中では、だよ?
俺が皇女サマにプロポーズ→皇女サマは受諾。返礼品を俺に→純白の衣装を着て返礼品を身につけた俺が皇女サマに会いに来た→結婚成立!
ちゃんと立会人もいるし、あとは王家主催の披露宴を盛大に…… だとぉ?
皇女サマの幽霊と結婚して──ゼムル帝国の王家に入り婿しろってか?
『私としては賛成できないけど… 宿主さんがその気なら止めないよ♪』
「ちょ、おま……」
さっきも言ったけどさあ、俺はまだ15歳だぜ?
皇女サマはオトナだけど…… それ以前に、彼女は死んでるんだぞ。
俺も儀式としての冥婚──死者との婚礼──については、全く知らない訳じゃないけどさ。
でもそれは、未婚のままこの世を去った人を供養するためのものだ。
たしか故人と、架空の配偶者の婚礼を絵馬に描いて、お寺に奉納するんじゃなかったかな……
でも、この場合は色々と間違っちゃいませんかね……
ごとり……
妙な音が聞こえた俺は、視界の隅で動く物を見た。壺の爆発に耐えた石像が動き出すと、床から何かを拾い上げている。
『サクマユウマ。石像が再起動を…… 危ない!』びゅぅっ!「おわあっ!?」
とっさに身体をひねって躱したそれは…… 壊れた石像の残骸だ。
はっ、と残骸が飛んできた方向を見ると、筋肉ダルマっぽい石像が次の残骸を拾い上げると、俺に向かって投げつけようとしている。
『壊れた石像も復元を始めたようですね。どうします、サクマユウマ』
まさか… って思いで、部屋の入り口のあたりを見たら…
壁沿いに転がっている石像の残骸の中から、コアが浮かび上がっているのが見えた。
厄介な奴らだよ……
『わ、わ、わ… このままじゃ拙いよ、宿主さん。どうしよう……』
どうするもなにも、石像は部屋の入り口に集まっているから、どうしようもないね。放っておいたら、また襲ってくるのは間違いないだろ。
だとすればさぁ…… んっ!? 皇女サマは何してるんだ?
──石像たち、私の言っている事が分からないの? 止めなさい!
何やら必死になって、石像に訴えかけているようだが…
『ねえねえ宿主さん。部屋の入り口近くに… 新しい石像があったよね……』
……ふむ。あのテレビ漫画っぽい──俺が見ても今風カッコイイ──奴か。
そういや動いてるのは、あいつらだけだったが……
問題はあの爆発を耐えて、石像が生き残ったって事だなぁ。
どうやら、コアを作ったのは間違いなく皇女サマだろうけど、コントロールが上手くいっていないみたいだ。復元の終わった石像は、ちらりと皇女サマを一瞥すると、俺の方に歩いてくるんだからな。
『サクマユウマ、復元した石像は16体です。ホロンが操縦していたザーラルの爆発だけで7体だけは破壊できたようですね』
「嬉しくもあり、嬉しくも無し…ってとこかなぁ」
再起動した石像は皇女サマの命令に従う気はないらしい。そればかりか、あの13体の石像は俺を殺る気で一杯だね。3体のメイドさん石像が壁から離れないのが、唯一の救いだよ。
だって、あのメイドさん石像を壊したら──壊さなかったら俺が死ぬけど──きっと後悔すると思うんだ。
それに対して、こっちの戦力は俺と、壺は… 残機が2機。
身体強化モードの残り時間は……
『リ・スィが持っていた凝縮口糧で延長できた時間は10分程度かなぁ。
ウインドウに残り時間を表示しとくね♪』
それでも18分か。刻々と数字が下がっている様子を見ながら、俺は近づいてくる石像を睨み据えた。
かなり強引だけど魔法が使えるから、さっきよりは作戦の幅が広がるか……
『サクマユウマ、ザーラルのエネルギー炉を全力運転させました。
あなたの残り時間が5分を切った時点で、ザーラルを1機爆発させます。
その爆発にまぎれて脱出しますからね!』
それって、何気に拙くない? ここは地下だよ? さっき壺が爆発した時に、崩れなかったのは奇蹟だと思ってたんだけど……
『サクマユウマ、あなたにレティーシスの加護がありますように……』
うわあああ!
なんか知らんけど、それ神様っぽいんですけどぉ?
それ間違いなくナパーア星の神様の名前ですよねぇええ?
ひょっとして、運を天にとか…… うおっ、ウインドウが切り替わった!?
『そうと決まれば、作戦開始です。サクマユウマ、覚悟を決めてください』
ディスプレイに、ロックオンした石像にアイコンが追加されていく。
それぞれに番号が付いているから、この順番にやれって事だな。
オッケ、じゃあ… やるか!
『サクマユウマ、マイクロ波を放出します』
リ・スィがコントロールしている壺の目から、マイクロ波がほとばしった。
ほの青く光るそれは、見事に先頭を歩いている石像を捉えると、石像は動きを止めた。だが石像が次の一歩を踏み出した途端に、全身に細かいヒビが走ったかと思うや否や、石像は灰の山が崩れ去るように崩れ去る。
俺は土煙の中に浮かびあがった、コアに向かって猛然と走り始めた。
「そこだぁ!」
赤黒い光を放つコアは復元を始めようとしたが、俺のパンチの方が早かった。
戦果を確かめる前に、あちこちから無数の石つぶてが襲いかかる。
マントで石つぶてを防ぐと、床を転がりながらその場から離れたが……
日本でも高出力マイクロ波で岩石を砕く研究が進められています。
細かい数字や仕様の違いから完全な比較はできませんが、装置の出力だけを比べれば家庭用電子レンジの100倍くらいだとか…