幽霊に憑りつかれそうな俺
俺です。つるつる洞窟の地下第3層の最奥部の部屋で出逢いました。
そして幽霊の呼び声に耐えています……
でも、そろそろ限界かも知れない。なぜか、あの声に逆らう事は……
逆らってはいけな…… うううっ… チ・ガ・ウ!
ダメだ… 逃げ出そうにも、身体が言う事をきかな……
『宿主さん、もう少しだけ頑張って!』
ホロン、か……
『サクマユウマ。援軍が到着するまで耐えてくれれば状況は逆転できますよ』
リ・スィも……
──ねえ、ユーマ。そろそろかくれんぼもお終いにしませんこと?
……くそぉ… やっぱり駄目だ。そろそろ限界!
こうなりゃヤケだ。やるだけ、やったりゃあああ!
意を決した俺は、がばっと立ち上がると、ぱぁんと両手を打ち鳴らした。
そして息を大きく吸い込むと、ありったけの気合いを込めて……
「アジャラカぁっ!」
──ひいっ!?
幽霊は大声を出した俺から、身を守るかのように、両手を前に出していた。
その姿を見た俺の頭の中が急にはっきりしてきたぞ。
ようし、ここは気合いで乗り切るしかな……
──それが、あなたの世界の魔法? そっ、その程度で私に勝てるとでも?
くそっ…… また、じわり…と頭の中が締め付けられるような感じがしてきた。
何か訳の分からないモノが俺の頭の中にしみ込んでくるような……
だんだん頭の中がほんわかとして…… うっ、いかん… きっ、気合いだぁ!
ここで踏ん張らなかったら、マジでヤバい事になるっ!
「あじゃらかもくれぇぇんっ!」
なまんだぶなまんだぶ…… たっ、頼むから成仏してくれえぇええ!
俺は手を合わせたまま、心の中に浮かんできた呪文を唱え始めた。
──無駄な事は、おやめなさい……
何か言ってるようだけど、こっちも必死だいっ。
あの、じんわりとした何かが俺の頭の中に入り込んで来ようとしている。
これは、俺とあいつの… 精神の戦いだ。
今はまだ我慢できるけど、あれが入り込んでしまったら……
若い身空で幽霊に憑り殺されたくないぞ!
──さあ、ユーマ?
くっそおおお!
「……てけれっつの、ぱあっ!!」
俺は、気合を込めて最後の言葉を… 唱えた。
──くううっ…………
「…………やったか?」
幽霊は… 動きを止めてたようだが… だっ、ダメ… だった?
目の前の幽霊は、重苦しい沈黙を振り払うように笑い出した。
──ふ、ふふふふふ…… 耐えたわよ。あなたの魔法。
さあ、ユーマ。こっいにいらして……
うわあああああ!?
『黙れBBA!』
扉が砕け散る凄まじい音と共に、ふたつの壺が部屋に飛び込んできた。
おわぁあ? …びっくりした。心臓止まるかと思ったぜ……
ふと声がした方を見ると、あれれ?
「壺が3つに…… 増えた… ?」
『そんな訳ないでしょ! 可愛いホロンちゃんが宿主さんを助けに来たんだよ』
『私もいますよ、サクマユウマ』
……ホロン… だと? そしてリ・スィ?
よく見たら扉の残骸が、辺りに散らばってるな。
という事は、ここまで物理で?
──無礼な!
幽霊は飛び込んで来た壺を、きっ! と睨みつけた。
壺はぶるりと震えると小さな人影が飛び出した。
良く見ると光の粒で出来てるみたいに見えるんだが……
『離れろ、BBA! あんたなんかに宿主さんは渡さないんだからね!』
壺の中から現れたすそれは、幽霊に向かってまくし立て始めた。
BBAって…… ひょっとしてお前… ホロンなのか?
でも、どうして? お前、実体化できたのか…… ?
──なんという物言いを。いくら土の精霊とて、妾への暴言は…
『亡者は亡者らしく、とっとと成仏しなさいよっ!』
──むっきぃいいい! 私は亡者なんかじゃないわよおっ!
……どうしてこうなった?
つか幽霊って… どうみてもスカリット姫だよね? 皇女サマだ。
でもなんでこんな所にいるんだろう。地縛霊になってしまったなら、祭祀場にいてもおかしくはないけどさ。
俺の事をそっちのけで言い合いをしている2人は放っておくとして、だ……
問題はもうひとつの壺だが。
『なんとか間に合いましたね、サクマユウマ』
これは、どういう事なんだ?
さっぱり事情が分からないんだが……
『サクマユウマ。この部屋で検出された電磁波の事を憶えていますか?』
ああ、10ヘルツくらいって… 脳波に似ているって話だったよね。
それがどうしたって……
まさか、その電磁波って……
佐久間君が唱えた呪文は、良く知られていたもの… かも。
ただし昭和40年代前半あたりまで… と、注釈が付きますけどね。