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皇女が気にするアイツ

 いったい、妾の身に何が起こったというのかしら。


 妾は異世界からユーマを召喚する事に成功したのは間違いないの。

 あの時のユーマは、とっても可愛かった…… あれはまさに貴人。

 キシュカも可愛い方だけど、あの子は次元が違うのよ。


 あの子に初めて逢ったのは、異世界召喚に成功した、あの日。

 ユーマは妾に、ひとつのプレゼントをしてくれたのよ。

 異世界から渡ってきたというのに… ずいぶんと消耗している筈なのにね。

 それも妾と目が合った、まさにその瞬間にプレゼントをくれるなんて……


 それから何があったのかは、よく憶えていないけど…… 妾ったら、あの子からのプレゼントに感動し過ぎて、どうかしてしまったのかも知れないわ。

 だって、こんなに嬉しかった事は、生まれて初めてなのよ。


 何故なら、妾には本当に親しい人なんか、ひとりもいないから。

 王宮には大勢の者が働いているし、帝国の国民は600万人にものぼる。

 でも、そんな大勢の人に囲まれていながら、妾はひとりぼっちだった。

 運命の神がいるなら、呪ってやりたいくらいにね。


 なぜなら妾はゼムル帝国皇帝の第1皇女だから。

 皇女と言うだけで周囲の──私が小さい時から世話係をしている爺やも、妾に対して壁を作る。


 そして妾は──とびっきりの… とか帝国最強の… という単語が付いてまわるほどの──魔法使いでもあるから。

 だけど、同じ魔法使いたちも… あまりにも違い過ぎる魔力量が、壁を作る。


 魔法使いだという、ただそれだけの事で、父や弟が… 血を分けた家族が。

 妾に向けて壁を… 作る。


 でも、ユーマは…… あの子を召喚したのは私だという事を知っているはず。

 なのに、プレゼントを… それもお手紙を手渡してくれたんだもの。

 女にとって、これ以上に尊いプレゼントはあり得ない。

 このプレゼントがどんな意味を持っているかなんて、言うまでもないもの。


 だから、父──皇帝にはユーマについて、こう言うつもりだったの。

『異世界召喚には成功しました。しかし、この者は勇者ではありませんでした。

 何の力もないただの小娘に過ぎませんでした』……ってね。


 誰が何と言おうと、あの子は私のもの。

 父が、弟が何をほざいても関係ないわ。

 あの子は私のもの。誰にも、渡さない。

 ええ、絶対に、絶対に…… 渡さない。


 それなのに……


 お手紙を貰って舞い上がっていた私が、ふと我に返ると……

 祭祀場の地下に作り上げた、私だけの秘密の部屋にいた。


 祭祀場の地下には、食糧倉庫おあつらえ向きの部屋がひとつだけ。

 表向きはそう言う事になっている。

 しかし妾は実際にはその下にも部屋がある事を知っている。

 そこでモードラ=ルディナという人物に出逢ったのだから。


 正確には、ゼルカ星の科学者グループが原形質保存装置に自らの記憶を集積させる事で生み出された、自我を持ったコンピューターシステムに。

 彼らは約230年前に起きた大破壊を生き延びたというのだけど……

 残念ながら大破壊について記された古文書はない。


 今までに分かっているのは吟遊詩人の古い歌集に『星の海に挑む舟』という謡曲が記されている… くらいのもの。


 大切な事は、モードラの存在を父に知られてはならないという事。

 あの愚物はゼムル帝国の皇帝でもあるのだが、自分で理解できないモノを怖れている。間違いなく地下室を破壊するよう、命令を下すに違いない……


 それを踏まえて、妾はモードラと幾度も話し合ったのよ。

 彼らとの間に色々あったけれど、この地下第3層は妾だけの秘密の部屋にする事に成功したわ。それから少しづつ内装を整えて、侵入者対策を整えて。

 その間にも異世界召喚の準備は着々と進められて……


 そして、運命の日がやってきた。

 妾はあの子──ユーマを召喚する事に成功したのよ。

 でも魔方陣が不完全だったのか。それとも、大魔法を発動した対価なのか。

 今度は妾が、この部屋に囚われてしまったらしい。


 それから4か月余りが過ぎて……


「あの子が来てくれたの?」


 それは諦めかけていた… まさに福音を授かったの!


 ──姫からは、さんざん惚気話を聞かされているからな。

 とにかく、第2層のカメラからの映像を送るから確認してほしい。


 その映像は魔の森の地下で土の精霊が見せてくれる映像に比べれれば、とても粗末なものだけど。

 それでもモードラが見せてくれた映像は、妾に大きな衝撃を与えた。

 妾があの子を… ユーマを見間違える筈がない。


 ……どうしよう。さすがにこの姿では刺激が強すぎるかも。

 ねえモードラ。私の着る服、どうにかならないかしら。

 だって、あの子が着ているのは、純白のドレスなのよ。

 それに妾のティアラを身につけてくれたの。


 ──それは良かった。おめでとうと言わせてもらうよ。


 そう。これで決まり… だ。


 純白の衣装を身にまとい、お手紙を渡した相手の元を訪れる。

 それが、お互いの人生を相手に預ける事を宣したという事だから。

 ドレスを着ているのは… 細かい事は気にしないわ。

 子供が欲しかったら、養子でも何でも方法はいくらでもあるもの。


 本来なら、こういう事は皇帝の娘である妾には守るべきルールがある。

 それは、皇帝たる父の裁可が必要だということ。


 でも、そんな事はどうでも良いわよね。


 だって私はもう29になるのよ。春を迎えれば…… 政略結婚ですら、相手を選ぶのが難しくなる年齢に突入… すでに手遅れだけどねぇ。

 それも何もしない──あまつさえあの手この手で妨害をした──皇帝が悪い。


 愚弟は妾のする事に反対する筈がないでしょう。

 そして、愚物には事後承諾をすれば充分です。

 さあ、これで妾たちの進む道に障害はありませんことよ。


 早く来てくださいまし、ユーマ……

うひょひょひょ…… あたしゃ、コレが描きたかったんだ。

わたしゃ腐ってないよね? まだ大丈夫だと思ってるけど。

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