人工知性体にいじられる俺
はあはあはあはあ…… あの石像はヤバかった。
いやそのマジで… その…… デカかった……
ぬおおおおおお! 煩悩退散、煩悩退散!
『とまあ、宿主さんがリラックス出来たところで……』
……ええと、ホロン。どゆこと?
『宿主さんのバイタル、凄い事になってたから。ちなみにこんな感じ♪』
ウインドウにひとつの表が表示されて… BPM? BPI? なんじゃそれ。
さっぱり分からないんだが。これがどうかしたのか。
『心拍数と血圧のこと。左側が宿主さんのデータ。右は正常値だよ♪』
げ。マジか… 危険域を超えて… 正常値の倍を越えてないか?
それってどういう… なんだって? 場合によっては死ぬかもしれない?
たしかに急に血圧が200くらいまで上がったら、はっきり言ってヤバい。
緊張し過ぎてて、事に気が付かなかったのかな。
『今はもう元に戻っているから大丈夫、あの部屋に入ってみよう♪』
たしかに、身体が軽くなったような気がするな。
じゃあ、行くか……
俺は壺を操縦すると、通路の突き当りまでやってきた。階段室の時と同じようにティアラからは澄んだ音が聞こえてくる。
えっ、と驚いて辺りを見回すまでもなく……
左側には、今まで見つけたどれよりも立派な扉があるんだ。
大きさもそうだけど、すんごくゴージャスな造りになっているんだよね。
こんなの外国のお城でしかお目にかかる事なんて無いだろう……
そういう扉なんだよ。
でも本当に入って良いのかな……
『ここまで来て何を言っているのですか、サクマユウマ』
『やっぱり宿主さんったら、あの石像が気に入ったんだねぇ♪』
やかましいやい!
本能が警告を出してるんだよ。ここはヤバいってなぁ。
だから念には念を入れてだな……
『そういう事にしておきましょうかね……』
リ・スィは、ヤレヤレと言った口調で… なんか溜息をついてないか?
しゃーないな、これ以上あきれられないうちに、扉を開けるとしようかね……
ティアラをかぶり直して、扉のノブに… ノブに……
ちくしょ、壺に乗ったまんまじゃ手が届かないか。
壺のコントロールはリ・スィに任せるしかないかな。
俺は壺から降りると、改めて扉の前に立った。
こうしてみるとやっぱり大きいな。
俺が近づいただけで、扉は軽いきしみ音を立てて開いたんだが…
「……なんで壁?」
相変わらず澄んだ音が続いている。扉は開けたよね?
自動的に扉が開いたって事は、この扉には魔術的なからくりが仕込まれているんだと思うんだが。
扉が開いたら、普通は部屋の中に入れるもんだろ?
『宿主さん、呪文! 階段室と同じシステムなら、呪文を唱えなきゃ!』
んんんんん? 呪文だと?
「ああ、そうか…… 開けゴマを忘れてたか」
……ホロンの言った通り、扉が開くように念じるだけで良かったよ。
音もなく扉がスライドすると、部屋に入れるようになったんだ。
リ・スィ、ソナーを頼むよ。
『この部屋は、今までのものよりも広いですね。危険は無さそうですが……』
俺はおそるおそる部屋の中に足を踏み入れる事にした。
天井までの高さは… すごく高いな。2階層くらいはありそうだ。そして、部屋もすごく広いんだよ。
冗談抜きで、ザ・外国のお城って感じの部屋だ。
それも、部屋にいるのはお姫様って感じのなぁ……
「ん? あれは何だ?」
部屋の真ん中には、お姫様の部屋に似つかわしくないモノがあるんだよ。
直径2メートルくらいの……
『ステージか、お立ち台… っぽいねぇ』
そうそう、そんな感じだ。親父が言ってたのを思い出したぜ。
この円形のステージはディスコにあるお立ち台… っぽいものだ。
シンプルなんだが、どう見ても合金製にしか見えないぜ……
そして、その真ん中あたりに……
そいつはいた。
じぃぃぃっと見ていたんだが、淡い光のもやのよう感じのものだ。
深い霧の中で提灯を灯したような感じ… だが。
どうやら、俺の本能はこいつを危険なヤツと感じているらしい。
たしかに不思議な光景だって思うけどね。
『そこから離れて、サクマユウマ。低出力の電磁波を検出しました』
『ううん… 10ヘルツくらいだけど… だんだん上がっているねぇ』
ずいぶん低い周波数じゃないか。俺はまた菫外線でも出ているかと思ったぜ。
それなら身体に害はないと……
『とんでもありません。この帯域は、生物の脳髄が放出するものと同じものなのです。波形パターンから推測すると… 間違いないですね』
ええと、脳髄から?
人間の脳は電磁波なんか出してたか?
『宿主さん、リ・スィが言っているのは脳波の事じゃないかな』
脳波… だと?
じゃあ、このステージってのは、『そういうもの』が……
人間の脳波は周波数によって、4種類に分類する事が出来るそうです。
眠っている時と起きている時の脳波の違いは… なんて話は時々テレビで出てきますよね。