地下第3層に進んだ俺
立坑を使って第3層に降りたん俺たちだが……
降りた先にあったのは扉だ。ティアラから音がするから、間違いないだろ。
『ねえねえ宿主さん。もっと早く階段室を見つけていたら、放射線の壁は関係なかったかも?』
「……お前も容赦ないな」
『へっへーん、さっきのお返しですよーだ♪』
あの時は、このティアラは皇女サマの遺品だと思ってたんだよ。
それに、こんな機能があるなんて誰も想像していなかっただろ。
王冠とかティアラ…なんてものは、飾りなんだ。それ以上でも以下でもない。
変にギミックを仕込んで、そいつを悪用されたら、アウトじゃないか。
『ここが地球なら、そうかもねぇ?』
ぐぬぬ…… そうかも知らない。
いくらゼルカ星人が地球人と思考パターンが似ているとはいえ、地球の常識がそっくり当てはまるとは限らないよね……
「とっ、とにかく扉を開けるぞ!」
さっきと同じように扉が開くように念じたら、扉は音もなく開いたよ。
そして、さっきと同じような通路がある。正面の壁の向こうは、間違いなく円形ホールの続き──下の部分だと思う。
問題は、左側に伸びる通路だね。
ここもてっきり回廊だと思っていたんだけど、右側は壁になっているので左側にしか道はない。でも照明があるし、ソナーの探知結果から危険は無さそうだ。
そう思って通路を進み始めたんだが、違和感が、とってもいい仕事をね……
『どうしたのです、サクマユウマ』
俺の本能が叫び声を上げているんだよ。
──この先は危険だ。早く逃げろ! ってね……
そのくらいに、この通路は異質なんだよ。
通路の高さや幅も他の所と同じ仕様だし、第2層と同じように照明もある。
ソナーだけじゃなくて、宝玉の瞳で調べてもおかしな所は無い。
だけどな……
『ねえねえ宿主さん。なんか雰囲気がヤバくない?』
やっぱりホロンもそう思っているのか。
この通路には、何かこう…… 違和感があるんだよね。
それを何と言って説明したものかな… とにかく雰囲気が全く違うんだ。
なんとなく、砦に建っていたあの屋敷に似ているんだよ。見た目がそっくりとかじゃなくて、雰囲気がね。そこはかなくゼムル帝国が… 漂ってくるんだ。
「時間はかかるけど、ゆっくり進んでいくしかないな……」
壺はのろのろと… 歩くスピードの半分くらいで通路を進んでいく。
操縦している俺の緊張度はMaxなんてもんじゃない。
トラップなり何なりの防御機構が隠されていないとすれば、大した自信家だよ。
だから、何かを潜ませている筈だ。
はうぅ…… 何となくお腹が痛くなってきたぜ。
『トラップのたぐいは見当たりませんよ、サクマユウマ。
それから、壁の装飾の事ですが…… ゼムル帝国の様式だと思いますけど…
まだ新しいですね。材質に含まれる水分が均一ではないので』
俺の緊張とは裏腹にリ・スィは通常運転だなぁ。
「まだ新しい… だって?」
ところどころ取り付けられている壁の装飾品──飾り壁みたいなものに近づいてみた俺も、リ・スィが言いたい事に気が付いた。
確かにこいつは新しいものだ。これは素人でも分かると思うよ。
「……そうみたいだな。微かに塗料の匂い… これテレピン油か?」
『それっぽいねぇ。松の木なら砦にも生えていなかった?』
だよね。
テレピン油の原料は松の樹液や松脂だ。ヤポネス語では松根油と言うんだが、匂いが独特だから、すぐにそれと分かるよ。
そうそう、もうひとつの違和感は壁に沿って立っている石像なんだ。
デザインや大きさは色々あるけど、平均すると俺より少し背が高いくらい…
いわゆる等身大ってやつかな。
そして表面の風化具合から、加工したのは比較的最近の… 今から50年以内に作られたものらしい。
その姿も様々だ。いかつい戦士のものから……
『これは魔法少女? かなぁ…… でも体格はオトナだし……』
『石像のモチーフはファージャからの引用でしょうか。スカ・リトが提供してくれた書籍にある図版との間に、高い類似性が見られます』
違和感の正体は…… まさに、こいつらなんだよな。
派手だけど決して下品に見えない装飾や石像は、つるつる洞窟が作られた時代よりも、ずっと後のものだ。
そいつは間違いないよ。
この装飾壁──ダミーだが窓もある──が違和感の正体ってわけだ。
そこに石像が並んでいるから、いやでも人がいると分からされるよ。
そして何よりも太陽の光に近い、照明の色がな。
それに地下第2層には何も無かった。大理石の壁が続いていただけだ。
ところが、ここは照明の色さえも違うんだ。
第2層は蛍光灯のような純白だったけど、ここの照明は黄色がかった──いわゆる昼光色──なんだから。
『その視点から考えると、確かに奇妙ですね……』
そして、石像はゼルカ星に伝わるファージャという物語集がモチーフと言っただろ。ええと、地球だと今昔物語集みたいなものかな。
こっちは英雄譚や神話の集大成だから、ボリュームも相当なものになるらしい。
古城のおっさんのデータにも、それくらいしか書いてないんだな。
『ねえねえ宿主さん。それは自分で読めって事だと思うよぉ。楽しみだねぇ♪』
『私もですよ、サクマユウマ。スカ・リトから受け取った資料は断片なのです』
そいつは後で考えようか。
石像の事なんだけどさ、テレビ漫画っぽいのは最近のデザインだと思うんだ。
階段室に近い方の石像とはデザインが──仏像と漫画の登場人物くらい違うと思うんだよね。
違和感なんてレベルを通り越して、ホラーっぽくないか?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ