地下第2層に進んだ俺
俺の目の前には幅は4メートルもある巨大な扉がある。
大理石で出来た扉の厚さは10センチ。そして、その裏にある円形ホールを突破しなくては、この先に進む事は出来ないんだ。
その程度なら、パンチ1発で粉砕できるだろう。
問題は、扉を壊した後… だな。
扉を修理したって事は、向こう側には誰かがいるって事だ。
そいつが友好的だって保証はない。つまり扉を叩き割った後に、カウンターアタックを喰らう可能性もあるって事だ。
だったら、壺を衝突させた方が無難だな。
『待ってください、サクマユウマ。何をするつもりですか?』
「何を… って?」
妙な事を言うなよ。目の前の扉をブチ壊すかなにかしないと、この先には進めないんじゃないか?
前回は階段から転げ落ちた勢いのまま、ボウリングのボールのようにごろごろと転がっていったけど…… 今回はまっすぐ飛んで、扉に体当たりをするから、だいたいこの辺りからスタートすれば……
じゃあ、やってみるか……
『扉… ですか? そんなものはありませんけど?』
へっ!? あるだろう! 目の前に、俺の乗ってる壺の1メートル先に。
厚さ10センチの大理石の1枚板で出来た扉がさ。
なんでリ・スィには分からないんだよ……
『ねえねえ宿主さん、あの扉を調べ直してみたけど、なんだか変?』
「なんだよホロン、お前まで何を言い出すんだ?」
『ソナーの反応を調べ直してみたけど… 反応にムラがあるんだよぉ』
壺のソナーは超音波を出している。そいつが何かにぶつかって、戻ってくるまでの時間から周りにある物体を探知する。
そして物体の硬さによっても、超音波の戻り具合は変わる筈だが。
「……そんなバカな事があるかよ。あれは大理石だろ」
『サクマユウマ。データーの検証を提案します』
アレが大理石なら…… いや、ホロンの言う通りだな。
だとすればソナー波が当たるたびに扉の硬さが変わるって事か。そうじゃないと、この反応は説明がつかない。
そして、さっきはリ・スィは、扉は無いと言っていたな……
「だとすると、あの扉… この場合は扉に見えるだけで…」
『立体映像みたいなものかも……』『蓋然性は87パーセント。高度な光学偽装である可能性がありますね』
じゃあ下手に突き抜けようとしたら、ホールの反対側の壁に激突していたって事か。もしも、その壁がとんでもなく頑丈なものだったら……
頑丈に出来ている壺は無事かも知れないけど、乗っている俺は──怪我で済めば良いけど──下手をすれば死んでいたかも知れん。
……ごく。
じわりと、背中に嫌な汗が浮いてきた。
リ・スィが止めてくらなかったら、間違いなく壁に体当たりしていただろう。
凄いな、これがナパーア星の探査宇宙艇の性能、なのか。
これで搭載艇だもんなぁ……
『当然の帰結ですよ、サクマユウマ。私たちは完全無欠の存在なのですから』
いやはや、扉を1枚通り抜けるだけでこの有様だ。
これで分った事と言えば、このつるつる洞窟が稼働し続けている遺跡だって事だけだ。こいつを収穫と見るか、骨折り損と見るか……
うん? 扉はどうなったんだって?
通り抜けたよ。それも実にあっさりとなぁ……
壺に乗ったまま、ゆっくりと壁… の立体映像に近付いて……
「その前に、放射線シールドジェネレーターを……」
『もう作動させてありますよ、サクマユウマ』
じゃあ、あとはこのティアラでも装備しておくか。祭祀場の隅に転がっていたのを拾っておいたんだよね。リ・スィがヘルメットを作ってくれているようだけど、今回の冒険には間に合わなかったんだ。
『宿主さんも物好きだなぁ…… それはBBAのアクセサリだよ』
「こんなモノでも無いよりはマシだろ」
『どうでも良いから、先に進みませんか? バッテリーの作動時間には限界があるのですよ』
というわけで。
そのまま壺を前進させたら、何の抵抗もなく扉を通り抜けたんだよ。
円形ホールに入ると、放射線の壁は消えている。そして、扉の残骸は……
『扉の残骸を動かした形跡はないねぇ』『いいえ、あそこにあった残骸が…』
視界の中では、ウインドウが表示されてアイコンや矢印がぴこぴこ動き回っている。要はこの奥には誰かがいて、扉の修理をしている途中だって事か。
姿が見えないのは、俺たちがここに来たので、どこかに隠れてたのかな。
「とにかく、行ってみっぺかねー」
俺は壺を操縦してホールの中心に開いた穴に入ると、ゆっくり降下していった。
下の階の床は、だいたい3メートルくらい下… ってところか。
「ここも円形フロアだなぁ。ひょっとして繋がっているのか?」
『その可能性はあるかもねぇ。あれだけの高エネルギー放射線を出すための装置が全く見当たらないもん』
という事は、まだまだ下があるって事か。
『その推定は正しいと思います。見てください、サクマユウマ。どうやら、この階層は生きているみたいですよ?』
俺の目の前で、音もなく扉が左右にスライドしているじゃないか。
まるで電車のドアみたいに、ゆっくりと扉が壁に吸い込まれていくんだ。
驚いたね、ゼルカ星で自動ドアを見るとは思わなかったよ。
こうして、地下2階に進入した俺たちだが……
『サクマユウマ。この階層は、通路しか無いかもしれませんよ』
『ねえねえ宿主さん。下に階層があるのかも。わくわくしちゃうねぇ♪』
ホールを出たら、ちゃんと照明された通路が伸びていたんだが。
階段が無いだけで、上の階と似たような構造だ。ソナーで調べてみたけど、隠し部屋も見つからないんだ。
でも、ここが終点とは思えないんだよね……
佐久間君は、無事に地下第2層に。ここは照明が生きていたので、ひと安心。
まだまだ先がありそうですが……