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新装備に振り回される俺

 新装備一式を身に着けた俺は、その足でトレーニングルームに行く事にした。

 トレーニングルームと言っても、リ・スィに頼んで小さめの倉庫をひとつ開けてもらっただけなんだけどね。


 目の前にいる誰よりも、早く動き、高く飛ぶ。

 ただそれだけの事をするために、毎日稽古を繰り返す。

 それを怠れば、立っているのは敵。そして地面に這いつくばるのは俺… だ。

 だから、今日も俺は稽古をする。


 腰を落とすと足裏全体で、しっかりと床を踏みしめて。

 右足を床との間に紙が1枚入るくらい浮かせて、すぅっと平行移動させると、次は左足だ。この時に注意するのは重心は低く身体全体も水平にすること。


 これが古武術の基本的な歩き方だ。爪先を使って地面を蹴り出す訳でも、足をかかとから降ろす訳でもない。

 あくまでも静かに、そして滑らかに。


「ふっ!」


 俺は右の拳を突き出すと、右腕を引き戻しながら右足を軸に身体を半回て……


 どすぅん! 「ふみゃあぁ!?」


 上半身が回り過ぎて? そのまま床に頭を… 頭……


 しばらくして気が付いた俺は、ベッドに寝かされているのに気が付いた。


 あああああ…… デコが痛てぇ。


『あ、宿主さん、気が付いた?』

『自身の運動能力を過信し過ぎましたね。いくらあなたでも物理法則は無視できませんよ』


 新しいお出かけ服は、とんでもなく高い防御性能を秘めている。

 砦の地下室に残っていた剣で斬りつけても服に傷はつかなかった。

 というより剣が当たった一瞬だけ繊維が固くなるのかな。そのお陰で衝撃もかなり吸収出来るようだ。


『それで小銃弾までは対処出来るはずです』


 それはそれで凄い事だよ。

 21世紀の地球の小銃弾は、口径が5ミだけど、厚さ5ミリの鉄板をきれいに打ち抜くだけの威力があるんだ。それを防いじゃうなんてなぁ……

 国連宇宙軍で使っている宇宙服くらいの防御性能じゃないか。


「だけど、その性能を発揮できなきゃ意味がないよなぁ……」


 そして、今回新しく作り上げたものは、放射線シールドジェネレーターだ。

 こいつはあらゆる放射線を──たとえ原子炉の炉心に放り込まれても──完璧にシャットアウトする事が出来る。そして身体に密着するようになっているから体の動きを邪魔する事も無い。


 だけど、胸の重さが──たったの1キロくらい──に引っ張られて重心を崩した挙句に派手に転ぶとはなぁ……

 挙句の果てに、ベッドに大の字になって縛り付けられて…… ええっ?


『あなたは脳に強い衝撃を受けています。安静にしているべきでは?』


 そう言って、リ・スィは作業ロボットに命じて俺の両手両足を押さえつけているんだが。逆に良くないよ、コレ。

 ストレス溜まって、安静どころじゃ……


『ねえねえ宿主さん。それじゃ気分転換をしよう。地上の嵐だけど、まるで台風だよぉ♪』


 そう言いながらホロンが地上の様子を見せてくれた。

 森の中は静かなものだが、外は凄い事になっているな…… それは良いけど、この映像は作業ロボットからのものだよね。


「台風だって? 作業ロボットは大丈夫か」


 この風で吹き飛ばされて行方不明とか雪に埋もれて… ってのは御免だぜ。

 偵察ロボットとは言うけれど、こいつらはメカじゃない。生体部品で出来た疑似生物だから、普通に生物としての弱点を持ち合わせているんだ。

 こんな事で死ぬのは……


『映像を送っているユニット以外は全部回収済みです。このユニットも木のうろの中に退避済みだから大丈夫ですよ』


 ああ、なるほどね。それならいいか。

 それにしても、すごい天気になったもんだなぁ。

 リ・スィの予測で強い風が吹く事は知っていたけど、実際は雪嵐だったか。

 こいつは別の意味では都合が良いかも知れない。


 実際のところ、毎日のようにウサギが馬車を出している。それに作業ロボットが苗木を植えまくったからな。ホロンに作ってもらった周辺の地図に作業範囲を重ね合わせると、アメーバが足を延ばすように森が砦の方に広がっているのが見てとれるよ。


 それは良いんだが、ちょっとやり過ぎたんだ。

 誰がどう見ても開拓地にしか見えないくらいにね。こんなものを誰かに見られたら拙いなんてモンじゃない。捕虜からの情報では、帝国の連中は森が再生を始めたのは異世界召喚に失敗した余波だと信じ込んでいるんだ。


 運が良かったと言えばそれまでだけどさ、魔の森と言う得体の知れないモノがかつて帝国からの攻撃で受けた傷を癒し、大量の魔力を手に入れようと砦に触手を伸ばし始めた……

 そこには人為的なモノなんか無い。あってはならないものなんだよ。


「俺たちが色々やった痕跡はこの風と雪が隠してくれるだろう。それに、もうひとつあるぞ」


この風が収まった後に雪が降り続いていても、地面に積もるのはせいぜい5センチくらいかなぁ。リ・スィがゼルカ星に来てからの10年分のデーターから考えると、だいたいそんなものだろ。

 そのくらいの雪についたモノってのは、けっこう目立つんだ。


「明後日には嵐も収まるだろ。そうしたら足跡のチェックしてみようぜ」

『サクマユウマ。足跡とは?』


 リ・スィは俺の提案を聞いて不思議そうに尋ねてきた。

 意味が分からないとでも言いたげだが、これには実際のところは重要な意味があるんだよ。

 まず、足跡をつけるような奴らってどんな奴だ?

 城塞都市の占領部隊がここまで歩いてくるかい?


『それが残存戦力だと?』


 もしくは避難民を抱えた残存戦力だな。足跡は色々な事を教えてくれるのさ。

 そいつらの拠点や規模──どのくらいの人数がいるのか──なんかをな。

 それに運が良ければ、人間の姿を捉える事が出来るかも知れない。


 その他にも、街道を使う奴はいくらでもいる筈だ。

 このあたりは、地球の常識ってのが当てはまりそうな気がするね。


 それよか、ちょっとお願いがあるんだけど。

 トイレ…… もう洩れそう……

アメリカ軍って物持ちが良いといいますか……

今から80ちかく年前に設計と製造が始まったM16ライフルを、改良を重ねつつとはいえ今でも使っているんですもの。

発射された弾丸は、厚さ6センチのコンクリート板に当たっても、突き抜けてしまうとか……

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