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気になるアイツとお姫様

 ついに見つけましたわよ、勇者様。

 妾と波長の… いえ、妾が構築した魔術に反応があったのです。

 この日のために、皆がどれだけの労力を費やしてきた事でしょうか。


 すべての始まりは2年ほど前のある日の事でございます。

 世界中から選りすぐりの賢者たちが巨大な塔を建設したのです。それは大宇宙の天蓋を越え、神のおわす園を探す旅に出発するためのもの。

 でも、その行ないこそが神の怒りに触れたのでしょう。


 賢者たちが出発して数日が過ぎたころ、世界中に何の予兆もないままに深い森が現れたのでございます。そこからは無数の──それこそおとぎ話の中から湧き出してきたような凶悪な生物が周辺地域にあふれ出したのです。


 私達とは違う系統の魔法を使い、人類に迫りくる異形の者たち。

 その生物を私達は魔物と呼ぶ事にしたのですが… 野生動物との違いは、心臓の近くにもう謎の臓器があること。

 その臓器には魔晶石が入っている事もあるのです。


 どうやら肝臓に栄養分を貯えるように、この魔力を貯える器官──強いて言うならば魔臓──とでも言えば良いのでしょうか。

 魔臓を傷つけられた個体が放つ魔法は大した威力はありませんでしたから。

 つまるところ魔臓は魔物の大きな弱点と言う事になるのでしょう。


 魔臓を持っている事を除けば、魔物と普通の生物の間には大きな違いはありませんでした。内蔵の配置も似たようなものです。それは、いかに強靭な肉体の持ち主とはいえ、的確な攻撃を加えれば簡単に倒す事が出来るということ。


 剣で斬れないのなら斧で。

 槍が通らないのなら鋼鉄の杭を使って。


 つまり強力な武器を使って的確に弱点を突けば、魔物は決して倒せない敵ではないのです。

 これは私たちにとっては大発見でした。


 でも、それはいささか遅かったかも知れません。

 襲来する魔物の対応が間に合わなかったいくつかの国は、魔物の群れに飲み込まれてしまいました。それでも、諦めるわけには行かないのです。

 諦めると言う事は、すなわち人類の滅亡を意味しているのですから……


 そして、ついに森に対する反撃が為されたのでした。

 世界中に遺されたすべての火器を総動員した戦いは半年も続いたでしょうか。

 森の樹々を焼き払い、そこに潜んでいた魔物を屠って。

 文字通りの意味での殲滅戦を展開したのです。


 わが帝国の近衛騎士団は、多くの犠牲を払いつつも森の中心部にたどり着く事に成功したのです。そこで見つけたのは古い神殿の遺跡。

 壁の多くは崩れているものの、それでも遺跡は生きて… 機能していたのです。

 なぜならば遺跡の奥に続く一部の通廊だけは、無傷だったのですから。


 そして、魔術を駆使した対侵入者システムも……


 多くの人命を費やし、ようやく攻略した遺跡の地下には1冊の魔導書が隠されていました。その解読には多くの時間と労力を費やしたものです。

 でもたった半年の戦いで世界各国の国力は大きく衰退してしまいました。


 だからこそ魔導書の解読が急がれたのです。

 これこそは、国力を回復するための手段を示してくれるかもしれません……


「姫様、祭祀場の準備は、すべて整いましたぞ」

「ありがとう、爺。それで贄は?」

「捕虜のすべてを祭壇に捧げましたぞ。そろそろ儀式の第1段階を始めても?」

「もちろんよ。すぐに始めて頂戴」


 魔導書の解読は遅々として進まなかったものの、いくつか解読することが出来た魔法がありました。それは、異界から勇者を召喚するというもの。

 そして、召喚魔方陣の図版と、使い方もすべて分かっているのです。


 父上──皇帝の命で、このズロゥ砦を半年で祭祀場に作り替えて。

 そこに魔方陣を刻み込むのに1週間。そうして起動した召喚魔方陣。

 これで、お招きすべき勇者様をお探しするのです。


 そして、栄光に包まれた今日という日を迎えたのです。

 異界にいる勇者様が見つかったのです。それならば、儀式を始めましょう。

 さあ魔導師たち、呪文を唱えなさい。召喚魔方陣を全力稼働させるのです。

 私も勇者様をお迎えする準備を始めましょう……


「ここにあるはゼムル帝国の第1皇女、スカリット・ケイティ・ゼムル。

 我は、大いなる神々に請い願う。我が元へ勇者を送り給え……」


 呪文が進むにつれて、召喚魔方陣は膨大な量の魔力を飲み込み始めました。

 そして、勇者様は魔方陣が差し伸べた手に……


 捕虜にした敵兵はすべて勇者様を召喚するための贄にしました。召喚儀式の第1段階では、贄となった者たちの肉体から生命を抽出して召喚魔方陣に注ぎ込む必要があるのです。

 こうして全力稼働を始めた召喚魔方陣は、勇者様をお招きするでしょう。


 こうまでしてお招きしなければならない勇者様は、妾たちにとってどうしてもお招きしたい御方でございます。

 解読した魔導書には、次のように記されていたのですから。


 いかなる敵をも、その身にまとう図り知れぬ力をもって叩き、砕く。

 決して戦いの場で倒れる事もなく、ただひたすらに戦う無敵の戦士。

 いかなる戦場においても、勝利する事のみを目的に戦う完全な戦士。

 それが、それこそが勇者……


 この後の部分は、劣化が酷くて解読は叶いませんでしたけれど、これだけ解読できただけで充分なのです。異界から勇者を招くことが出来たなら、帝国に降りかかる難局を打破してくれるに違いありませんもの。


 帝国が遂行中の戦争… 今のところ敵との戦力は拮抗しています。

 前線は膠着状態に陥ってしまったと言っても過言ではないのです。

 このままでは泥沼のような消耗戦が始まるのも、時間の問題… でしょうね。

 まったくもって愚かな事をするものです……


 こんな無意味な戦争は、一刻も早く終わらせなくてはなりません。


 敵は人類が衰退し、滅びの時を待っている事に気が付かないのでしょうか。

 衰退を防ぐためには、世界は一つの国家によって管理されるべきなのです。

 こんな簡単な事すら理解できない劣等民族は、浄化しなくてはなりません。

 そのためにも、妾は勇者様をお招きしなくてはならないのです。


 人類の安寧のために千年王国を建設する事が出来るのは……


 帝国だけなのですから。

こっちゃこーい、こっちゃこーい。

ぬふふふふ。

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