出来上がった新装備と俺
無事にウサギ達を連れ帰った俺は、ベッドにひっくり返ると昼間の事を思い出していた。
「放射線で出来た… 壁かぁ。
あの先に秘密がありそうだけど…… お出かけ服でも耐えられないよね」
放射線というのは高いエネルギーを持っているから、菫外線以下の波長なら武器に転用する事だって不可能じゃない。というよりレーザー光線のように方向を揃えてやればの話だけどな。
つるつる洞窟の奥の部屋には、そうして作られたカーテンみたいなもの展開されている。レーザーほど収束はされていないから放射線で出来た壁という事か。
『でも、いくら人間を卒業した宿主さんだって……』
うっせ。人間を卒業なんかしとらんわ。
ちょっとだけステータスの値が他人より多いだけじゃないか。
腹が減ればメシを喰うし、眠たくなりゃ寝る。げっぷも出れば屁もこくぞ。
どうだ、どこから見ても普通の人間だろうが……
『お楽しみを邪魔するようですが… サクマユウマ。対放射線用の装備を試作しましたから、装備してみてくれませんか』
おっ、早いな。まさか2日で出来るとは思ってなかったよ。
最悪あそこは大量の土砂で埋め立てるしかないかと思ってたところだ。
って、なんで服を脱がすんだよ…… ?
いつものように音もなく現れた作業ロボットは、着ていた服を脱がし始めたんだが… 別の奴が何か持って来たけど。
何となく胸甲──主に胸を守るための鎧──に似ているな。
完全に胸を覆うようなデザインだが……
「これが放射線シールドジェネレーター?」
『そうですよ、サクマユウマ。本来は核反応炉の炉心周辺で活動するための装備ですから、今回のような状況にはぴったりかと』
なるほどね。こいつはフィールドジェネレーターだけが入ってるのか。だとすると、他のパーツは… ああ、これか。とりあえず試着してみるかね……
俺は胸甲… フィールドジェネレーターを取り上げた。
「けっこう軽いな… 全部で1キロくらいかな」
やや横長のジェネレーターは2個で一組になっている。いちばん厚いところで15センチくらいかな。2個のユニットは両肩にかかる2本のハーネスで体の前後に振り分けるようになっているな。
で、こいつは… デカい方が背中にくるのかな? ふむ……
『サクマユウマ。前後が反対です。平たい方のユニットを背中側に配置しないとパーソナルジェットに干渉しますよ』
おおっ、ようやく出来たのか。これで3次元機動を実現できるな。これでワンピから脱出でき…… 出来ないの? なんでだよぅ……
『いいから宿主さん、はやくフィールドジェネレーターを装備してね♪』
へいへい、フィールドジェネレーターを胸の前に来るように… これだけだとグラグラするな。脇のベルトで固定できる? ……こうか?
こっちは肩のハーネスの倍くらいの幅があるが… 腕の動きを邪魔するような事も… ないか。へぇ、良く出来ているな。
そしてバッテリーは腰の後ろに吊るすのか。このハーネスで良いのか。
こっちは少し重い… 1キロくらいはあるかな。
ユニットの内側は柔らかい素材が貼られているから、体にぴったりフィットしている。これなら、少しくらい派手に動いてもずれる事はないだろ。
「なあ、ユニットが滑らかな曲線で構成されているのが気になるんだが…」
『その上から服を着るのですが? 嫌なら省略しても……』
ごめんなさいウソです。軽い冗談です。ワンピでも何でも着ますです、ハイ。
ユニットの上からシャツ… え? なんだって? シュミーズと言えと。
なんかなぁ… これもフィールドジェネレーターの部品の一部だとぉ?
基本色が桜色というのがなぁ。それもなんかスケスケで…
『サクマユウマ。これはフィールド生成用のアンテナですよ』
なるほどね。こいつがそれぞれのパーツをコンパクトにまとめた結果なんだろうな…… それに、身体に密着させる事が出来れば何があっても動きを妨害する事は無いだろう。
全くよく考えたもんだよね。
最後の仕上げとばかりに作業ロボットがパーソナルジェットを装着してくれた。
試作品に比べて、多少大型化した分だけ、重くなってるかな。
それに加えて、腰の後ろにはバッテリーがある。そいつらのせいで重心が後ろ寄りになっているけど、まあまあ許容範囲かな。
「……こいつのデザイン以外はなあ!」
『ねえねえ宿主さん。きっと似合う…「やかましい!」…似合ってると思う』
嬉しくなんかないやい!
そうじゃなくとも髪型がコレなんだぞ。加えてこの服はさぁ。
まるで……
『やっぱり私の目に狂いは無かったねぇ。やっぱり良く似合ってるよぉ♪』
大型ディスプレイに移された姿を見て、俺はへたへたと床に崩れ落ちた。
いや、服や装備の付け心地には何の問題は無いんだ。別にどこかが締め付けられているって事は無いし、逆に緩すぎるって事も無いんだから。
だけど、このかすかに感じる違和感がなぁ。
違和感は感覚のズレを生むものだ。そして、いざとなった時には生死を分ける事になる事があるという事をは、嫌っていう程に知っている。
今回は身体にいくつも重りを付けているようあものだ。
ひとつひとつは大した重さじゃない。胸に1キロ弱、背中に5キロ。そして腰には3キロくらい… か。服もいくぶん重くなった… か…
なんだかんだで、この装備は合計で10キロ近い重さがあるだろう。
いつもの感覚で歩き回るには、慣れが必要だな……
しかし、問題はそこじゃない!
「……どうしてこうなった?」
『動くのに支障はありませんか、サクマユウマ。パーソナルジェットは背中に増設したハードポイントに取り付ける事が出来ますよ。それに自動で装着するように出来ていますからね』
リ・スィは通常運転だよね。でもさ、この姿は……
『何度も言いましたが、服装のデザインについて異論は受け付けませんからね』
おおおおおおおい……
『ねえねえ宿主さん。がんば♪』
がんば♪ じゃねえぇええ!
人工知性体'sが佐久間君に新装備をプレゼント。
リ・スィが試作した装備の影にはホロンの妄想が盛大に爆発してます!?
見た目は、それまでの装備と比べても大きな変化はありませんけれど……