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姿なき門番と俺

 俺は壺の中でコロッケサンドを食べながら、地図をながめている。

 長い階段を使って、一気に地下4階まで降りると、そのまままっすぐに続く通路がある。こいつが30メートルくらいかな。


 その先に二股に分かれた… T字路になっていて、真四角な回廊に繋がっているんだ。だからT字路はどっちに曲がっても同じところに戻るんだが。

 ウサギ達は、これで混乱したらしい。何度も同じ通路を歩き回ったんだな。


 その途中で、あの平たい鏡餅っぽいものを見つけたと言うんだが……

 あれが何なのか、今のところは分かっていない。特に意味のない装飾品なのかも知れないが、大きさの割に重さが軽いってのが気になってるんだよね。


「ふぅ…… 御馳走さまでした」


 さすがにコロッケを6個分は作り過ぎだったかもね。お腹がいっぱいだ。

 しばらくゆっくりしてから探検を再開する事にしよう……


「それにしても、ここは何なんだろうな」


 というよか、もう少し壺に勢いがあったらマジでヤバかった。

 この部屋は円形のフロアで、かなり天井も高い。今までの通路の倍くらいはありそうなんだよね。で、フロアの真ん中に大きな穴が開いている。

 そこから出ている光が強くなってきた? すでに眩しいくらいになっている。


 俺は穴の底を見るために、フロアの縁まで行って下を覗き込んで見た。

 この部屋と同じくらいの空間があるじゃないか。

 …って事は、あそこの床が地下5階って事で良いのかな……


 それにしても、なんか暑いな…… 急に気温が上がってきていないか?


『…急いでこの部屋から離れてください、サクマユウマ。危険です』


 その途端に、俺をすくい上げた壺は出口に向かって急加速… ぐおおおおお、つっ… 潰れるうぅうう…… やめ… せっかく食べたコロッケパン……


 わずか10秒足らずで作業ロボットが補強工事中をしている──祭祀場の部分まで戻ってきたんだが。まったくもって、酷い目にあったもんだ。

 胃の中身を口から噴き出すかと思ったぜ。いったい何が……


『あの穴からエネルギーの放出を観測したのです。エネルギーにはレントゲン線の領域も含まれていましたよ』


 なんだって? じゃあ、急に明るくなったように感じたのは菫外線の量が増えたからって事なのか。

 気温が上がったように感じたのも、間違ってはいなかった訳か……

 よく晴れた夏の日って感じだったんだがなぁ。


『あのね、宿主さん。菫外線はともかくレントゲン線は拙いよ』


 ホロンの口調は、いつものような笑いを含んだものとは違って、どこかほっとしたようなものだった。たしかにホロンの言うとおりだ。

 レントゲン線は菫外線よりも波長の短い放射線だ。だが、それ以上短いものもあるんだ。原子核分裂反応で生み出されるガンマ線なんかは有名だろ。


 そんなのを大量に浴びたら大変な事になる。


『サクマユウマ。ザーラル(つぼ)ならまだしも、服に装備された放射線シールドでは10分くらいしか耐えられませんよ』


 ん、むむむ… こいつのせいでこの先は守られてるってわけか。

 完全攻略を目指したいものだが…… いきなり放射線ってのはなぁ。

 おそるおそる通路に戻った俺は、通路の放射線量をチェックしてみた。

 どういう仕掛けなのか、放射線が検出できるのは円形ホールだけだ。


『ねえねえ宿主さん、帰ろうよ。ここで考えていても良い事ないんだからさ』


 そうだよね。とりあえず帰るか。このままだと円形ホールから先へは進めないんだよなぁ…… 放射線シールド、か…… 宇宙服を着るしかないかなぁ。

 それも含めてコスーニに帰ったらゆっくり検討する事にしよう。


 さて、と。そろそろ、あいつらにも声をかけるかね……


「おーい、ウサギ達……」


 俺は食糧倉庫で樽を漁っているウサギ達に声をかけに行った。何やら組み立てているようだが、何を組み立ててるんだろう。

 たたみ半分くらいの縦長の板に車輪を付けて… そっか、台車か。

 うさぎ屋敷の温室で使っている台車の部品を持って来るとはな。


 台車は必需品だ。これと馬車が無かったら、あいつらも苦労しただろう。

 収穫したニンジンや堆肥を運んだり、馬車に積み込む時にな。

 巣穴に着いたら全員で運び込むそうだが、こっちの方は欲しい奴は受け取りに来るので、大して手間はかからないらしい。


 想像できるかい?

 練馬大根ほどもある、でっかいニンジンを抱えて歩くウサギの姿をさ。

 とってもシュールな風景って気がしないかい?


 ……っと、話がそれたな。そういう具合に、台車は木製だし日常使いしているから、しょっちゅう壊れるんだよね。だからいつ壊れても良いように部品は数台分を用意しているんだ。


 そう言えば、あいつらは毎日のようにここに来ては、ピクルス樽を運び出しているなぁ。運ぶのは10樽くらいのものだが、毎日ともなれば少しは考えるか。

 必要は… いや、食欲は発明の母ってところかな。


「よく考えついたなぁ。偉いぞ、お前たち」

「わーい」「皇さまに褒めてもらえたよー」


 まったく単純な奴らだよね。この程度で喜びの舞いを踊りはじめるんだもん。

 でもまあ、喜怒哀楽を素直に出せるこいつらって、凄いのかもなぁ。

 今回のピクルス樽だってそうだ。はっきり言って米俵なみに重たいはずなのに、あいつらはそれさえも楽しんでいるんだ。


『サクマユウマ。天候が変わりつつあります。急いでください……』


 おっと、いけない。

 おいお前たち、もうじき強い風が吹いて──いや、冬の嵐が来るぞ。

 急いで帰り支度を始めるんだ。


「たいへんだ!」「急いで森に帰らなくちゃ、吹き飛ばされちゃうよ」


 俺たちは急いで馬車に荷物を積み込むと、砦を後にした。

 俺とウサギ達が乗った馬車がうさぎ屋敷に帰り着くころには、冷たい風が吹き始めたんだ。


 出発が間に合ってよかったぜ。

今回はコロッケパンが登場しましたが、ひとくちにコロッケと言っても色々な種類があるものです。でもね、ある日の昼ごはんで……


父:今日は蕎麦を食べるのだあ!

私:…せっかくスーパーでコロッケ買ってきたのにぃ。

父:どれどれ…… おっ、カレーコロッケがあるじゃないか。ひとつ貰うぞ。

私:うん、いいけど… って、お蕎麦に入れてる!?

父:ふっふっふ、即席とはいえカレー蕎麦も悪くないのう……

私:何をどう言ったらいいか、分かんなくなってきた……

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