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階段を転げ落ちた俺

 今日は午後から天気が悪くなるって話だから、のんびりするとして……

 なんでも台風並みに強い… 冬の嵐が来るんだそうだ。

 ここんとこ毎日のように散歩に出かけては苗木の生育状況を確かめていたから、なんとなく手持ち無沙汰になってしまったあぁ……


 地上監視用の偵察ロボットがウサギ達の乗った馬車を見たって言ってたから、俺も少しくらいは出てもいいかも知れないんだが。


『サクマユウマ。あのウサギ達には、それなりの意地があるのでしょう』


 そうかな。ただの食いしん坊にしか見えないけど、そう… なのか?


『ねえねえ宿主さん。あのウサギ達から見れば宿主さんもオスなんだよ。

 それもメスよりも強い、規格外のオスなんだよね♪』


 オスって… 間違っちゃいないけどなんかちょっと……

 で、メスより強いオスって、どういう事なん?


『ねえねえ宿主さん。生物学のジョーシキというのを思い出してみよう』

『そうですね、この現象はどこの惑星でも共通する法則と思われますから、認識を新たにすることを推奨します』


 おおいい… それってどういう…

 ここで揉めても仕方が無いな。とにかく思い出してみるか。


 生物学の常識という程ではないが、生物は一部の例外を除いてオスよりメスの方が体が大きいし、力も強いと言われている。

 全部が全部そうだとは言わないが、生物全体で見れば… 子孫を残すメスの方が大きくなる傾向があるし、なにより持久力がある。

 瞬発力こそオスに軍配が上がるけど、出産と言うのは… な。


「つまり自然界ってのは、母系社会が普通… 女性上位が普通って事か」


 たとえば地球ではウサギってのは一夫多妻に見えるよね。だけどウサギの群れはオス中心のハーレムってわけじゃないんだ。力の強いメスが1匹のオスを独占していてさ、そのメスに従う他のメスが一緒の群れにいるって感じかな。

 つまり巣の頂点にいるのはメスだってこと。


 こっちでも似たようなものなのかもなぁ。

 だとすると、オスウサギから見た俺って……


『サクマユウマ。あなたの推論は間違っていませんよ。少なくとも、この森の生態系を観察した限りでは、ほぼすべての生物に当てはまりますから』

『例外はインゼクトくらいかも♪』


 さよか。ノミの夫婦ってわけでもないけど、地球じゃ昆虫はメスの方が大きいイメージがあるんだけどねぇ。

 金色カブトムシ(ケイファル)だけが例外的に大きいのかも知れないが……


『ねえねえ宿主さん。あと、もうひとつあるんだけど、いい?』

「あんだよぅ……」

『あの騎士たちよりBBAの方が背が高いよねぇ?』


 げげ! そうなのか? 人類の場合は男の方が1割くらい大きいんだけど?

 ここは、マジで地球の常識を捨ててかからないといかんのかなぁ……

 なんか悔しいというか… でもこれが現実ってヤツ… なのかなぁ。


 どうせ俺は小柄だ。でも男なんだよなぁ…… いや、俺はまだまだ成長期。

 伸びしろはある筈だ!


『いいえサクマユウマ。あなたは、あくまでも規格外のオスなのです』

『い~や、待ってよリ・スィ。結論を出すのは早いねぇ。サンプル少なすぎ!

 遺伝子情報だけでは分からない事もあるんだよ♪』


 そっか… そうだよね。

 そういや今日は午後から天気が… そうだ、やっぱりつるつる洞窟に行こう。

 あいつらだけを行かせたら何をしでかすか分かったもんじゃないぞ。


『それでは、乗り物を用意しますね。それから、今回は対地観測衛星のサポートは期待しないで下さい。カメラ部分が完全に壊れましたので、ユニットごと交換している最中なのですよ』


 うわ、またかよ。前回は姿勢制御系の暴走で太陽を見ちゃったって。あの時は『ブレーカーが落ちた』状態だったから、すぐに復旧出来たんだが。


『あの時に負荷のかかり過ぎた回路が、ついに駄目になっちゃった。てへ♪』


 おおおおおい、それはヤバくないか?

 リ・スィはユニット交換って言っていたけど、スペアパーツがあるのかよ。


『他の衛星から部品を取り外してくれば良いのです。すでに作業ロボットを向かわせましたが、機能回復に数日はかかるでしょう…』


 それでも行かなきゃウサギ達が危ないかも。あいつら嵐が来るのを知らない。

 だから行かなくちゃ。

 リ・スィと一緒に壺の調整を済ませてるから、たぶん、大丈夫なはず!


「……と、思っていた自分は、まだまだ未熟だったよ」


 途中までは順調だったんだ。途中まではな。

 今回は対地観測衛星のサポートが無いから、そこそこ注意はしていたんだ。

 安全運転にも十分に注意を払ってたんだからな。


 エレベーターで地上まで出て、森を突っ切って砦まで行くまでのコース取りは完璧の2文字だったんだ。うん、そいつは誰にも覆す事の出来ない事実だ。

 だって、どこにも衝突しなかったし、急に空中高く飛びあがる事もな……


 でも最後が拙かったんだ。

 森を出てから砦の門までの何もない区間は誰かに見つかる可能性がある唯一の場所だから、一気に加速して……


 かんっ!


 ん? なっ、なんだぁ!?


 最後の最後に操縦をミスった。祭祀場の近くでラインを読み損ねたらしい。

 壺が隠し扉の縁を掠めたらしいんだが……


「わああぁあああ!?」


 どかん、ごりっ! ゴガガガガ……


 その衝撃で俺の乗った壺は、一気にバランスを崩しちまったらしい。

 運の良い事に、俺は壺から放り出される事は無かったが、まるでミキサーの中で砕けずに残った果物よろしく振り回されてだな。


 ゴロゴロゴロ…… どっすん!


 ホームランボールよろしく通路を転がっていった壺は……

 通路の壁にぶつかると、ようやく動きを止めた。

思考制御なんて、そう簡単にマスターできる筈はないのです。

佐久間君ったら自信過剰なんだから。

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