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隠密行動にこだわる俺

 つるつる洞窟の冒険から帰ってきてから3日が過ぎた。

 そろそろ洞窟探検を再開しようかね。前回のようにあちこち衝突したらヤバいから、今回は安全運転しなくちゃね。

 狭い魔の森、スピード出してどこへ行く… ってね。


『サクマユウマ。今日は午後から天候悪化が見込まれるので、出発は見合わせてください。それからもうひとつ。あなたはなぜ対地観測に拘るのです?』

「俺が心配しているのは、残存戦力の存在… だよ。あの砦は、この先にある都市国家と戦争をするための拠点だったのは知ってるだろ」


 捕虜の情報から都市国家は皇女サマのく広域破戒魔法で焼き払われたって話なんだが、そうなると帝国は都市国家周辺を占領するために軍を派遣した筈だ。

 その時に使ったのが砦から西に延びる街道というわけだ。

 だから、あの街道は放棄されていない。


 そうと分かっているなら、用心を怠る訳にはいかないよね。

 今までは東… 首都からやって来る部隊を警戒するだけで良かったけど、それに加えて西からやってくる部隊にも注意を払わなくちゃならなくなるだろう。

 そうなったら挟み撃ちだ。今度こそ魔の森は完全に焼き払われるぞ。


 だって俺は皇女サマを殺害した大罪人だよ?

 もし誰かに見つかって、それがバレたら、とっても拙い事になる。

 下手をしなくても万単位の軍勢が押し寄せて来るのは目に見えている。

 俺はコスーニに逃げ込めばいいかも知れないが、そういう問題じゃない。


 5人の影法師がいくら強くても、万を超える大群の前には無力だ。そうなったらこの森にいるインゼクトやウサギは、間違いなく皆殺しにされるはず。

 そうならないためにも、地上の監視には手を抜けないって事だ。


「そう言えばさ、焼き払うと言えば…… 引っかかってる事があるんだよなぁ」


 実を言うと、皇女サマが使ったという広域破戒魔法なんだけどな。

 彼女の魔力値では、こんな高いレベルの魔法を使う事は出来ない筈だ。

 俺だってそんな大魔法は… そっちは、別にどうでもいいか。

 皇女サマは、もう… いないんだ。


 それよりも問題は都市国家の残存戦力の方だよ。そいつが軍隊としての体を為しているかどうかは別として、都市国家の誰かが生き残ってる可能性はあるぞ。


『サクマユウマ。あなたの推定には疑問があります。根拠を示してください』

「根拠? そんなのないよ」

『……サクマユウマ。あなたは論理的思考を放棄していますよ?』


 いんや、そんな事は無い。

 そうだなぁ… 強いて言えば、勘… ってやつだな。


 地球の歴史は戦争の歴史なんだ。だから歴史書は戦争に勝った奴が、敗者の血をインクにして書きあげたものと言っても言い過ぎじゃない。

 地球人と言うのはそのくらい多くの戦争を体験している種族なんだよ。


 そして、ゼルカ星人の考え方は、地球人によく似ているんだ。

 全く同じとは言わないけど、戦争というジャンル──戦争をする理由とか戦術なんか──は、地球の歴史書のどこかに書いてありそうな事ばっかりだ。

 だから、残存戦力が無いと言い切る事は出来ないんだよ。


『ねえねえ宿主さん。それなら敵の敵は味方って……』「時と場合によるだろ」


 ホロンの言うとおり、共通の敵に対処するため仲の悪いいくつかの国が手を組んだ事もあったな。赤色帝国が始めた第3次世界大戦がいい例じゃないか。

 首都を蒸発させたのはルーシのインペラーザ・ボムなのはよく知られているけどさ。あの時はタイミングを見計らったようにイビム帝国も色々やってただろ。


 それと同じような事になるかも知れないぞ。少なくとも残存戦力から見れば今の俺は、魔の森から現れた第3勢力でしかない。

 だってこの星での俺は戸籍も何もない。それどころか親戚や知り合いもいない『不審人物』なんだよね。そんな奴を誰が信用するんだい?


 それでも手を組もうとするなら、俺を味方につけるメリットがある場合だ。

 俺を敵に回した時のデメリットと言っても良いけどね。

 このメリットって奴、そいつは何だと思う?


『戦力… でしょうか。それならば……』


 惜しいな、リ・スィ。それもあるけど、もうひとつ重要な事がある。

 それは食糧とか武器だよ。これまで残存戦力と言ったから、カッコよく聞こえるけど、ぶっちゃけて言えば敗残兵の集団ってやつだ。

 半年もゲリラ戦を続けていたとしたら、物資はどうなっている事やら。


 ゲリラの武器は敵の武器庫にある… って訳にもいかんだろ。


『それでは砦にある武器を供給するのですか。それなら……』

『リ・スィ、ちょっと待って。武器の供給は逆に拙いかも』

「さすがホロンだな、気が付いたか」


 もういちど言うけどさ、都市国家群の残存戦力は帝国を相手に半年間もゲリラ戦を繰り返してきたんだよね。装備も無い、武器もないとなれば、軍隊としての体裁を整えていられるものだろうか。ずいぶん心が荒んでいると思うんだよね。


 つまり体裁は軍隊だけど、実際は野盗のたぐいに変質しているかも知れない。

 軍人と犯罪者の違いは何だろうね。どっちも暴力をふるうのが仕事だぜ。

 政治業者と神の名を騙るアジテーターだって似たようなもんだ。

 そいつらを区別する基準というのは、心がけ次第って事になるね。


 でも人間の心ってのは結構、もろいもんだよ。

 本拠地は緒戦で壊滅。後方支援が無いままに、勝てない戦いを続けているのは凄いと思うけどさ。そういう集団には、ひとつのパターンがあるんだよ。


 戦争が始まった最初のスローガンは『敵国を倒せ』だが、次第に『侵略者を領内から叩き出せ』に変わっていく。

 戦争の末期には国を守る戦いは、生き延びるための戦いに変わっていく。

 そのうちに、組織だった行動すら出来なくなって、いつの間にか消滅…


 そして消滅寸前の軍隊ってのは、時として軍隊の皮をかぶった野盗である事も少なくはない。そういう奴らに武器を供給するのは、かなり拙いと思うんだ。

 ひょっとしないでも、俺が襲われちゃうよ?


「と、いう訳で。今の俺は誰にも見つかりたくないわけだ」

『地球が物騒な惑星だという事は分かりました。地球人の文明スタイルは破壊と殺戮という事ですね?』


 ええと、どうしてそうなる?


『地球人は常に同族同士で殺し合いをしているのでしょう? それこそナパーア星では考えられない… 狂気の産物ですよ』


 そりゃ言い過ぎだろ。ナパーア星人だって戦争をしたと思うんだけどなぁ。

 暮らしやすい環境や豊富な食糧を手に入れたいというのは、生物としての本能的な欲求だと思うんだ。

 もし戦争をしなくても良いというなら、とっても豊かな惑星なのかもね。


 だとすれば、ある意味ではナパーア星は理想郷かも……

地球人が戦争をする本質は食糧と資源の奪い合いです。

お腹いっぱい食べたい、もっと良い暮らしがしたい…… それが原点かも。

歴史書を紐解くと、戦争と虐殺を正当化する御大層な大義名分は、会った事も話した事も無い神様の御意志だとか。神様の御意志を受け取る人って、凄い?

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