表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/165

味覚が死にかかった俺

 かなりハードな味付けのピクルスを堪能したウサギ達は、けっこうまったりとしているようだな。あ・れ・が、そんなに旨かったのか。

 俺には死ぬかと思うくらいに酢っぱかったんだけどな。


『ねえねえ宿主さん。もうひと口だけ。ちょっと舐めるだけでもいいからぁ』


 おーまーがあぁあっしゅ! ホロン、おめ、俺に死ねってか?


『やだなぁ、宿主さん。ピクルスの成分分析をしたいだけ♪』

「ンなハズあるかい!」


 お前が俺の感覚中枢を使ってある程度の分析が出来る事は知ってるさ。

 けどなぁ、ホロン。成分分析なら壺のセンサーでも出来るわい! そっちの方が正確だろうが。

 何よりも、安全だぞ。主に俺の味覚と精神状態がなぁ……


『……勘の鋭い人は嫌わせるよ? 嫌うのは主に私だけどね♪』

「ふん、言ってろ」


 それよか俺たちがここに来た目的を忘れちゃ困るぜ。

 この壁が… ええい、つるつる洞窟でいいや。こいつの調査だよね。

 基本的には通路しかないように見えるけど、壺に組み込まれているセンサーは決して誤魔化せない。壁の向こう側に、いくつかの空洞がある事は分かってる。


 砦の連中は見つける事どころか気が付いていないようだけどな。たぶんこの部屋と同じような地下室が、いくつもあるんだよ。

 砦の連中は、たまたま扉が壊れている所を見つけて、利用しているだけだろう。

 そのひとつが俺たちのいる食糧倉庫ってわけだ。


 あいつらも詳しい地図を作ってた筈だが、焼けちゃっただろうからなぁ。

 地下食糧庫を拠点にして、新たにマッピングを始める事にしよう。


「いいかお前たち。扉の中は調べなくても良いからな」

「はい、皇さま」「じゃあ、行ってくるよぉ」


 さて、と。

 つるつる洞窟が先史文明の遺産なのは間違いないんだが、どのくらい広がっているのか知りたいね。それなりの広さがありそうだが、通路の分だけでも地図を作っておきたい。

 あいつらが帰って来るまで、少し時間があるな……


『サクマユウマ。樽はウサギに回収させると言いましたが』

「その前に、入り口の斜行エレベーターを点検しとかなくきゃ駄目だよね」

『そういう事です』


 斜行エレベーターというのは、斜面を移動するための乗り物だ。

 原理的にはケーブルカーと同じ設備だが、それをシンプルにしたのが階段に作り付けられてたアレなんだよね。もちろん動力は人力だ。


 そういう設備だからエレベーター本体はひとつだけだし、レールだってケーブルカーのようにすれ違うための複線部分が無い。

 階段だってそれほど広くないから、こんなモノだろうな。お陰で点検も楽だ。

 もちろん、点検と言っても大した手間がかかるわけじゃないんだ。


 壺をリモコンで──もちろん思考制御でだ──レールに沿ってゆっくり昇らせていけば、あとはセンサーが仕事をしてくれる。言うまでもない事だがセンサーはリ・スィにリンクしているし、そいつはホロン経由で俺に伝わってくる。

 この距離なら、何とかなりそうだが…… 操縦だけで精一杯だなぁ。


『とりあえず使えるようですね。でもこの人数で運用するのは難しいですよ』

「改良が必要なら、作業ロボットにやらせてみるか」

『そうですね。その方が確実でしょう』


 俺もそう思うよ。もしも途中で脱線したり、ケーブルが切れたら怪我じゃ済まないぜ。こういうのは修理のプロに任せておいた方が無難って所だな。

 待つほどもなく修理機材を満載した壺の集団が来たから、この壺はこっちに戻すとするかね。


「あいつら、まだ帰ってこないな…」


 エレベーターの工事が始まって、かなり時間が経つのに、ウサギ達が帰ってくる気配はない。ひょっとすると俺が想像していたよりも広いのかな、ここは。

 ウサギ達は真面目と言うか、几帳面だからねぇ。細かく調べているのかも知れないな。


 はてさて。あいつらが帰って来るまで、どうやって時間を潰そうかね……

 俺は、ひょいと頭に乗せていたティアラを外すと、じっと眺めてみた。

 ティアラは女性用の冠だ。ロイヤルファミリーは全員持っているし、地球では貴族も──正式なイベントでは──冠を被る事もある。


 冠のデザインは階級ごとに厳密に決められているそうだ。

 ヤポネスでも大納言… つまり内府様と、中納言… 御三家の当主では服の色や冠や笏、様々な物に規定があるもんな。


 ホロンの鑑定だと、このティアラひとつで俺は死ぬまで大富豪でいられる程のオタカラだって言ってたなぁ。


「こいつは皇女サマのティアラ… だろうなぁ」

『ねえねえ宿主さん、BBAが気になるの?』


 まあ、気にならないと言えばウソになるね。

 これひとつ見ただけで、ゼムル帝国がどういう国なのか想像がつくよ。

 近衛騎士の装備がああだったのに比べると、このティアラの出来はどうよ。

 とんでもない階級社会じゃないか……


「気になると言えばさ、皇女サマの政治的な立場とかも気になるね』


 ここに皇女サマがいる事と帝国に… 実の父親に対しての謀反を企ててるらしいって事が、どう繋がるか。そのあたりが引っかかるんだ……


 皇女サマが父親から冷遇されているようには見えないんだよね。

 でもさ、ゼムル帝国の常識に照らせば、彼女は完璧に行き遅れてるんだ。

 彼女は第1皇女だが、王宮ではお荷物扱いされてるって事… なのかなぁ。

 いやいや、結婚相手なんか選り取り見取り(よりどりみどり)だろうに。


『政略結婚の相手なら、ね♪』

「まさか、それが嫌な奴で、こんな所に? そいつは違うと……」


 ちょっと待て、俺。

 あり得ない話じゃないな。妾より弱い殿方が! とか言っちゃってさ。

 前に話を聞いた事があるぞ。いや、ラノベとか都市伝説じゃなくてな。


 芹那の友達にいいとこのお嬢様がいるんだ。八神先生の──女子高に通っている筈だけど、怒らせたら本気で怖いってな。ホラーハウスを笑顔で通り抜けるあいつの声が震えてたから、よっぽどの事だったなんだろう。


 たしか彼女にお付き合いしてクレって、しつこく付きまとったヤローがいたんだが。その返事がなぁ……

 輝くような笑顔を浮かべたままで、そいつを鈍器で制裁したって……

斜行エレベーターというのは、斜面に沿って(斜め方向に)移動する乗り物です。

ときどきアニメで見かるアレですが、工事用として実際に作られているとか。

それ以外のものも、日本に何か所か設置されている場所があるそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ