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人工知性体と気になるアイツ

 私はホロン。種族は… 種族で良いのかな。

 人工知性体と呼ばれている、自我を持ったコンピューターなんだけど。

 でも本体は決してハードウエアに依存してはいない。私の本体は高次空間にあるし、その構造は一種のエネルギー・グリッドで構成されているから。

 そして……


『ねえねえ、宿主さん』「…………」


 私に課せられた命令はただひとつ。宿主さんの精神に常駐すること。

 超空間トンネルで出会った宿主さん──佐久間結馬(さくま ゆうま)という人物は高校に進学したばかりの──子供で、異世界召喚の犠牲者だ。

 主様の年齢(あらかん)から考えれば、まるで孫のような年齢だ。


 ゼルカという惑星に降り立った彼は、はっきり言って規格外そのものね。

 主様の手で強化された彼の精神と肉体のレベルは、もはや地球人の範疇ではなくなっていたのだから。

 彼は自らを召還した人物を葬って、それから幾度も戦って……

 そして、今に至るのだけど……


『宿主さん! とっとと起きろおぉおおお!』「わあああっ!?」

『さっさと着替えて、地上に出る! 今日もお仕事がいっぱいあるよん♪』


 宿主さんならゼルカ星に自分だけの王国を作る事だって出来る。彼にはそれだけの能力があるんだから。でも、彼はそれを善しとしなかった。

 まさか別の世界から漂着したナパーア星の宇宙船に引き籠る道を選ぶとは……


「なあホロン。植林しようにも、苗木は全部植えちまっただろ」

『それは違いますよ、サクマユウマ。現時点で1000本ほどは……』


 ……でも、多分、こいつが、この声の主が、原因だ。


 こいつの名前はリ・スィ。ナパーア星人が建造した人工知性体だ。

 ハードウエアに依存する初期型のくせに、なにかれとなく世話を焼きたがるこいつは…… やっぱり宿主さんを狙っているのかなぁ。

 誰が何と言っても、彼は小柄だしかわいいし……


 そう考えてしまうのは、生物学の常識… という程の事ではないけれど、哺乳類以外の生物はオスよりもメスの方が体は大きいし力もある。

 ゼルカ星人の体格とかについては、よく分からないけどあのBBAは地球の基準からすれば、大層な大女(おおおんな)だもん。BBAが一緒に連れ歩いていたキシュカって男の子は、小学生くらいかな。


 そして、これが大切なところ。


 ナパーア星人の常識を当てはめれば、力の強い大きなメスと非力で小さなオスという構図が成り立つのよねぇ……

 実際のところ、ナパーア星人は深海生物から進化した『人類』だし、リ・スィの人格は、どう見ても女性寄り。

 小さくてかわいいオスを狙うのも当たり前なのかも。


 だって、この──コスーニという名前の──宇宙船は、とにかく大きい。

 コスーニの全高は600メートルくらい。長さと幅も同じ… かな。

 球体というより、でっかいテトラポッドって言ったらいいかな。

 その船体を管理するのが、リ・スィで、女性だったなら……


『どうしたのですか、ホロン。何か考え事でも?』

『いいい、いやいやいや。いい今ごろ宿主さんはどうしているかなぁ… って』


 ふう、びっくりした。こいつは時々すんごく鋭く勘を働かせる。

 亜光速で移動する宇宙船をコントロールしているのだから、その位の事が出来なかったら拙いと言うのは分かるけどね。


『何を悩んでいるのか、当ててみましょうか?』


 ……う、っく。

 何か会話の裏で、ニマニマ笑っているリ・スィの姿が透けて見えるような。

 そんな気がするんだけど……


『大丈夫ですよ、ホロン。私はサクマユウマを独占しよう… などとは思っていませんから。誰が見ても彼は優秀… いえ、規格外の存在なのですから』


 確かにそうかも。ステータスを見ても、それは分かる。

 主様は間違いなくやり過ぎてる。強化レベルを、一桁間違えたとしか思えない。

 でも、あの主様がそんな初歩的なミスを犯すかなあ……


『そう言えばホロン。修理を終えた対地観測衛星を移動している時に見つけたのですが、この恒星系の外に人工天体がありますよ』

『人工天体が? ……ウソでしょう?』


 ふう、よかった。リ・スィの方から話題を変えてくれるなんてね。

 宿主さんについて言い合いになりそうになったけど…

 カレハワタシノモノ。ダレニモ渡サナイ……


『ホロン? やはりおかしいですよ? 最近セルフチェックをしていますか?

 それともチェックプログラムに問題があるのでは?』

『うんにゃ、大丈夫! それよか、データーを回してくれる?』


 リ・スィがデーターを回してくれたけど… ふぅん、球形をしてるねぇ。

 あのサイズで完璧な球体なんか自然界には存在しないから、人工物だと思うけれど、問題は… ゼルカ星から2光年かぁ…… よく見つけたわねぇ……

 この対地観測衛星のカメラ、とっても優秀だわ。


『ねえねえリ・スィ。この測定データー、おかしくない? 直径30兆キロって、ほとんど太陽系と同じサイズだよ?』

『それで困っているのです。本来ならあり得ない大きさですよ? 普通に考えたら自分の重さだけで自壊しかねませんから』


 そうなんだよね。

 もう少し拡大率を上げられ…… ちょっと待って! あれ、動いてる。

 重力推進かな…… 人工天体の周りの空間が歪んでるのは、重力レンズ効果かも知れない。


 それにしても30兆キロは無いでしょ。

 たぶん倍率換算とかミスってると思うんだけどねぇ。

 これも仕方がない事… だよね。本来なら、これは地表の観測を前提とした衛星であって、天文観測になんか使うものじゃないし。


『ではホロン。話を戻しましょうか』


 ぎぎぎぎくぅ!?


『私はサクマユウマを独占しようとは思いませんが、進んでトラブルを起こす気もありません。私に腹案があるのですが…… こういう方法はいかが?』


 腹案? なにこれ、ずいぶん大きな… これでも圧縮ファイル?


 ……ををををを? これって、凄いプロジェクトじゃない。

 やろうよ、リ・スィ。是が非でもこのプロジェクトを成功させよう!

人工知性体に人間の常識とか倫理観を求めるのは無理なのです。

彼らは優先するのは、あくまでも効率とか合理性… だと思うから。

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