迷宮生活 三十八日目
迷宮生活 三十八日目
今日は三日ぶりに侵入者がやってきた。侵入者は七人で全員が漁師だ。皆若い男で、手銛と短い投げ銛を持っていた。服は襤褸布を紐で縛った様な粗末なもので、とても防具と言えるようなものではない。
漁師達の言葉が分かるわけではないので、あくまで予想に過ぎないが、前回の迷宮攻略の続きという感じではない。村の若者が興味本位で探検に来たという雰囲気だ。
漁師達は最初は恐る恐る進んでいたが、サハギンを一体倒してからは途端に意気揚々としだし、最終的にサハギン二体、ゴブリン三体、スライム一体を倒して帰っていった。
漁師達は意外と手強く、魔物と相対すると、全員で銛を投げ先制攻撃をするという戦法を取っていた。同時に投げられる七本の投げ銛は、避けるにも弾き落とすにも多すぎ、魔物達は一方的に狩られていった。
サハギンは流石の打たれ強さで投げ銛を受けても何とか持ちこたえていたが、体に銛が突き刺さった状態ではまともに戦うこともできない。サハギンが三〜四体ほどいれば、まだ戦いになるだろうが、一体ではどうしようも無いだろう。
まぁそれでも大した脅威にはならないだろう。投げ銛は一人一本しか持っていないので、最初の一斉射で打ち止めだし、手銛の槍衾も防具が貧弱なので、【水弾】や【魔法矢】を撃ち込めば簡単に崩れるだろう。サハギンが十体もいれば余裕で勝てる見込みだ。
当たり前だが、数人程度の侵入者ならば余程の手練れでない限り、迷宮の物量の前では敵ではない。DPに余裕がある限りは、だが。
せっかくなので、最奥まで来たら生け捕りにして祭壇に捧げてみようと思っていたのだが、漁師達はスライムを倒したところで帰ってしまった。
【監視体制】でその様子を見ることができたのだが、どうやら銛でスライムを叩き潰した際に、汚物混じりの水をぶち撒けてしまい、探検の興奮が冷めてしまったようだ。
やはり兵士達は意図的にスライムを無視していたのだろう。魔物に勝てる戦闘力があっても、迷宮探索が上手くいく訳ではないといういい例を見せてもらった。
迷宮を運営していく上では、戦闘力によるゴリ押しだけでは突破できないような、何かしらの仕掛けを用意することが重要かもしれない。
漁師達は何だかんだ有りつつも、五本の【三叉の長銛】を得て帰っていった。「生贄の儀式」を試すことはできなかったが、そこそこのFPを稼ぐことができた。次回は是非迷宮の最奥まで来て欲しい。
「収入」
DP…640P
FP…138P
「出費」
DP…186P
(食費18、召喚93、長銛75)
FP…0P
「合計」
DP…+454P
FP…+138P
「所持ポイント」
DP…12871P
FP…940P
「モルズ男爵領その2」…モルズ男爵領は大陸南東の温暖な土地である。漁業が盛んで、一部の漁村では製塩も行っている。しかし、ほとんどの土地が塩を含んでおり農作に不向きな上、森林資源や鉱物資源も乏しく、「飢えはしないが貧しい土地」となっている。
「領都トトキク」…人口五千人ほどの都市……というか町。西隣りの領地の港から続く交易路に近く、そのおこぼれを主な収入源としている。
「南の大島」…【深海への入り口】がある無人島。近場では一番大きいというだけで、島としては特に大きい訳では無い。最も近い漁村(ゾイル村)から舟で一刻の距離にある。




