迷宮生活 十二日目
迷宮生活 十二日目
とうとう、迷宮に初めての侵入者が来た。信仰値が足りないと嘆いていた直後だったので驚いた。
しかも侵入者はうちの迷宮ではお馴染みの魔物、サハギンだった。迷宮の入口が海に面していたので、人間よりも先に魔物が来るかもとは思っていたが、まさかサハギンが来るとは思わなかった。
【迷宮基礎知識】にあった通り、「魔素濃度」の高い迷宮内は魔物にとって居心地が良いらしく、侵入してきたサハギン達は、迷宮の入口に居着き、今日一日出ていく様子がなかった。
有り難いことにサハギン達は【簡易監視体制】の視野内に居てくれたため、じっくり観察することができた。
侵入してきた野良サハギンは十二体の群れで、内二体が幼体のようだ。さらに、槍の様なもので武装している個体が二体いた。
武装している二体は、体が大きく所々に古い傷痕があり、歴戦の猛者といった風格を纏っている。正直うちのサハギン・ウォーリアよりも強そうだ。
こちらはサハギンとゴブリンが合わせて五十体もいるし、『魔物強化ツリー』の【基本戦闘職】と【青海の加護】によって強化されているので、攻め込まれても負けることはないだろう。
しかし、向こうはそれなりに戦闘経験があるだろうし、武器も持っている。念には念を入れて、新しい権能を取るべきだろうか?【獲得魔素量増加Ⅰ】を取るために信仰値を貯めていたが、【石器武器Ⅰ】や【中級戦闘職】を優先すべきか?
新しい権能は検証も必要だし、魔物や物資の召喚は一つずつしかできないので、大量生産には時間がかかる。権能を解放するなら早い方がいい。
野良サハギンは今のところ迷宮の入口から動く様子はないが、より高濃度の魔素を求めて、迷宮を探索し始めるかもしれない。
とりあえず、暫くは魔物の訓練や模擬戦は控えることにし、サハギン・ウォーリアを一体、サハギン・シャーマンを二体追加で召喚した。
迷宮内の魔素濃度のこともあるので、あまり魔物を増やしたくないのだが、武器持ちが二体いるし、最低限の戦力増強は必要だろう。
負担も増えたが悪いことばかりではない。野良サハギン達は夕方にやって来たので、信仰値はそれほど稼げなかったが、明日も居てくれるならそれなりに信仰値を稼げるはずだ。
「収入」
魔素…482P
信仰値…46P
「出費」
魔素…226P
(食費31、食糧施設15、魔物召喚90、特性付与90)
信仰値…消費なし
「合計」
魔素…+256P
信仰値…+46P
「所持ポイント」
魔素…2374P
信仰値…310P
「魔素濃度」…空間中の魔素の濃度。魔素濃度の高い場所で戦闘や訓練をすることで「レベルアップ」し、身体能力の向上やスキルの習得が可能となる。また、魔物は生命維持を魔素で代用することができ、高濃度魔素地帯では、食事や睡眠、呼吸をせずとも生きることが可能となる。「中級」以上の魔物は生命活動の一部を魔素に頼っており、魔素濃度の低い場所では生存できない。
「【簡易監視体制】」…『迷宮内政ツリー』の初期権能の一つ。「迷宮の出入口と繋がる通路」と、「マスタールームに繋がる通路」の様子を見ることができ、音声もある程度拾える。また、そのダンジョンに属さない存在が監視範囲内に入った場合アラームが鳴る。
「迷宮の入口」…【深海への入り口】は海岸に発生しており、入るには海を渡るか、崖を降りる必要がある。更に、主人公は知らないが、迷宮があるのは無人島であり、人間は滅多に来ない。




