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呪われ勇者は受け入れられたい  作者: 紗沙
第4章 魔王の影を払う少女

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第108話 アルティス災厄、戦後処理

 右目の地獄を見ることもなく安らかな朝を迎えた翌日、朝食を取り終えたレオ達は部屋に響くノックの音に顔を見合わせた。

 この街にはバランとエリシア以外の知り合いは居ない筈、と思い声をかけたところ、聞いたことのある声が耳に届いた。


「おはようございます。皆様」


 バランのメイドの声を聞き、アリエスが「どうぞ」と声をかける。

 すると宿屋の扉は小さな音を立てて開き、いつもの服に身を包んだメイドが部屋に入ってきた。

 彼女は完璧な動作で扉をゆっくりと閉めると、深く頭を下げる。

 昨日は包帯を巻いていた腕は綺麗な柔肌を晒していて、どうやら傷は癒えたようだ。


「……病み上がりなのにバランは使いに出したのか」


 とはいえ昨日までまだ怪我を負っていたこともあり、彼女の主に苦言を漏らすとメイドは目を瞑って首を横に振った。


「バラン様は引き留めになられましたが、私が無理やり行くと言って出てきました」


「……大丈夫なんですか?」


「ご心配なく、傷は既に癒えていますので」


 アリエスの言葉に微笑んで返すメイドを見る限り、無理をしているわけではなさそうだ。

 傷が癒えているというのも嘘ではなさそうだし、走り回ったりしなければ問題はないのだろう。


「さて、バラン様がお城で皆様をお待ちしています。もし準備などに時間がかかるようでしたらしばらく外でお待ちしますが、いかがでしょうか?」


「いや、俺達も丁度会いに行こうと思っていたところだ」


 昨日の夜は結局バランには会えなかったものの、一国の皇子である以上、後処理があるのだろうと思い今日に回したのだった。

 朝食後に会いに行こうという話はその場の全員と共有していたので、本当に良いタイミングで訪れてくれた。


 了承の言葉にメイドは再び頭を下げる。


「かしこまりました。それでは城までご案内します」


 部屋を出たメイドに続いて、レオ達もアルティスの王城に向かい始めた。




 ×××




 アルティスの北に位置する王城を訪れるのは二回目。

 しかも一回目はバランを送り届けるのが目的だったために中に入るようなことはなかった。

 今回はメイド主導のもと城の中に入ったのだが、すれ違う兵士達が皆メイドに頭を下げる姿を目撃した。


「随分慕われているんですね」


「私ではなく、バラン様がですよ。

 冒険者になられましたが、それでも兵士の中では人気が高いんです。

 だから、お付きである私もという感じですね」


「そうなんですね」


 前方で会話をするメイドとアリエスの話を聞きながら、そうなのかと思うレオ。

 しかしよくよく兵士達の表情を見てみると、あれはどちらかというとバランよりもメイドそのものを敬っているような、そんな気がした。

 バランとの付き合いは長いらしいし、彼女も城勤めは相当長いのではないだろうか。


「着きました、こちらになります」


 そんな事を思っていると部屋についたらしい。

 メイドが扉をノックすると中からバランの声が聞こえ、それを聞くや否やすぐに扉を開けた。

 先ほど宿屋の扉は慎重に開け閉めしていたが、今回は無遠慮に行っている。

 相手がバランだからだと思うのだが、こういった一つ一つの動作からもバランとメイドが普通の主従関係ではないことをなんとなくレオは見抜いていた。


 メイドに続いて部屋の中に入ると中は個室になっていて、ベッドにはエリシアが眠っていた。

 その横には椅子に座ったバランも居る。


「おはようレオ、昨日はよく眠れたか?」


「おはよう。ああ、久しぶりに気持ちのいい朝だったよ」


「そうか、それは良かった。

 昨日の件だが、アルティスとしてはプリオル山脈上空に発生した漆黒の華と、その後に起きた魔物の行進については把握している。

 ただ帝都内部に侵入した魔物はなく、黒い華も魔物に関しても消失したために大きな問題にはなっていない」


 バランの説明を聞き、レオは一安心と内心で安堵の息を吐く。

 少なくとも彼の口ぶり的に、エリシアが昨日の一件に絡んでいると知っている者は居なさそうだ。

 だが一つだけ気になる点がある。


「あれだけの魔物を一気に倒したのに、誰もそれを行った人物を探していないのか?」


 多数の魔物を一撃のもと葬り去ったのは自分と後ろに居る灰色の少女である。

 言及されない方が良いことは間違いないのだが、レオはアルティスがなぜそれをしていないのかが不思議だった。


 するとバランは苦笑いをして「それが……」とやや言いづらそうに切り出す。


「あんな大量の魔物を倒せるのは勇者しか居ないっていうのが城で持ち上がってな。

 でもってその言葉にアルティスの勇者が否定も肯定もしないもんだから、勝手にそうなっちまってなぁ……」


「……そうなのか」


 名乗り出ている者が居るのなら当然言及もされないだろう。

 しかも相手がヴァンであれば、疑うような声だって出なかったはずだ。

 するとバランはコホンと咳払いをして「怒るなよ?」と念を押した。


「一応彼から伝言だ。

 てめぇとシェイミの事を黙っててやる代わりに功績は俺が貰う。とのことだ」


「いや、変に注目を浴びるよりはよっぽどいいが……」


 結果としては助かっているのだが、ヴァンの意図が分からないと思いアリエスを見れば、彼女は呆れたように息を吐いた。


「おそらくですが、いいとこ取りをしたんですよ。

 レオ様達のことを話してしまえば、レオ様とシェイミさんを敵に回す可能性がある。

 でも話さなければ敵には回らないし、加えて功績も手に入りますからね」


「なるほど」


 最後に良いところを全部持っていったというわけか。とレオは納得する。

 ただ結果として助かったことは事実なので、内心でお礼を述べておいた。

 直接言ったところで彼は受け取らないだろうし、口に出した時点でアリエス達がやや不機嫌になるので、今回の選択は正解である。


「それで、エリシアの容体は?」


「命に別状はない。怪我も負っていないし、健康そのものだ。

 そのうち目をさま――」


 ちょうどその時、エリシアがうめき声をあげる。

 指をピクリと動かし、眉を顰め、そしてゆっくりと瞼を開いた。

 気だるげな淡い紫色の瞳が、宙をぼんやりと眺めている。


「エリシア、気が付いたか。俺が誰か分かるか?」


 バランはすぐにエリシアに近づき、声をかける。

 するとエリシアは時間をかけて視線を動かし、視界にバランを捉えた。


「バ……ラン……?」


 小さくも確かに聞こえた名前を呼ぶ声に、バランは安堵の表情を浮かべた。

 しかしエリシアは視線を外し、天井を見つめる。

 その様子はまるでなぜ自分がここに居るのか、そもそもここはどこなのかが分かっていないようだった。


「エリシア、全部――」


 全部終わったんだよ。そう声を掛けようとしたとき。


「エリーは……塔で……。なんで……死んでない?」


 レオはエリシアがアトに体を乗っ取られていた時の記憶がないことを知った。

 それと同時に、これからエリシアに自分の体が何をしたのかを話さねばならないことを悟り、言葉を失った。


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