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ずっと続く物語②

『スピーチの原稿を見直さなければならないからそろそろ切るとしよう。時間を作ってくれてありがとう』

「いえこちらこそ。失礼します」

 雪江は通話が切れるまで敬礼をすると、ふうと肩から力を抜いた。

「さてと、ちゃちゃっと済ませましょうか」

 誰もいない部屋で一人気合を入れると、近くに置いていたパソコンに電源を入れた。

 数秒でデスクトップに切り替わると、数あるアイコンの内の一つをダブルクリックした。

 画面いっぱいに世界地図が表示された。王国民なら学校やテレビで見慣れている地図だ。

 海に囲まれた島国日本は王国になる前からその姿は変わっていない。

 北海道、本州、四国、九州に加え、沖縄や数多くの島が点在するところまで何一つ。

 だが、この地図を民主主義時代の、王国になる前の日本人が見たら、こう言うだろう。

 日本から西側にある全ての陸が一つに合体したような巨大な大陸を見てしまえば、

 外は、まるで別世界だと。

 そう、今の日本がいる場所は俗に言う異世界であった。

(この国が王国になるきっかけとなった『国家転移』から120年。外と全く異なる文化圏だったおかげで警戒されていたけれど、もう通用しなくなってきてる。今のうちにどこが敵になりそうなのか、それだけでも絞っておかないと)

 雪江は自分達の、第零部隊が何をすべきなのかを正しく理解している。

 表立って動くことはできない国王軍は国内で派手に戦うことはできない。敵が大胆に侵攻を仕掛けてきたら王国軍が対処することになる。

 となれば、国王軍の仕事は外の警戒しかない。できることは少ないが、現時点でやれることはやっておこうと思い至ったのだ。

(外で戦った経験のある隊長の知識も、少しは役に立つかしら)

 雪江は色ごとに警戒度を区別していく。

 日本近くと和総が滅ぼした国の周辺を警戒の赤。その他、国王や和総から得た情報から攻めてくる可能性がありそうな国には黄色、それ以外は白と識別していった。

「結構多いわね…………」

 30分で半分近くが染まった世界地図を見返して、気が遠くなった。これでもかなり絞ったつもりだが、これ以上削るには情報が足りない。

「ここまでね。追加の情報が来るまで待つとしましょう」

 ん~~~と声を漏らして背もたれに寄りかかって伸びをすると、閉じたパソコンを枕にして倒れ込んだ。

「はぁぁ寝不足だぁ。隊長の分の仕事もやってるせいだわ、絶対」

 和総が入院している間、雪江はずっと二人分の仕事をこなしてきた。副隊長として隊長の代理をするのは当然だと言われればそれまでだが、雪江自身の仕事も加えると一日でこなすにはかなりの重労働となってしまう。おかげでプライベートなどの時間が割けず、ストレスは溜まる一方だった。

「やっぱり、鉄拳制裁しておこうかしら………………」

 やはり限界なのか、国王に許して欲しいと言っておきながら不穏なことを口に出してしまう雪江。今頃、どこかにいる隊長は身を震わせていることだろう。次会う時、選択をミスれば隊長に未来はない。

「けどまあ、今日だけは許してあげるけどね」

 雪江は顔上げると壁に取り付けてある時計を見た。

「9時10分、まだあそこにいるのかしらね。隊長は」

 一人なのを良いことにぐでぇと脱力する雪江は、第零部隊で一番付き合いの長い隊長へ思いを馳せた。

「ちゃんと乗り越えられたのね」

 雪江はそう言って優しく微笑んだ。その表情は弟を慈しむ姉のようだった。

 この先、どんな困難が降りかかろうと。

 今だけは穏やかに過ごしてほしいと、そう願わずにはいられなかった。


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