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ずっと続く物語①

 病院の事件から一夜明け、雪江は事の顛末を報告していた。

「報告は以上です」

 第零部隊基地、その一室にあるSound onlyと書かれたスクリーンの前で雪江は背筋を伸ばし、昨日の件を詳細に説明した。

「何か不明な点はございましたでしょうか。陛下」

『いいや十分だ。第一部隊は敵の詳細までは知らなかったから不足分を補えたよ。ありがとう』 

 渋く老成した声がスクリーンの向こうから雪江を労った。

 相手は第零部隊の主であり、日本王国の頂点に立つ国王陛下その人だった。

『維新軍の主力を二人も捕らえられたのは思わぬ戦果だが、退院した次の日に命を狙われるとはとは、あいつも災難だったな』

「自業自得の部分もあるので、同情はしづらいですけどね……。ただ、隊長がいなかったらあの6桁には勝てなっていたでしょうから、小言は言わないことにします」

『そうか』

 嘆息する雪江にフッとおかしそうに国王は優しい声で笑った。雪江の口調は少し砕けてしまっていたが、それすら心地よさそうだった。

 だが、その心地をいつまでを享受するつもりはないのか、王はすぐに口調を改めた。

『しかし奴ら、維新軍はひと月前の事件を知っていたんだな。聞いていた情報通り、外と繋がり……いや手を組んだというのは確定を考えるべきだろうな』

「ほぼ間違いないかと思います。一番可能性が高いのは隊長が滅ぼした国の周辺、特にイレム帝国がやはり怪しいと私は考えます」

 和総が入院している間に幹也と同じ情報を得ている雪江は頭の中に世界地図を広げ、瞬時に一番怪しい国を挙げた。

『私も同意見だ。あそこの周辺国の軍事力は侮れないものがあるからな。和総のおかげで時間は稼げたが、軍の強化をもっと急がせた方がいいかもしれんな』

 いつ攻めて来られても守れるように、王は自身の責務を再確認していた。以前から提案していた幹也の案が重要性を帯びてきた。

「それが良いでしょう。ですが…………」

 雪江は賛同しながらも、表情は硬かった。

『分かっている。問題はそれだけではないのだろ?』 

 ギシ、と椅子を軋ませる音を出す国王は、うんざりした声を漏らした。

『いくらイレム帝国でも、和総の入院している場所まで知りようがない。そもそも、入院のことは王国でも私達王族と四御家くらいにしか知らないはずだからな。つまり…………』

「その中の誰かが、維新軍に隊長を売った。という事ですね……」

『私も信じたくは無いがな』

 ギリッと音声を拾われない程度に雪江は歯を鳴らした。それは雪江にとって、ひいては第零部隊にとっては許しがたいことだ。

「犯人に、心当たりはありますか?」

 怒りを抑えられない低い声で問う雪江に国王は冷静に答えた。

『怪しいのは何人か……。だが証拠が無ければ拘束もできん。今は様子を見るしかない』

「ますます後手に回ってしまいますね………」

 国の上層部に内通者がいるというのが本当なら維新軍が大胆に動く理由にも結び付く。

 こちらがどう動くか知っていれば、いかようにも動くことができる。策を潰すなり、裏をかくなり好き放題だ。

 早い所見つけ出さない限り本王国は首を絞め続けることになってしまう。

「どういたしましょうか。内と外、どちらかにかかりきりになるわけにはいかないでしょう」

『内通者についてはこちらで探しておく。維新軍や他国には王国軍と君たち国王軍に頼る他ない。色々と仕事を回すだろうからよろしく頼む』

「了解しました!」

 雪江は踵を揃え、王国軍式の敬礼をした。見えていなくても律儀にやるあたり、雪江の人柄がよくでていた。

『話は以上だ。朝早くから基地に来てもらって悪かったな。今日はやることが多くてこの時間しか空いてなかったんだ』

 最後に国王は謝辞を述べた。

 時刻は8時半過ぎ。第零部隊は指令がある時以外は基本自由なので、この時間は雪江以外基地に誰もいなかった。

 申し訳なさそうにする国王に雪江は首を横に振った。

「大丈夫ですよ。私も立て込んでいる仕事に加え、新人に部隊の説明をしてやれと言われてしまったので、その準備のためにも最初からこの時間に来るつもりでした」

『そうか、そう言ってくれると……ってちょっと待て、新人って何の話だ?』

「あれ?昨日、後始末の後に新しく一人入れるから色々と部隊について教えてあげてと言われましたけど…………まさか聞いていない、とか?」

 恐る恐る尋ねると、スピーカーから重い声が響いた。

『ああ、初めて聞いた』

「……………………っ」

 雪江は右手を額に当て、自分の上司が雇い主である国王に然るべき報告をしていなかった事実を無言で嘆いてしまう。

「申し訳ありませんっ。私の方からきつく言っておきますので………」

『そこまでしてくれなくていい。私から直接苦情を言っておく』

 見えていないのにペコペコと頭を下げる雪江に国王は優しく宥めた。日々、隊長に振り回されているのを知っている雪江にこれ以上の仕事を増やさないための配慮だった。

『どうせ、入学式の準備に追われて忘れていたんだろう。そうだ、その入学式で直接文句を言ってやろうか。丁度あの大学で祝辞を送るからマイク越しで』

「そんなことしたら会場が大騒ぎになってしまいますよ……」

 とんでもない考えに雪江は呆れると国王は笑い声をあげた。

『あはは、冗談だ。公の場で私とあいつの関係をばらすようなことはしない。もっと別の方法であいつを困らせてやるとしよう』

「悪戯好きは相変わらずですね…………………」

 愉快に笑う国王に雪江は疲れたように嘆息してしまう。苦労人は今日も周りに振り回される運命であった。

『となると今君が報告しているのも変な話だな。入学式は10時からだから、移動時間を含めても報告する時間はあるはずだろう。まだ準備が終わってないのか?』

 第零部隊の基地は和総の家から近く、歩いても10分とかからない。少し寄って報告することはできるはずだ。

 いくら復帰していないとはいえ、多忙な副隊長に任せきりの和総を責める国王だったが、雪江は加担するどころか隊長をかばった。

「それは、許してあげてください」

 そう言った雪江の表情は、少し悲しげだった。

「隊長なら今頃、彼女の所へ行っているはずですから。念願の大学に入れた報告をしに」

『あぁ、そういうことか。だから事件の報告を君にさせたのか』

「新人の報告までさせられるとは思いませんでしたけどね」

 事情を知る国王が納得すると、困ったとばかりに雪江は肩だけを竦めた。

「でも、仕方ないとも思っています。彼女は隊長を大きく変えた子ですから、お礼の一つも言わなかったから罰が当たりますよ」

『ああ、違いない』

 ふふっと二人して笑い合うと思い空気が少しだけ和らいだ。


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