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後始末と勧誘①

「ゴメンなさい、ご迷惑をかけてしまって。私が一人で下へ降りたばかりに……」

 麗華は涙を拭うように俺の胸に顔を埋めた。シャツは涙を吸い、湖のようなシミを作った。

「気にしなくていいよ。麗華が無事でよかった………」

 俺は胸の中にいる麗華を包み込むようにして抱きしめた。失いかけた存在を確かめるよう少し強めに。さらに密着された麗華は嬉しそうに腕を背中に回し力いっぱい抱きしめ返した。

「ゴホンッ!」

 しばらくそのまま抱き合っていると、真横からと大きめの咳が聞こえて来た。

「少しいいでしょうか、隊長?」

 声の方を向くと、維新軍の拘束を終えた姉さんが携帯電話片手にこちらをジト目で睨んでいた。

 博士や栞奈ちゃんにも注目を集めていたことに気が付いた俺達は慌てて離れた。

「ど、どうしたの姉さん?」

 真っ赤な顔を見られないように顔を俯かせる麗華の横で、俺は何とか平静を保ち、姉さんに応じた。隊長として最低限の体裁は保てたはずだ。

 必死にごまかそうとするのがバレたのか、姉さんは小さく息を吐くと、副隊長の顔で報告をしてくれた。

「第一部隊の隊長から要請が来ました。援軍が到着したので、シャッターを開けて欲しいとのことです。博士を制御室へ送った後、レオンと第一部隊に合流し、残党の掃討へ行ってきます」

「分かった。よろしく頼むよ……」

 何もできない俺は申し訳なさそうに言った。まだ部隊に復帰できない俺は部隊を指揮する権限を持っていない。英二との決闘がイレギュラーだっただけで、本来の立場は一般人と大差がない。

 負担ばかりかけてしまう罪悪感に苛まれる俺に、姉さんは気にしていないと伝えるように小さく笑うと、「了解」とだけ頷き、携帯を耳に当て通話に戻った。てきぱきと事後処理をする姿は新米隊長の俺よりよっぽど隊長らしい。流石は幹也の元上司だと感心してしまう。

「応急処置はしておいたよ。輸血は必要だろうけど、『戦士』だからしばらくは死なないはずだよ。『虚空病』の予兆もなさそうだ」

 姉さんと入れ替わるように近くで膝をついていた博士が立ち上がり、俺達の所にやってきた。

「ありがとう博士」

 俺は礼を告げると、博士の背後に目をやった。

 そこには包帯を巻かれた英二が青白い顔で横たわっていた。

 斬り落された腕の傍に大量の血だまりが形成されていた。普通ならすぐに輸血しなければ命に関わる出血量だが、『戦士』は死にかけると延命させようと力が働く。それが、英二を死から遠ざけさせていた。流石に輸血なしでは自力で動けないだろう判断されたのか、拘束はされずそのまま寝かされていた。

 拘束された英二達はこの後、人質として第一部隊に引き渡す手筈になっている。幹部とそれに準ずる『戦士』を手中に入れることができたのは十分すぎる成果だ。『維新軍』も大戦力を失ったとあれば迂闊に侵攻もできないはず。しばらく大人しくしてくれることを願うばかりだ。

「…………………………」

 ただ、それを全員が納得できたわけではない。

「やっぱり、あいつらを生かすのは反対か?」

 俺は難しい顔でずっと黙っている栞奈ちゃんに問いかけた。

 下の待機室であれだけの殺意を『維新軍』に向けていたのだ。本音はこの場にいる『維新軍』全員を憎悪のままに葬りたいはずだ。

 そう思っての問いだったのだが、栞奈ちゃんは首を横に振った。

「いいえ、軍に所属していない私は意見する立場には無いので……。それに、沙汰を下す権利は倒した人にあると思います」

「そう……?」

 理性的な一面を見せる栞奈ちゃんに、俺は意外そうな顔を隠せなかった。彼女の憎悪を目の当たりにした立場からすればもっと感情的になると予想をしていたから、肩透かしを食らった気分だ。

「本当にいいの?」

「はい」

 もう一度確認しても考えを変えなかった。

 それきり栞奈ちゃんはまた黙り込んでしまった。本当にどうでもいいようだ。

「話はついたわ。残党は下で人質を盾に籠城しているみたいだから、私とレオンで内側から挟み撃ちにすることになったわ。博士、いける?」

「大丈夫だよ。医者も呼ばないといけないし、すぐに出発しよう」

 通話を終えた電話を片手に近づいて来る姉さんに、博士は頼もしく頷いた。

「じゃ、行ってくるよ。久しぶりに話せてよかった。早く復帰できるといいね、隊長君!」

「うん。ありがとう。気を付けて」

 パチッと可愛らしくウィンクして手を振る博士は、階段前に待機しているレオンへ走って行った。その後ろを姉さんは苦笑しながら付いて行った。

 俺達は彼女たちの背に手を振って見送った。

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