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守るためなら⑫

 その瞬間、英二は怪訝に眉を寄せた。

「おい、何で銃を捨てない?」

 右手に持ったままの武器を言及すると和総は不敵に笑った。

「決まってるだろ。まだ使えるからだよ」

 そう言う雅人に英二はますます眉間に皺を寄せた。

(まだ弾が残ってるのか?それとも、はったり?)

 銃に詳しくない英二は和総の手にあるハンドガンを警戒せずにはいられなかった。

 同じ手は食らわないと言っても今回は刀と銃、二つの武器がある。他が相手なら気にしなかったが、和総なら別だ。何をしてくるか分からない。また、思いもよらない手で懐に入られたら厄介だ。

「だったら、先手必勝だ!」

 英二は腰を落し、刀の切っ先を前へ突き出すように構えると、さっきの仕返しするように走り出した。

 やっていることは和総と同じでも英二の場合は訳が違う。速度は音速を超え、常人では何が起こったのかすらも把握できずに命を刈り取られるだろう。が、英二は油断しなかった。

 和総のことだ。英二が全力で走ってもきっと避けてしまう。『蜃気楼』で残像の置き土産を残して反撃までしてくるおまけまで付きで。

 しかし、英二はあの残像の、『蜃気楼』の攻略法をすでに見つけ出している。

 残像を残すにはただ避ければ良いというものではない。自分の姿を相手の視界へギリギリまで焼きつけさせなければならないのだ。となれば避け方は一つしかない。下でも左右でもなく、後ろへ下がって相手の視界から外れないにする必要がある。

 なら攻略は簡単だ。下がった分の距離を詰めてしまえばいい。ギリギリで避けているのだから刀を少し突き出せば十分に届く。そのために英二は突きの構えを取ったのだ。

「ふっ!」

 一秒も満たずに間合いを詰めた英二は和総の喉へ刀を突き刺した。

(これで串刺しになってくれたら楽だったんだけどな)

 そんな甘い相手でも無かった。

それすらも読んでいたのか、和総はあえて膝を曲げ体勢を低くして、残像を残さないずに英二の突きをやり過ごした。

(まだだ!)

 そこも英二の想定の内だった。『走馬灯』という存在を教わらずとも和総なら避けてしまうだろうと踏んでいた。

 英二相手に二度も懐へ入ることに成功した和総の両手には二つの攻撃手段がある。銃か刀かのどちらを使うかによって防御の場所も変わる。

 冷静に見極めてもよかったが、英二はもっと手っ取り早い方法を取った。

「ふっ!」

 英二は全身を硬化させた。消耗は激しいが、銃弾以上の威力を出せない和総には最も効果的な戦法だ。どんなに意表をつこうとしてもその身を傷つけなければ全て無意味にすることができる。全てを出し尽くした後に、その身へ刃を突き立てればこの決闘は終わる。

(さあ、どっちで来る!)

 英二は冷静に出方を伺うと、和総が最初に持ち上げたのは銃を持つ右手だった。

(やはりまだ弾が残って………)

 と、思った直後、和総は目を疑う行動に出た。

「っ!」

 なんと銃を放り投げたのだ。

 銃は狙いすませたかのように英二の顔で飛んでいく。握力が限界を迎えたのではなく、意図的に和総は銃を投げたのだ。

「はあああっ!」

 それに合わせるように和総は両手で握った刀を振った。

(ちっ!目くらましかよ!つまらねえことをしやがって!)

 英二は視界を綺麗に隠してくる銃を煩わしそうにしながらも、手で弾くことすらせず放っておいた。全身を強化した今なら大したダメージにはならない。ならばそちらを無視して刀の方へ集中した方が建設的だ。

 その上一つ、和総は重大なミスを犯していた。

(横っ腹を狙うのが丸見えだぜ!)

 銃に隠される寸前に腰の位置で地面と平行に構える姿が見えていたのだ。遅い動きを補おうと初動を早くしたのが裏目に出ていた。

英二は勝利を宣言するように刀を真上に掲げた。

(あばよ。これであの女は俺の物だ!)

 愉悦を込めて英二は和総の首へ刃を振り下ろした。

 ズバッ!と斬り裂かれ、血が舞った。

 勝敗が決した。


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