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新しい物語①

 四月初め、春の陽気が日本を暖かく包み込む季節。

「………総さん………和総かずささん」

 暁を忘れて眠る俺を、透き通る綺麗な声が体を揺さぶる。

「起きてください。和総さん」

「……………ん」

仕方なしに目を開けると、至近距離で見つめる美しい顔が俺の視界を埋め尽くした。

「おはようございます和総さん。もうお昼ですよ?」

 彼女は頬を滑る長い黒髪を耳に掛けると、目を開ける俺を愛おしそうに微笑みかける。

 世界中の人間が見惚れるような、魅力あふれる笑顔を前に俺は首を傾げた。

「あれ、麗華れいか?ここは…………」

 自分が寝ている部屋に見覚えが無かった。広さは6畳くらいで、ベッドと勉強机くらいしか家具がなく、アパートの一室というより一軒家の一人部屋に近い。

「病院にいたはずじゃ……?」

 半開きの目でしきりに首を傾けていたら、麗華は口に手を当て、おかしそうに笑った。

「ふふっ、寝ぼけていますか?昨日、退院してここに引っ越したではないですか」

 上品に笑う声に、少しずつ意識を覚醒していた俺は「引っ越し」という単語で全てを思い出した。

「ああ、そういえば……着いてすぐに寝ちゃったから、すっかり忘れてた」

「大丈夫ですか?明日が大学の入学式とはいえ、退院するのはやはり早かったのでは…」

「心配しなくていいよ。体の方はもう治ってるから。普通に過ごす分には不自由はしないって主治医の水羅さんには言われたし」

 こちらの額におでこを当て熱を測ろうとする麗華の肩をそっと掴んで離すと、ベッドから立ちあがった。何故か麗華はしょぼんとしていた。

「そうですか……。お昼ご飯ができていますから、一緒に食べましょう。午後は病院で検診でしたよね?」

「うん。それが条件で退院させてもらったから……」

 もしサボったらベッドに縫いつけてでも入学式には行かせないとまで念を押された。あの目は本気だった……。

「では先に下に降ります。準備ができたら降りてきてください」

「分かった」

 部屋を出て行く麗華を見送ると、タンスを開き、服を取り出した。

 着替えを済ませ、机に置いてある眼鏡をかけると、二階の窓から覗く景色がふと目に映った。

 ありふれた、でも初めて見る住宅街の景色に俺は実感と共に漏らした。

「新しい生活……か」

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