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目的ためなら②

「ならさ。今から数値を測ってみようか?」

「え?ここで、ですか?」

 突拍子が無さ過ぎて困惑する彼女に俺はタブレットを持ち上げた。

「数値を測定できるアプリがあるんだよ。使ったことないんだけど、よければ試させてくれないか?」

「そんな便利なアプリがあるんですね。初めて見ました」

「一般には出回ってないからな」

 妨害電波無効アプリ同様、博士お手製だ。一番使って欲しいからと機能やら使い方やらを熱心に教えて貰ったところだから、いい機会だった。

「簡易的だけど性能は保証するよ。どうかな?」

「お願いします!ぜひっ」

 彼女は椅子から立ち上がり前のめりで食いついてきた。

「お、おう……」

 猛烈に迫られて俺は気後れしてしまった。数値という存在を教えられてから自分の力を知りたくて仕方がなかったのだろう。目が小さな子供みたいにキラキラ輝いている。

 そういえば、初めて彼女と目が合った気がするのは気のせいだろうか。

「あっ、ごめんなさい!興奮してつい………」

 少女は俺の目の前で顔を真っ赤にしてすぐに離れた。

「ぷっ、あははっ。いいよ、すぐに始めようか」

 俺はおかしくてつい声を漏らして笑ってしまった。恥じてしまう彼女に俺は密かに感謝した。おかげで焦っていた心が紛れてくれた。

俺が笑いすぎたせいで少し拗ねてしまった彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。

「それで、私はどうすればいいんですか?」

「そこから動かなければいいよ」

 俺はアプリを起動させた。

測定方法は簡単。カメラで彼女の姿を画面に収めるだけだ。

 カシャとシャッターを切れば写った人間の数値を瞬時に計測してくれる仕組みだ。

「おおっ、けっこう高いな」

「えっ、もう測り終わったんですか?もっとかかるものかとばかり……」

「簡易測定じゃこんなものだよ。精密測定でも1分かからず終わっちゃうしな」

「そう、ですか…………」

 彼女はなぜか眉を下げ少し残念そうにしていた。あっさりと測定されたから物足りなさが

あったのだろうか。

「撮影して保存できるみたいだから測定したやつ送ろうか。せっかくなら自分のタブレットで見たいだろ?」

「そんなこともできるんですか⁉欲しいです!」

 すぐにキラキラ笑顔に戻る彼女に俺は苦笑するとシャッターを切って保存した。

「あ、名前も付けられるんだな。入力してみたいから教えてもらってもいいか?」

「えっ、名前ですか?」

 彼女の口が閉じてしまった。初対面の男相手だから抵抗があるのかもしれない。我ながらデリカシーが足りなかったか………。

「その、苗字だけでもいいんだけど、ダメかな」

「いえ、こちらも名前を言っていなかったので。えっと、じゃあ栞奈と登録してください」

「栞奈?下の名前なのか?まあいいか、どんな漢字書くの?」

深く考えたりはせず、漢字を教えてもらいながら初めて聞く彼女の名を入力すると遠隔で送ってあげた。機種が同じだったおかげで送信はスムーズだった。

「ありがとうございます」

彼女、いや栞奈ちゃんは期待を込めて送られた画像を確認した。

「952。これが私の……………」

「どうした?あまり嬉しくなかったか?」

 喜んでくれるかなと思っていたのに、栞奈ちゃんの表情は沈んでいた。

「そんなことは………。ただ、私ってこの程度だったんだなって」

 栞奈ちゃんは力なく項垂れた。

「この程度ってことは無いだろ。全体からしたら見劣りするかもしれないけど、教習を受けてないってことは一人で鍛えたんだろ?中々できる事じゃない」

「全然、足りません」

 栞奈ちゃんは溢れ出る感情を必死に抑え込むような声を出すとズボンの裾を握りしめた。

「私はもっと強くならないといけないんです。そうしないと、私は…………」

「強く………か」

 その表情を見ただけでも相当込み入った事情であることが窺えてしまう。軍人でもない人間が力を求める事情など一つしか思い浮かばないが、それをここで言及するような野暮はしない。今、彼女にかけてあげる言葉はそれではない。

 だから、俺は別の事を口にした。彼女が欲しているであろう言葉を。

「だったらさ、俺の頼みを聞いてくれないか?」

「頼み、ですか?」

 どんよりと顔を上げる栞奈ちゃんに俺は単刀直入に告げた。

「俺の代わりに維新軍と戦って欲しい」


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