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獣達の騎士道  作者: 春野隠者
立志編
7/108

募兵

 意匠を決め組合への申請を通し、ロズヴェータはすぐさま募兵を開始した。

「いくらか、辺境伯領からも参加を希望する者がいますが……」

「それはありがたいな。是非入ってもらおう。ただ、審査はしたい」

 ロズヴェータは、頷くとともにユーグに視線を転ずる。

「すでに、いくらかの人員には声をかけています。性格に難があるものもいますが、腕は確かで経験豊富なものを選んでいます」

 ユーグの返答に頷くと、ロズヴェータは辺境伯家の代表たるユバージルを見る。

「辺境伯家から参加する者は、可能な限り若く経験がなくあと腐れのない者を集めたい。派閥は問わないし出身地も問わない。なんなら三日月帝国(エルフィナス)出身でも、草原の国(ツァツァール)出身でも構わない」

 ロズヴェータの言葉に、ユバージルは難しい顔をして考え込む。

「ロズ坊の傍近くには、割と従士家の中からも次男三男を参加させたいという申し出が多いんじゃがなぁ」

 長男はよく言えば、温厚。次男は文官の道へ進み、武官の道へ進んだ三男という辺境伯家の内情を鑑みれば、野心豊かな者や長男以外の家督を継げない次男三男達は、自然と武官の道へ進んだロズヴェータの元に集まり派閥を形成するように見える。

「辺境伯家を割るつもりはないよ」

 苦笑するロズヴェータへ、ユバージルは頷く。

「なるべく要望は伝えたいが、どうなるもんかの」

 懐疑的に頷くユバージルは、あごひげを撫でながら頷く。辺境伯家は文字通り獅子の国における辺境防衛の要であるとともに、隣国との折衝にもあたる地位にある。また周辺の小領主への睨みを利かせる役割も担っており、その重責と役割は多岐にわたっていた。

 従士のまとめ役である従士長の家も、是非にと協力に推してきている。

「政治のことはトンとわからんが、最後は力じゃからな」

 よく覚えておくことじゃ、と言って言葉を締めくくるユバージルに頷くロズヴェータ。

「もっと力をつけて、隊を大きくするときには是非と言ってやればいい。ただ子飼いの部下を育てるときは、なるべく自分の色で染めたいと思っているんだ」

 正直に語るロズヴェータへ、ユバージルは頷く。

「長年苦楽を共にする部下は何にも代えがたいですからな」

「ああ、その通りだ」

 ちらりとユーグを見て、頷くロズヴェータ。

「わかりもうした。なるべくご要望が叶うよう伝えましょう」

「助かるよ」

 募兵の算段も終わり、後の細々としたところは、ユーグに任せることになった。

「おお、もうこんな時間じゃの。食事の用意ができてるはずです。どうぞロズ坊はそちらに、わしはこの愚息に、少しばかり説教をしてからいきますので」

 げんなりとした顔をしたユーグに苦笑してロズヴェータは食事に向かう。ロズヴェータがいなくなった後、親子二人きりになったユバージルは、先ほどの好々爺然とした表情を改めユーグに向き合う。

「……辺境伯家を取り巻く情勢は思ったより厳しい。わかっておるか?」

 小さくとも従士家という貴族の末席を占める男の顔だった。ロズヴェータには、ほとんど見せることのない顔を、ユーグは見つめた。

「……例のロズヴェータ様の婚約破棄の件ですか?」

「それもある。王都には我らの力をそごうという勢力が存在する。ロズヴェータ様にはそれらを黙らせていただく武勲が必要なのだ」

「依頼は、厳しいものになりますか」

 表情をほとんど変えず、ユーグは理解を示す。

「……これは、お前の胸にとどめておいてもらいたいのじゃが、お館様は、もしロズヴェータ様が頼りなしとなるようであれば──」

「──父上、心配はご無用です。そんなことにはなりません。むしろ武勲を上げすぎた時のことを心配なさってください」

 意外な答えにユバージルは唖然とし、次いで苦笑する。

「色眼鏡でないことを期待するがの。定期的に辺境伯家から依頼を出すようにする。なるべく受けて辺境伯家に必要性を認めさせるとともに、王都での影響力を増してもらいたい」

「助言はいたしますが、最終的な決心はロズヴェータ様になるので」

 息子の答えに、苦笑してユバージルは補足する。

「なるべく、で構わぬよ。しばらくはわしも現役であるし、多少の失敗や武勲の少なさは庇ってやれる」

「王都からの依頼は?」

「……難しいところじゃの。騎士団連中とは、利害が近いはずじゃが……奴らは伝統派で我ら普遍派とは相容れぬところもある。かといって宰相を筆頭とした文官どもは、我らの力が大きすぎると騒ぐしの」

「王家は?」

「最悪じゃの。相容れないと、わしは見るが……ただし王家の中でも派閥はあろう。我らから力を奪おうとしてくる奴らは全て敵と認識しておるがのぅ」

 少しの間考え込んだユーグは、疑問を口にする。

「……ロズヴェータ様の同期に王家の方がいらっしゃいます。傍系とのことですが、その方を通じてなら悪いようにはならないかと」

「そうよな。同期は素晴らしいものだ。派閥を越えて連携できるのは、いや、この国が周辺諸国に負けぬのはそれあってのことだろう。お館様の同期も王都にいらっしゃる」

 頷く父に、自分の意見の正しさを確認したユーグは続いた発言にその形の良い眉を顰めた。

「しかし、良いか。ときに自分ではどうしようもない事情によって引き裂かれることもあるのだ。過信してはいかん。ロズヴェータ様はその点、まだまだ純情でいらっしゃるように見える。うまく手綱を取らねばならん」

「心して、補佐を(・・・)いたします」

 ニュアンスの違いに、ユバージルは苦笑する。

「まぁ、良いさ。小言は終わりだ。わしも出来るなら、ロズヴェータ様には、お館様のように敬愛する主となってもらいたい」

「……」

 辺境伯家には既に後を継ぐべき、嫡男がいる。

 父の物言いに、ユーグは沈黙をもって考えを深めた。その地位を奪えと言わんばかりのものだ。辺境伯家の武官の中でも有数の地位にいる父は、あるいは武官の支持を三男のロズヴェータに集め、凡庸と噂の嫡男を追い落としたいのではないか。

 その懸念に、黙らざるを得ない。

「ふふん、用心深く強かに主を支えよ。ユーグ。良いな?」

「わかりました」

 頷くユーグに、満足そうに笑いユバージルはユーグをともなって食事へ出かけた。


◇◆◇


 夜も更け、婚約破棄の日から続けている自分をいじめるための作業を終えたロズヴェータは、部屋に戻ると待っていたユーグに目を細める。

「学生寮生活は終わったんだがな?」

 苦笑するロズヴェータに、ユーグもまた苦笑する。

「少しお話が」

「親父殿か?」

 黙って頷くユーグに、ロズヴェータはため息をつく。

「……頼もしいことだな」

「まず、辺境伯家ですが──」

 父親から知りえた情報、そして自分の私見を交えて話をするユーグに、ロズヴェータは一々納得するように頷いて話を聞いていた。ときに確かめるように、ユーグの話を繰り返し、丁寧に確認する。

「以上になります」

「……思ったより、状況はいいのか? あくまで想定していたよりは、だが」

 想定していた最悪は、辺境伯家の機能不全。

 どこまで行っても辺境の蝮(フロディアスネク)の悪名は、自身を縛るものだ。それが実は、張子の虎だったというのでは、悪名に見合う効果が得られない。

 なんにせよ。現状では自分の力を確立するのが最優先だった。

「引き続き、情報は集めてくれ。今は自分の力を確立することが最優先になるな」

 黙って頷くユーグが部屋を出ていこうとする背中に、ロズヴェータが声をかける。

「ああ、それと」

「はい?」

 まだ何かあっただろうかと首を傾げるユーグ。

「いつも、助かっている。ありがとうユーグ。これからも頼むぞ」

「──私は、ロズ……貴方に仕えることになった日から、変わらぬ忠誠を捧げています。この程度何ほどのこともありません」

 優しく微笑むロズヴェータに、ユーグは内心で改めて誓う。

 ──命を懸けて、この人のものになるのだ。

「そうか。呼び止めてすまないな。明日も早い。お休み」

「おやすみなさいませ」

 絶世の美男子は、そう言ってほほ笑んだ。

 【学園】と比べれば、はるかに上質なベッドに寝ころびロズヴェータは情報を整理する。

「……まったく、どいつもこいつも」

 打算で弾く復讐への算盤が、成就するにはまだ遠いことを思い苦笑する。

 自分に都合よく世界は動かない。だが、いつか自分が世界をすら変えて見せる。

 野心豊かな胸に、炎を灯し、ロズヴェータは目を閉じた。

ロズヴェータ:騎士

称号:同期で二番目にやべー奴、三頭獣ドライアルドベスティエ隊長

副題:ロズヴェータちゃん、超絶イケメン従者から熱烈なラブコールを受ける。



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