踊る会議と草原の国
「さて……」
ロズヴェータは、その場にいる全員をぐるりと見渡した。傭兵団の団長騎士隊の騎士を初めとして、ロズヴェータよりも年上の者達ばかりだ。それが一斉にロズヴェータに視線を向けている。
かれこれ1刻も話し合って結論がでないのだ。
ここにいる誰もが、この会議に飽きてきていた。しかしながら、下手な結論で不利益を蒙るのは御免なのだろう。こと命のかかる場面においては、それが顕著だった。勿論ロズヴェータだってごめんだった。だから必死に考える。
彼らが感情的に言いあう間も、額に汗が浮かぶほど考え、考え抜き、結論を見出してからは機会を伺う。誰がいつどんな発言をしているのか。それを聞いている周りの様子はどうなのか、それを気づかれないように必死に情報収集する。
国境警備の依頼の範疇をどこに置くか。問題は、それが攻撃側に偏るのか、防御に偏るのか。論点は、そこで取りえる危険に見合う報酬があるかどうか、だ。
「結論から言えば、攻撃側に賛成です」
猛牝牛のナーサを初めとして攻撃に賛成の者達は、喝采を上げそうな表情で防御に賛成した者達を見る。そこに含まれる優越感は、既に勝利が確定したかのようだった。
対するしかめっ面のヨルヴィータや大柄なミスキンドを筆頭とする防御に賛成の傭兵団などは、苦々しく視線をロズヴェータに向ける。まるで裏切られたかのような視線をロズヴェータに向けているが、ロズヴェータからすればいい迷惑だった。
勝手に期待して、期待した内容と違うからと言って恨まれていてはたまらない。
「しかし、今の攻撃案には賛成しかねます」
途端に怪訝な表情でロズヴェータに再び視線を向ける騎士達。
「あまりにも危険が高すぎる」
今度は防御側が優越感たっぷりに攻撃側を見返す。
「ですので、偵察と情報の整理が必要かと思います」
「……なんで?」
聞く体制に入ったとみて、ロズヴェータは自身の考えを披露する。
偵察という考えに対して、ロズヴェータの考えが独創的なのではなく、以前からある考え方である。少数の兵で相手の行動を探る。そしてそれをもとに本隊が行動を決める。単純に言えばそれだけだ。少なくとも、王国の軍では必要性を当然認められている。
ロズヴェータの見る所、彼等騎士隊と傭兵団の言い合いが感情論に傾きすぎていた。傭兵団は、獅子の紋と王冠王国のような正式な学校での教育を受けていないし、騎士だって教育を受けてはいるものの、その内容は剣術等の個人技能に比重を置かれているため、あまり詳しくはない。
なぜなら、兵士を直接率いる騎士にとって何よりも大事なのは、兵士に舐められないことだからだ。そのため、直接的な力として分かりやすい個人技能に重点が置かれる。剣技であったり、槍の腕であったり、あるいは弓の腕でもよい。
だからこそ、騎士は絶対に引かない。それが癖や考え方になってしまってすらいる。騎士としての本能に近いものであった。
そして、個人技能ができてなお、余裕がある者が戦術を学ぶのが騎士校であった。
ロズヴェータが、偵察と情報の整理が必要だと提案したのは、領主の息子という立場が大きい。ロズヴェータは、養父ユバージルから戦術的な視点を忘れるなと、口を酸っぱくして言われているのだ。
──貴方は率いる者になるのです。剣術、槍術、弓術大変結構、しかしながら、ロズヴェータ様はあくまで率いる者。大きな戦の術や人を率いることを学ぶ必要がある。
ということを王都に来てから事あるごとに聞いていたロズヴェータは、剣術の練習はそこそこに、戦術の勉強に時間を費やした。それでも空いている時間は自身の体を極限まで苛め倒したが。
あくまで彼らが話し合っていたのは、どう敵を殺すかの話し合いであり、それがどんな結果をもたらすのかまでは、考えが及んでいない。
そういう意味では、戦術的な思考を持った指揮官を一人置かなかったのは、辺境伯家側の手落ちであった。従士長の一人でもいれば、随分違ったはずなのだが。
言葉通りロズヴェータに、主導的な役割を期待しないのであれば、という但し書きがつくが。養父ユバージルなどは、敢えてそれを見逃したのではないかとすら邪推したくなる。
今度は攻撃防御の両陣営から、疑問符と共に視線を向けられロズヴェータはため息をついた。
「情報が少なすぎます。今のままでは、攻撃して良い豪族も判別つかないのではないかと」
「と言っても、辺境伯側から出せる情報は大体出ているだろう?」
しかめっ面のヨルヴィータは、横目で辺境伯家から派遣されてきた文官に視線を向ける。そしてヨルヴィータの視線に釣られるようにその場の全員の注目を受けて、文官は慌てて首を横に振った。
「誓って、情報はこれで全てです」
「ああ、何も辺境伯家が出し惜しみしている、と言っているわけではありません」
次兄ナルクは、そういうことをするような性格ではない。良く言えば、勤勉実直。悪く言えば堅物なのだ。その部下が派遣されてきているのだから、情報の出し惜しみなどはないと信じている。
「要は、強行偵察を提案したいのです」
ロズヴェータが提案したのは、二つの主張の折衷案だった。
完全に味方であると判明している豪族の集落に拠点を置く。そこを起点として敵味方の判別できない豪族の拠点を一つずつ偵察し、シロならそこに拠点を移す。クロなら当然攻撃するというもの。
「辺境伯家側から情報提供されている敵の兵站拠点まで随分と時間がかかるが……」
疑問を口にする猛牝牛のナーサは、自身の顔の傷を指でなぞりながら、先ほどまで主張していた声量からは格段に落ちた声で呟いた。
攻撃側の主張は、長躯進撃して敵の拠点を一気に叩くというもの。確かに理屈上はそれが正しい。時間もかからず、敵の補給点を叩けば、前線が飢える。ほとんど不可能だという点に目を瞑ればだが。ナーサの呟きを耳ざとく聞いたロズヴェータは、同意するように続ける。
「国境に位置する豪族の面従腹背は、いつものことです。彼らはそうやって生き残りを図るので……」過去ユバージルに教えられた言葉をそのままロズヴェータは、口にする。
「彼らには、こちらに守る意思があると伝えていけば、自ずと勢力圏に留まるものですよ」
ロズヴェータの言葉に、その場にいた騎士隊長や傭兵団長達は黙り込む。それぞれがロズヴェータの言葉を咀嚼し、理解しようとしていた。
あるいは彼らはロズヴェータの後ろに、辺境伯家の影を見る。その上で、強行偵察という提案に賛成するかどうか。
「私は、賛成する」
戦場での判断そのままに、素早い決断を下したのはやはりナーサ。戦場で鍛えられた女騎士は、己と己の養う部下の命を、ロズヴェータの提案に賭ける。
「……我らも賛成する」
しかめっ面のヨルヴィータを始めとする防御重視の傭兵団もそれに追随すると、会議の流れは決まった。
「では、あとは詳細を詰めていきましょう」
その日の会議は2刻で終わった。
◆◇◆
辺境伯領から北に進むと、五影剣連峰と呼ばれる山岳地帯がある。五つの連なる山々の麓に南から吹き付ける風が雨を落とし、森林地帯を発展させた地域だ。元々は獅子紋と王冠王国の建国当初、跋扈していた大魔獣影剣もつ大狼という魔獣が住んでいた所をとある冒険者が討伐したことによって開放された土地という言い伝えのある場所だった。
最も討伐と言っても追い払っただけという話もある。
当代辺境伯ノブネルの治世の先の代から、本格的な調査と植民が開始された。五影剣連峰の一つに、鉱石の鉱山が発見されたからだ。
以来十数年、尽きることのない鉱脈は、辺境伯家の力の源泉ともなっている。そしてその土地を、当代ノブネル以下辺境伯家は絶対に手放せない。その一角を自らの勢力圏とするため自身の影響力のある家々から私兵を構成し、国境線を画定すべく逐次に兵力を送り込んで植民をしていったのだ。
当然ながら、それ以前から住んでいた者達との軋轢はある。
その全てを解消できるほどに、辺境伯家は財力を持っているわけではなかったし、そんなことを気にするよりも、彼等を追い散らした方が迅速な解決を図れた。
元々この土地に住んでいた者達からすれば、たまったものではなかった。ある日突然、支配者だと名乗りを上げて土地をよこせと主張する。従えば何の保証もないままに、住み慣れた土地を追い払われ、抵抗すれば殺されるか、よくて奴隷に落ちる。
彼らが抵抗するのも、当然と言えば当然であった。
追い詰められた彼らが呼び込んだのが、草原の国。季節ごとに首都を変える遊牧民族が主体となった国だった。彼らは草原から動くことは無いものの、その隷下となった諸部族が抵抗した彼らに力を貸した。
無論、見返りは求められる。徴兵やあるいは貢納として、生きていくことに苦労する程膨大なものを求められた。そしてその二つの勢力の中で、元々住んでいた住民は徐々に数を減らしていき、今は微々たる数がひっそりと暮らすだけになっている。
あるいは、辺境伯家の開拓村の一つとして存続するか。あるいは草原の国の諸部族とともに、北に移るか。いずれにしても、辺境伯家に対して決していい感情を持っているわけはない。
そんな少数民族の村落の一つに、ロズヴェータ率いる三頭獣は、到着していた。
辺境伯家の庇護下にある集落から北に三日。
まず手始めに、“そんなに険悪ではない隣の集落”に行きたいと情報を貰ってたどり着いたのがその集落。か細い獣道を辿って到着した集落は、はっきりと敵対しているというわけではなかったものの、刺々しい視線を騎士隊に向けて来ていた。
辺境全体で見れば、この集落は“まだマシ”な部類に入る。寝床を襲撃しては来ないし、食事や水に毒を入れ込もうともしない。嫌な奴らが来たからなるべく関わらないでおこうという程度の、対応であれば、“まだマシ”なのだ。細い川が近くに流れ、周囲は高い木々に囲まれている。畑を作ってはいるようだが、平らな大地を確保するのにも苦労しているのだろう。猫の額程度の土地しかない。
とすると彼らの主要な収入となるのは、木材を売るか、狩猟ということになる。あるいは常に人を求めている鉱山への出稼ぎか。目に入る景色から集落の情報を集めようとしていたロズヴェータに、後ろから声がかかる。
「おい、御曹司。この村は、クロって感じなのか?」
猛牝牛のナーサは、しかめっ面を張り付けて、周囲を警戒しつつロズヴェータに、声をかけた。
ため息をつきそうになりながら、ロズヴェータはそれを否定する。
「まだそこまでは、わからないのでは?」 「ふーん。まぁ判断は任せるよ。力が必要になったら言ってくれ。あ、あの傭兵団にも伝えておくから」
はなから彼女自身で判断するつもりはないのか、自身の騎士隊に宿営の指示をするためロズヴェータから離れていくナーサ。強行偵察にロズヴェータが立候補した時に、諸手を上げて賛成した彼女は、続いて同行を申し出るだけではなく、防御派であった大柄なミスキンドの傭兵団も引き込んだ。
曰く、作戦が軌道に乗るまではあまり少数での分散は好ましくない。
理屈では確かにそうだが、今までの行動を見ると、面倒な判断を下せるロズヴェータに引っ付いていった方が、簡単だと思っているようだった。
ロズヴェータが黒だと言えば、殲滅するし、ロズヴェータが白だと言えばあとはロズヴェータのお仕事というわけだ。
「ロズ、お疲れでは?」
気遣うように声をかけてくるユーグ。
「……もう歩かないわよね? ねえ、今日はここで泊まるのよね?」
若干泣きの入っているアウローラ。
「……」
ニヤニヤと笑みを浮かべた道化化粧の女商人が、ロズヴェータの行動を見守っている。
「今日はここで泊まる。村長と話をしなくちゃな。同行させるのは各部隊の代表と、ラスタッツァも同席を頼むよ」
「彼らが断った場合は?」
横目で宿営準備の指示を出しているナーサの姿に視線を向けるユーグの質問に、ロズヴェータは苦笑する。
「まぁ、その場合は構わないさ」
頷いて引き下がるユーグは、早速手配のために離れて行こうとする。
「ロズヴェータ様にあまり近づかないように」
残る二人にくぎを刺しつつ、小走りに去るユーグを見送って、ロズヴェータはラスタッツァに話を振る。
「この集落で不足しているものは、なんだろうな?」
彼の脳裏によぎったのは、自身の治める開拓村。その規模よりも二回りほど大きな集落である。今自分の集落に必要なものが、この規模になると何が必要になるのか純粋な興味としてあった。
へたり込みそうなアウローラに話を振ってもまともな答えが返ってこないだろうとの配慮もある。
「ふ~ん……そういうことね。なるほど……」
話を振られたラスタッツァは、意味深に笑うとつらつらと問いに答えた。
「正確なことは、村人に聞かないとわからないけど、塩とかかしらね。山岳地域では良く求められるわね。後は魚や、ここは鉱石が取れるのでしょう? ならあとは鍛冶師がいないならそっちの系統かしら……後は頻度が低いけど娯楽も大事ね。それじゃ、ちょっと調査をさせてみましょうか」
「ああ、そうだな」
「う~ん、まぁおおよそなら村長との会談までには間に合うと思うわ」
「うん? まぁよろしく頼む」
愉しそうに笑ってロズヴェータからの依頼を請け負うラスタッツァ。
「それにしても、貴方は交渉に手は抜かないタイプなのね」
「それは、勿論そうだが?」
「ふふふっふっふっふ」
道化顔で嗤うラスタッツァは、周囲から不気味に見えることを自覚しているのか、それともいないのか。ロズヴェータの返答が気に入ったようだった。
そこで少しロズヴェータは、考え込みアウローラに視線を向ける。
「少し、休んでいたら? もし必要なら誰がつけるけど……」
「そ、そうさせてもらうわ……」
息も絶え絶えの様子に苦笑してアウローラを見送った。あくまで騎士隊長とそれに仕える回復術師という建前上、人の目があるところではかなりぞんざいな口調を心掛けている。
少なくとも当人たちは、そのつもりであった。
ふらふらと疲れ果てた様子を見せて歩いていくアウローラを見送り、ロズヴェータは、戻ってきたユーグに夜にある村長との会食について調整を任せる。
「あの、ロズ……」
アウローラを見送り、振り返ったロズヴェータは視線だけでユーグに続きを促す。
「ナーサ殿の騎士隊とミスキンド殿の傭兵団がもめてます」
指さす先に騒がしい一団を発見し、ロズヴェータはため息を吐いた。
「後、多分ヴィヴィとも」
深く重いそのため息に、ユーグは労わるような視線を向けるが、敢えて口を出そうとはしなかった。
「……行ってくる」
国境警備の方針を決める会議の日から4日。諸々の準備を整え、山深き辺境での国境警備に最初の第一歩を踏み出したロズヴェータ率いる三頭獣は、前途多難であった。
◆◇◆
草原の国。
元は、遊牧民の一部族であったものが、周りの諸部族を統合して成立した王朝であった。代々その王家は王を名乗り、交易路の拡大とともに草原に広く国として成立していた。
多くの騎馬と羊を財産として広い草原を季節ごとに移動する。その都度、必要なものは略奪によって賄うことが常態化していた。そのため、耐えきれなくなった周辺部族が次々と降伏してきた。こうして領土を拡大させてきたのだ。それが伝統のようになっている。
第二代ダディオ・カァンの御世には、陸があるところは、地の果てまで──。交易があるところは、海すら超えて……。
と言われるほど、一時期は広大な領土を保有することになったが、魔物の跋扈する森へ侵入したときに発生した魔獣狂騒によって、主力である遊牧民の戦力のほとんどを失うとともにその領土も大幅に縮小。
今は、獅子の紋と王冠王国と対峙するのがやっとというくらいの小ささだった。
時期は既に、秋。冬に向けての準備となるこの時期、王の御座たる移動式王宮“回遊する鳳”は、草原の南部に居を構えていた。
豊かな草原を求めて、温暖な南へ下がって来たのだ。
魔獣を家畜用に飼いならした巨馬を五十頭も使って牽引させる王の座所は大天幕と呼ばれていた。人ならば200人は余裕で生活できるその広さ。
そこに、王の執務を行う公的な空間と私的な後宮の部分とが併設されていた。まさに移動できる王宮である。その周りには、王の臣下である諸部族や、官吏達の小天幕あるいは他国の使節らが同じように巨馬に引かれて移動している。
更に彼らを守る王の近衛兵。
一つの街が移動するようなものだった。その光景には、誰もが初見で圧倒された。今の王は、今年で既に在位20年。彼からすれば慣れ親しんだ光景でもあった。
「御報進! 我が偉大なる王に、王の目が御報進!」
一騎の騎馬が、回遊する鳳”に飛び込んできた。王の目と呼ばれる密偵からの、報せが飛び込んでくる。
近衛の間を抜け、玉座の間に通された密偵の見上げる視線の先に、その男はいた。
在位20年にして、その前半は、相次ぐ肉親との骨肉の争いを制し、後半は周辺諸部族を配下に加えて勢力を拡大し続けた偉大なる王。病み衰えたかに見えた王朝の命脈を、わずか一代にして立て直しつつある偉大なる名君。
ジェウロン・ダゥ・ツィーツェン・ハウル。
背丈はゆうに2メルを超える。獅子のような顎髭、龍のような瞳、そして四十を超えてなお黒々としたその髪と、盛り上がった筋肉は服の上からでもわかるほどだった。
差し向かいで盤上遊びを楽しむのは、彼の長年の友人である丞相チェンホワ。
「申せ」
その低く地を鳴らすような声は、離れていても圧を感じる。王者の声。
「南の地で内乱の兆し!」
「ふむ? 続きを」
パチリと盤上に石を置いて、ジェウロンは続きを促す。
「五年前に制圧された地域の由」
かつて南の地に英雄がいた。何度か矛を交えたことのあるその英雄の姿を思い出したのか、ジェウロンは口元を獰猛な笑みに歪めた。
あの英雄との戦いは痺れた。娯楽の少ないこの地で、唯一愉しいと思えた時間だった。
「重しが外れたか?」
再びパチリと石を打つ。丞相チェンホワは、薄く笑みを浮かべて石を打ち返す。
「その割には、落ち着いているようですが?」
南の国境線に出張っている征服された部族は、昨年まで手元で養育していた子弟が率いている。その部族から送られてくる情報では、リオングラウス王国は毎年と変わらぬ陣容を揃えている。
「ガス抜き、ですかの?」
「なるほど。つけ入るには、少し足りないか?」
「そうとも限らぬかと……確か西方からの使者が逗留しておりましたな?」
丞相チェンホワの言葉に、彼らの王が頷く。
「おう、来ておったな。よし、早速呼ぶか!」
西方からの使者の太った体を想像して、早々に興味を他に移す。
「まぁ、何にしても策は幾重にも巡らせて損はありませぬよ。はい、王手」
パチリと打たれた手駒に、思わずジェウロンの口から苦悶の声が漏れる。毎年同じ方法で攻めては面白みがない。慣れが出た頃が、一番危ないのだ。それに、仲が悪いと言ってもリオングラウス王国の主力が出張られると面倒という事情がある。
決して負けるとは思わないまでも、あくまで主役は草原の国以外。
「いずれにせよ。トリムからの連絡を待ちましょうぞ」
「必要ならば援軍もか、子供らの誰かを向かわせても良いな」
獅子のように笑うジェウロンに、丞相チェンホワは口元を隠すように手を当て、考え込む。
「……御子ならば、ホールー・ルー殿、姫ならば、ルジェル・ラオ殿」
いずれも若くやっと成人したジェウロンの子供らだ。
「ルー氏族とラオ家か」
庶子を含めれば30人近い子供らがいるジェウロン。
王の結婚とは即ち政略結婚である。遊牧民たるルー氏族は、ジェウロンの出身氏族とも血縁が近しい氏族。ラオ家は、新興の商家である。
いずれも血を分けた己の子らだ。
可愛くないわけではないものの、ジェウロンはやはり為政者であった。子供への愛情だけで判断を誤ることはない。その子が成長し影響力を及ぼすと、国にも影響が及ぶ。それを考えねばならなかった。
「姫が良いか。ルジェル・ラオに準備を」
「さようですな。場合によっては自ら?」
丞相の言葉に、にやりと笑ってジェウロンは答えない。
しかし、猛り立つ獅子のような笑みがより雄弁に答えを語っていた。
ロズヴェータ:駆け出し騎士(銀の獅子)
称号:同期で二番目にやべー奴、三頭獣ドライアルドベスティエ隊長、銀の獅子
特技:毒耐性(弱)、火耐性(弱)、薬草知識(俄)、異種族友邦、悪名萌芽、山歩き
信頼:武官(+2)、文官(+2)、王家(+3)、辺境伯家(+10)
同期で二番目にやべー奴:同期の友好上昇
三頭獣ドライアルドベスティエ隊長:騎士隊として社会的信用上昇
銀の獅子:国への貢献度から社会的信用度の上昇
毒耐性(弱):毒からの生還確率が上昇。
火耐性(弱):火事の中でも動きが鈍らない。
薬草知識(俄):いくつかの健康に良い薬草がわかる。
異種族友邦:別の種族がある一定以上仲間に存在すると発現、異種族の有効度上昇
悪名萌芽:行動に裏があるのではないかと疑われる。
山歩き:山地において行動が鈍らない。
辺境伯の息子:辺境伯の勢力圏で活動する以上貴方の身分は保証され周りに影響を及ぼす。貴方の後ろに人々は“辺境の蝮”の姿を見るのだから。
信頼度判定:
王家派閥:そういえば、そんなのいたかな?
文官:最近割と活躍しているみたいじゃないか。
武官:こいつ、悪い噂も聞こえるが……。
辺境伯家:頼りになるのは、やっぱり身内、期待している。
副題:ロズヴェータちゃん、会議を主導する。




