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獣達の騎士道  作者: 春野隠者
第五次十字軍

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127/133

老騎士との決闘

 霧が晴れぬまま、戦場は泥濘と怒号に満ちていた。

 カミュー辺境伯家の三男ロズヴェータ率いる三頭獣ドライアルドベスティエは、沼地の縁で足を取られ、思うように離脱できずにいた。短時間でグレイ沼地に到着し、マルレー子爵家の軍を足止めしたところまでは、想定通りだったが、そこから先は、マルレー子爵家の軍勢の攻勢の激しさに予想外の苦戦を強いられていた。

 足止めを成功させたロズヴェータ率いる三頭獣ドライアルドベスティエは、ゆっくりと後退し、本隊の到着を待つ形に移行しようとしていた。しかし、三頭獣ドライアルドベスティエを包囲しようと動いていたはずのマルレー子爵家の騎兵が予想外の動きを見せる。

 マルレー子爵軍の騎兵が、霧を裂いて突撃してくる。側面から、後方から、まるで獲物を追い詰める猟犬のように。

「バカな、包囲ではないのか……!?」

 ロズヴェータは、馬上で戦況を見渡し、歯噛みした。敵の狙いを読み違えた。三頭獣の足を止め、霧と沼を利用して包囲し、殲滅するという動きを見せていた。だからこそ、三頭獣ドライアルドベスティエの本陣を前に移動して、統制を取り、徐々に後退していたというのに。

 今一気に、敵の本陣とも言うべき騎兵が、突撃に転じている。

 泥に足を取られながらも、その勢いは恐るべきものだ。

 ロズヴェータは知らぬことであったが、マルレー子爵家の老将ヴァルク・エバン。

 かつて父ノブネルや養父ユバージルが何度か辺境伯家に招こうとしたが、頑として応じなかった男。忠義を貫くその姿勢は、辺境でも一目置かれていた。だが今、その忠義が向けられているのは、裏切りの汚名を着たマルレー子爵家だった。

「……見えた! 小賢しい足止めどもの、あれが本陣かっ!」

 霧の向こうから、低く唸るような声が響いた。ヴァルクだった。白銀の鎧に身を包み、老いた馬を駆るその姿は、まるで死を覚悟した老獣のようだった。だが、その眼差しは鋭く、まっすぐにロズヴェータを射抜いていた。

「我が名はヴァルク・エバン!! マルレー子爵家に仕える騎士なり! 我が首を取って誇る勇者はこの中におらんのか!!」

 その叫びとともに、ヴァルクの軍勢が突撃を開始する。ロズヴェータの部隊も応戦し、両軍の騎兵が霧の中で激突した。剣戟の音が飛び交い、泥と血が宙を舞う。味方と敵の区別もつかぬ混戦の中、二人の将が、まるで引き寄せられるように、戦場の中心で対峙した。

「ヴァルク・エバン……お前がこの軍の指揮官か!?」

 ロズヴェータの誰何に、ヴァルクが怒鳴る。

「小童! 名乗れ!!」

 ロズヴェータは、剣を構えながら問うた。怒りと疑念が渦を巻く。

「見忘れたとは言わせぬ! 我が名はロズヴェータ! 辺境伯家が三男だ!!」

 兜を脱ぎ捨てたロズヴェータの顔を、ヴァルク・エバンは確かに凝視した。

「……おお、おお、たしかに! たしかに、その顔はロズヴェータ公子! 神よ。ここで、この戦場で、この相手、御計らいに感謝申し上げる」

 そう言って天を仰ぐ。

 直後、ヴァルクは笑いだした。

「ふふふふははははは!! 忠義に生きて来たつもりだった! しかし! 最後の最後でこの配役、この組み合わせ! ふははは! 因果よ! 応報は、お前か! ロズヴェータ公子! くはははは! その首もらい受けるぞ!!」

 二人の馬が自然と進み出る。雷に打たれたかのように、ヴァルクの脳天にしびれが走った。天上にまします神は、何と意地が悪いのか。それとも、意地が悪いと感じてしまうことが事態が、自らの、人間と言う生き物の不遜の証か。

 だが、老騎士ヴァルクには、はっきりと勝利の道が見えたのだ。だが、そのためには、ロズヴェータと言う人物を見極めねばならない。

 目を血走らせ、喚声を上げながら老ヴァルクはロズヴェータに襲い掛かる。抜かれた長剣は白銀に輝き、人馬一体となった突撃は、まさに重戦車の突進だった。

「なぜ、マルレー子爵は裏切った!?」

 剣を打ち鳴らし、ロズヴェータが問えば、それだけでヴァルクは苦汁を噛み締める様に顔を顰める。

「知らぬ!」

 ヴァルクの声は戦の中で沸騰している。血が湧き、肉が躍る。人生の大半を自身と部下を鍛えるために費やしてきた。その時間が、命そのものが敵を倒せと叫んでいる。

 今こそが、騎士たる者の本懐。

 主家の立場が、どうのこうのは今は関係ない。口は相手を罵倒するため、腕は剣を振るうためにある。

 そう、老ヴァルクは自身の心に言い聞かせた。

「貴様こそ、なぜあの恥知らずのノイン等と言う馬鹿に、ヒルデガルド様を盗られたのだ!? 貴様さえしっかりとお嬢様を掴まえていれば、このようなことにはならなかったものを!」

 顔を赤くして叫ぶ老ヴァルクの言葉に、ロズヴェータも激発する。

「──知ったことか! あの尻軽に聞け!」

 老いたる騎士と若き騎士の長剣がぶつかり合って火花が散る。

「ロズヴェータ様!」

 副官ユーグの声に、ロズヴェータは乱戦状態を思い出す。しかし、指揮を執る余裕はない。

「よそ見をしている暇があるのか!? 小童!」

 ヴァルクの怒声と共に、繰り出される長剣の一撃は、受け止めるだけで精一杯。ヴァルクの言葉は、確かだ。目の前にいるのは老い先短い老人などではない。長い年月を戦うために生きて来た騎士だ。牙を研ぎ澄ませてきた獣が猛然と牙を剥いている。

 気持ちで負ければ、そのまま押し切られる。

 それほどの迫力をロズヴェータは感じていた。

「くっ!? ユーグ! これが敵の本陣だ! ここで敵を討つ!」

「しかし!」

「迷う暇はない! 行け!」

「バリュード分隊を戻します!」

「よしっ!」

「余裕を見せるなっ! それは隙だぞ!」

 下からのすくい上げるように馬上で振るわれたヴァルクの長剣を受け止めたロズヴェータの腕を痺れさせる。ロズヴェータはそれを無視して、突き出すように長剣を出すが、簡単にいなされる。

 続けて繰り出した首薙ぎの一撃も、分厚い鎧に弾かれた。

「力が無いわ! そんなことで、我が首が取れるモノか!」

 全身を金属製の鎧で纏った馬上の騎士を叩き切るには、中途半端な攻撃は無意味だ。完全武装の騎士を殺すには、鎧の隙間に突き入れるロンデルダガーでの殺傷や、撲殺できる棍棒の方が有利。

 長剣では、鎧の隙間を通したとしても、全身鎧の下に来ているチェインメイルで受け止められ、致命傷にはなりにくい。だからこそ、全身鎧の騎士は思い切った攻撃ができるのだ。

 対してロズヴェータは、速度を重視して皮鎧を局所的に装備しているだけ。

 防御力と言う点から見れば、甚だ心もとない。

 動きやすさを重視したその装備は、長剣で相手の攻撃を全て受け止めている、または見切って躱しているからこそ、致命傷を負っていないだけである。

 つまり疲労と集中力がなくなった瞬間、ロズヴェータの命運は尽きると言っていい。

「ぬぅ、おお!!」

 ロズヴェータが吠える。

 だが、ロズヴェータには老ヴァルクにはない若さがある。

 それこそ無限とも言える体力は、ヴァルクの繰り出した攻撃を受け止めはじき返し、反撃の一撃を叩き込むのに何の不足もない。

「ふざけるなよ! 何もかもを無茶苦茶にしておいて、さらに辺境伯領を襲うだと!? 貴様ら一体どこまで恥知らずなのだ!」

「我が一門は、あの家に娘を差し出した。孫もいる。見捨てるわけにはいかぬ。公子、貴殿にはわかるまい……血を分けた者を守るということが、どれほどの重みか!」

「知ったことか!!」

 再び長剣同士が火花を散らす。

 力と力。意志と意志。

 老いたる獣と若き獣が、相手の意志をねじ伏せようと互いに牙を剥きあう。

「ならば、なぜ我らを裏切った。なぜ、あのような形で背を向けた!」

「それを決めたのは、我ではない。だが、我は従うと決めた」

 剣が交錯する。重い一撃が、互いの腕を痺れさせる。

 剣が交差する合間に、相手を非難する。しかし互いに主張を通すには、この戦場において力のみが必要だった。

 混沌の戦場の中心で、過去からの因縁が今、鋼の音となってぶつかり火花を散らしていた。


◇◆◇


 グレイ沼地における戦況は、マルレー子爵家の老騎士ヴァルクと三頭獣ドライアルドベスティエを率いるロズヴェータとの一騎打ちを中心として、包囲をすべく動いていたマルレー子爵家の軍が優勢である。元々の数が違うことに加えて、後退しようとしていた三頭獣ドライアルドベスティエの本陣に、強襲をかけた形となるマルレー子爵家の軍と言う構図は、少なからず三頭獣ドライアルドベスティエに動揺を生んでいた。

 これまでロズヴェータに率いられて常勝とも言える戦績を積み重ねてきた騎士隊と言っても、ロズヴェータが一騎打ちに引きずり込まれたことにより、指揮系統が予期せぬ形で寸断されたためだ。

 一方のマルレー子爵軍は、元々の作戦通り包囲を継続すればよかった。

 マルレー子爵軍の本陣の突撃も、相手を足止めするための作戦の一部とすれば、決して悪い手はではない。

 普段は頼もしい分隊長達も、ロズヴェータ率いる本陣が襲われているという状況に、このまま離脱をして良いのか、判断が分かれていた。

 トーロウ率いる分隊は後退を継続し、ヴィヴィ、ガッチェはロズヴェータを救うために後退のための陣形を崩そうとしていた。

「隊長が敵の突撃に捕まった!? くそが! 戻る!」

「しかし、指示は後退だったはずでは?」

 分隊長ヴィヴィは、部下からの質問に吐き捨てた。

「バカが! 隊長見捨てて帰って、あの辺境伯が私達を許すわけないだろうが! 良くて最前線で使い潰されるのが落ちだ!」

「ロズヴェータ隊長を救いに戻らねえのか兄者!?」

「馬鹿野郎! 俺らが勝手に作戦変更したら、逃げるもんも逃げれねえだろうが!」

 トーロウは、弟からの怒声交じりの質問に、これまた怒声で答えた。

 いずれも正しい判断。しかし、状況は、正解を出す前に動き始める。

 バリュードに関しては、副官ユーグの指示があり戻ろうとしていたが、包囲してきた敵の一軍と交戦状態に入っており、中々突破ができない。

「普段なら、喜ぶところだけど、今じゃないなぁ!」

 飄々とした口調を崩さないバリュードだったが、その額には冷や汗を浮かべる。その合間にも、敵を切倒しているが、思ったよりも敵の戦意が高い。

 勝利を確信しているのか、それとも死に物狂いで戦わねばならない理由があるのか、そんなことを考えながらバリュードは、部下を叱咤する。

「早く行かないと、隊長が死んじゃうぞ!」

 そんなバラバラになりつつある三頭獣ドライアルドベスティエの窮地を救ったのは、辺境伯家から派遣されてきた本隊だった。

 辺境伯家の嫡男ディリオン率いる本隊が到着し、三頭獣ドライアルドベスティエを包囲しようとしていたマルレー子爵家の軍の一部を突き崩したのだ。その頃になると霧はすっかりと晴れ、視界が確保されてきていた。

「弓で牽制しつつ、敵を突き崩したら、騎馬は突撃だ。ロズヴェータを……弟を救ってやってくれ」

 ふくよかな体に全身鎧をまとったディリオンは、冷静に部下の騎士に命じる。

 自身は本陣として後ろで構えながら、率いる部下に突撃を命じた。ディリオンに率いられた騎士は辺境伯家に長年仕える騎士であった。

 ディリオン率いる兵数は二百にも上る。

 即応部隊としては、異例の数である。

 秋の刈り入れの時期だったため、農民の徴集兵は最低限だったにもかかわらず、この兵数を即座に集めて見せたのは、ディリオンの手腕と言って良い。

 ディリオンは、ノブネルからロズヴェータを救援せよとの指示を受けると、すぐさま自身の後援者たる騎士家に連絡を入れ完全武装の騎士及び従士を派遣してもらう。同時に、ノブネルの直轄軍から即応できる者達に声をかけ、動員した。無論自身の従士家、次男ナルクの家にも声をかけて、兵数を揃えたのだ。

 指揮系統の複雑さはあるものの、即座にそれだけの兵数を動かすだけの手腕を発揮できるのは、ロズヴェータにはない手腕であった。

 そして更にディリオンは、自身に父や弟のような騎士としての才能がないことを分かっていた。その為に大雑把な方針は示すものの、現場の指示は経験豊富な騎士に任せる。

 それが良い方向に作用した。

「若様をお救いしろ! マルレーの裏切り者たちに地獄を見せてやれ! 突撃!! 我らに神の御加護を!」

 ディリオンに指揮を任された経験豊富な騎士は、ディリオンの期待に完璧に応えた。

 三頭獣ドライアルドベスティエを包囲しようとしていたマルレー子爵軍の柔らかい横っ腹を、文字通り食い破ったのだ。

 完全武装の騎馬を先頭に、ノブネルの直轄兵、ディリオン、ナルクの兵が続く。

 ディリオン自身を守るのは、徴集された農民兵に任せるという大胆な用兵によって、突撃力を確保し辺境伯家本隊は、一気にマルレー子爵軍の包囲を瓦解させた。

「若様ァ!! いずこにおわす!? 若様ァ!!」

 血濡れた槍を振り回しながら、悪鬼羅刹の表情で暴れ回る騎士の姿に、マルレー子爵家軍に動揺が走る。

 そして、経験豊富な三頭獣ドライアルドベスティエの分隊長達も、この空気を感じ取った。

「後退はなしだ! 槍を揃えろ! 隊長を救い出すぞ!」

「兄者、言ってることが真逆じゃ!?」

「うるさい、うるさい! 世の中には臨機応変っちゅう言葉があるじゃろが! それが今じゃ!」

 後退しようとしていたトーロウ分隊さえも、逆にロズヴェータの本陣に進む動きを取ると、マルレー子爵軍と真正面からぶつかった。

 だが、マルレー子爵家も引かない。

 元々彼らは、後がないのだ。老ヴァルクは、マルレー子爵家が辺境伯家との婚約を破棄したことで窮地に追い込まれた者達を選抜して、軍を編成していた。だからこそ、最初から異常に戦意が高い。彼らはここで死ぬか、領都を落として死ぬかしか考えていないのだ。

 血と泥に塗れながら、両軍は戦い続ける。


◇◆◇


「潮目が変わったか!?」

「ぬうらぁァ!!」

 辺境伯家本隊の到着によって、逆転した戦況に動揺したのは老ヴァルク。火花散る鋼の長剣のぶつかり合いの間に、思わず口について出る。

 だが、ロズヴェータにそんな余裕はない。

 ロズヴェータの頭にあるのは、どうやって目の前の敵を倒すかのみだった。

 気合の声と共に、両手に握った長剣を鈍器のように振り回して老ヴァルクにぶち当てる。

「ぬぅ!?」

 真正面からロズヴェータの一撃を、剣で受け止めた老ヴァルクは思わず唸った。

 ロズヴェータの一撃と共に、乗馬までも興奮して体当たりをしてきたのだ。ロズヴェータの一撃だけであれば耐えられたが、乗馬の一撃までは耐えられなかった。思わず体勢を崩し、馬から落ちそうになる。

「だが!」

 しかしそこは、経験豊富な騎士ヴァルクであった。

 振り回したロズヴェータの長剣を逆に掴み取り、ロズヴェータ諸共馬上から地面に落ちる。

「くっ!?」

「がはっ!?」

 ともに受け身も取れず馬上から落ちたロズヴェータと老ヴァルクは、苦痛に声を上げるが次の瞬間には、すかさず立ち上がって互いの長剣をぶつけ合った。

 荒い息を吐き出し、滴る汗が顔を流れる。

 苦痛と、疲労に喘ぎながらも剣を取り落とさないのは、疲労に負けて投げ出せば己の命が奪われるということを体が覚えているからだ。

「小童め!!」

「くそじじいが!!」

 罵倒の語彙すら乏しく、己を奮い立たせるために口を開いて再度剣を振るう。ぐるりと頭上で勢いをつけて長剣を回したヴァルクの一撃と、下からすくい上げる様に全身のバネを使って飛び跳ねる様に加えるロズヴェータの一撃。

 互いに全力で打ち合う長剣同士が、激しくぶつかり火花が散る。衝撃で吹き飛ぶことなく、そのまま鍔迫り合いに移行し、至近距離で睨み合う。

 だがそこでも、技量の差が出た。

 力ではロズヴェータが有利なことを悟った老ヴァルクは搦め手に出る。鍔迫り合いの最中に、自身の足をロズヴェータに引っ掛ける。

 思わず体勢を崩したロズヴェータ。地面は沼地の泥。普段なら飛び退けるはずの地面で、足の踏ん張りがきかない。ずるりとそのまま足を滑らせ地面に引き倒される。飛び跳ねる泥の中に、倒れるロズヴェータ。勝負をつけようと、老ヴァルクはロズヴェータに馬乗りになった。

 ──やられる!

 ロンデルダガーを振り上げる老ヴァルク。

 泥と汗に塗れた中でロズヴェータが目を見開く。

「……小童っ!! 覚悟!!」

 振り下ろされたロンデルダガーが、ロズヴェータの顔の真横に突き刺さる。

 本来なら、ロズヴェータの命を奪うはずの刃は、ロズヴェータの横に突き立ったままだ。

 荒い息の合間から、ロズヴェータは老ヴァルクと視線を合わせた。

「……」

「……」

 やがて震える手でロンデルダガーから、老ヴァルクは手を放し、ロズヴェータの襟首を掴む。

「……小童、いいや、ロズヴェータ公子、見事だ。我が首を獲れ!」

 老騎士の戦いの最初から見えていた勝ち筋が、結実する。ロズヴェータの実力は確かめた。裏切りに怒り、その罪を問う言葉は出て来ても、マルレー子爵家を皆殺しにするところまでの意志は感じられない。

 そうであるならば、賭ける価値は十分にあると、長年マルレー子爵家に仕えた老騎士は、賭けに出た。

「なん、だと?」

「見よ!」

 老ヴァルクの腹には、大量の出血。恐らく落馬の際に、ロズヴェータの長剣が全身鎧の隙間を潜り抜け、チェインメイルを引き裂き、臓腑を抉っていたのだ。

 視線を老ヴァルクの顔に戻したロズヴェータ。

「ぐっ……さあ、早く!」

「な、なぜ?」

「我が首、をとって手柄とせよ。公子っ……!」

 見れば老ヴァルクの顔には、脂汗が大量に浮かび、耐えがたい苦痛を耐えている様子が、ロズヴェータにも段々と理解でき始めた。立ち上がろうとしたロズヴェータの動きに耐えかねて、老ヴァルクは馬乗りになっていた状態から崩れ落ちる。

 先程まで口汚くこちらを罵っていたはずの老騎士が、今では自身の首を獲れとロズヴェータに迫る。その豹変ぶりに、ロズヴェータは混乱したが、だが老騎士を憎む気持ちは湧いてこなかった。

 ならば、騎士として、一刻も早くこの老人の苦痛を取り除いやるべきではないか。

 歯を食いしばって疲労に動かぬ身体を動かし、ロズヴェータは、老騎士の苦痛を取り除いてやることを決める。

 ロズヴェータは視線を転じて、老ヴァルクの手放したロンデルダガーを手に取った。だが、刃こぼれをしているのを見て取ったロズヴェータは、自身の腰に肌身離さず持っていた短剣を取り出した。

 養父ユバージルから騎士になった時に贈られた短剣。

 剣に巻き付く蛇(ユルゲン・スネク)の紋──辺境伯家の紋章が刻まれた短剣を身を横たえた老騎士の首元に当てる。

「……最後に言い残すことは?」

「……願わくば、我が孫を、恥知らずは承知、だがあの子は、まだ十にもならぬ。責を問われるは、不憫……ぐっ」

 ロズヴェータの腕にすがり付く老騎士の最期の願いに、ロズヴェータは頷いた。

「わかった」

「……神と公子に感謝を」

 そういって頷く老騎士に、ロズヴェータは、慈悲の刃を首筋に当て、力を込めた。

 噴き出す血しぶきを、泥と汗に汚れた顔に浴びながら、ロズヴェータは、目に光の無くなっていく老騎士の瞳を最期まで見つめた。

「はぁ……ハァ……」

 立ち上がると、ロズヴェータは、勝ち名乗りを上げる。

「敵の大将たるヴァルク・エバンは、騎士ロズヴェータが討ち取った!!」

 霧の晴れた戦場に、ロズヴェータの声が響いた。



ロズヴェータ:新進気鋭の騎士隊長


称号:同期で二番目にやべー奴、三頭獣ドライアルドベスティエ隊長、銀の獅子、七つ砦の陥陣営、遠征軍の旗頭


特技:毒耐性(弱)、火耐性(中)、薬草知識(低)、異種族友邦、悪名萌芽、山歩き、辺境伯の息子、兵站(初歩)、駆け出し領主、変装(初級)、遭遇戦、策略家


同期で二番目にやべー奴:同期の友好上昇

三頭獣ドライアルドベスティエ隊長:騎士隊として社会的信用上昇

銀の獅子:国への貢献度から社会的信用度の上昇

遠征軍の旗頭:騎士としての信頼度上昇

毒耐性(弱):毒からの生還確率が上昇。

火耐性(中):火事の中でも動きが鈍らない。火攻めに知見在り。

薬草知識(低):いくつかの健康に良い薬草がわかる。簡単な毒物を調合することができる。

異種族友邦:異種族の友好度上昇

悪名萌芽:行動に裏があるのではないかと疑われる。

山林歩き:山地及び森林内において行動が鈍らない。

辺境伯の息子:辺境伯での依頼で影響度上昇

陥陣営:連続で落とし続けている限り、味方の能力に強化効果。(連続10回)

兵站(初歩):兵站の用語が理解できる。

駆け出し領主:周囲から様々な助言を得ることが出来る。

変装(初級):周囲からのフォローを受ければ早々ばれることはない。

遭遇戦:臨機応変な戦いの経験がある。(1回)

策略家:他の騎士隊から戦術・戦略的助言を求められる。他の騎士隊に対して影響力上昇。ただし、警戒感を同時に抱かせる。


信頼:武官(+70)、文官(+42)、王家(+13)、辺境伯家(+34)+5


信頼度判定:

王家派閥:武官派閥から離れるの? よし、まさか断らないよね?

文官派閥:武官派閥から離れるの? よし、依頼しちゃおうかな!

武官派閥:まぁちょっと、距離を取ろうか。でも、心はこっちだよな?

辺境伯家:え、ちょ……ん? ん? やっぱり……。うちの御曹司は……。


副題:ロズヴェータちゃん、手負いの獣を討ち取る。

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