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初めての恋人は外国人

作者: こーきち

初めて数日かけて描きました。ちょうどいい短編かなと思います。

今現在、日本では様々な国の人達が暮らしている。

人口減少に伴って移民をどんどん招きいれて、手厚いサポートを受けている。仕事、留学、結婚。様々な理由で外国人登録証明書を持った異国の人達が暮らしている。

そんな人達あまり見た事ない。という人もいれば、私の職場にたくさん外国人の人いるよ。という人もいるだろう。


俺の住む街は海沿いに面した工業地帯だ。たくさんの大きな工場が立ち並び、高くそびえ立つ煙突から24時間煙がでる。工場夜景なんてのも人気になっているようだ。


俺はそんな街に住む高校1年生。名前は高橋(たかはし) 幸太郎(こうたろう)

ヴィジュアル系バンドにハマって校則なんて無視したチャラいヘアースタイルをして、生意気に制服を着崩して、友達と遊び、バイトをして稼ぐ。充実した毎日だ。

もちろん勉強なんてからっきしだから、頭の悪い高校にはいった。英語の授業なんてABCを全部書けるようになるって内容からだったし、笑えるほど頭が悪い奴らが通う高校。

周りは俺と同じレベルの奴らしかないから、気の合う連中が多かった。彼女はもちろんいた事がない。


そんな俺にもある出会いが起きた。

この時は街に外国人がたくさんいるなんて、まだ知らなかったよ。


その年の11月中頃。すっかり寒くなった季節に、駅近くの美容院でカットしてもらってバス停に向かっていたら、交番のすぐ隣でソワソワしているニット帽をかぶった女の子がいた。

明らかに困っている。俺はそう思って声をかけた。


「すみません、どうかしたんですか?」


すると女の子はビクッ!としながらこっちを向いた。

とんでもなく美人の外国人だった。モデルなんて公開処刑される美貌を持つ女の子に、声をかけた俺の方がたじろいだ。


「日本語わかりますか?」

一応聞いてみた。


「はい、あまり得意じゃないけど、話せる」

少したどたどしいが話せるようだ。


「何かあったんですか?」


「財布を落とす。警察の人に話するに来ました。でも人いない。」

違う国の言葉を話すのってやっぱり難しいんやなと思った。言いたいことは伝わるから、彼女はすごい人だ。


「なるほど、分かりました。俺にまかせてください」

俺は交番に入ると、誰もいなかった。机には居なければこちらにと電話番号があったので電話をかける。

今戻ってる最中というので、事情を話して待つことにした。


「もうすぐ来てくれるそうですよ。俺も一緒に待ちます」

できるだけゆっくり話した。


「ありがとございます。」


「お姉さんは名前なんて言うんですか?」


「レジーナ・あゆみ」

和名ということはハーフなのかな?


「俺の名前は高橋 幸太郎です。よろしくお願いします。」

俺も自己紹介した。


「あゆみはどこ国から来たんですか?」


「Brazil」

ネイティブすぎて耳に入ってきにくかったが、ブラジルから来たようだ。俺は頭が悪かったのでブラジルがとんでもなく遠い国だとは知らなかった。


「へー、ブラジルですか、日本には来てどれくらい?」


「2」

なるほど、2年前からこっちに来たようだ。


「今何歳ですか?」


「15、もぉあと少しで16」

俺とあゆみは同い年だった。


「年齢一緒!高校は?」


「行ってない。字読むの難しいし、書くこともっと難しい。今は働く」

俺もアメリカに行っていきなり高校通えと言われても無理だろうから、そらそうだよなと納得した。


ゆっくり雑談していると警官が帰ってきた。


「待たせてすまんな、えーと、財布の落としたんだっけ?どっちが?」


「この子です、2年前にブラジルから来たみたいで困ってたので俺が電話かけました」


「外国人かぁ、、日本語喋れるか?ん?」

面倒くさそうに言うこの警官には優しさがないようだ。


あゆみがオドオドしている、ゆっくり優しく丁寧に言わないと聞きとることが難しいんだろう。


「俺が間にはいって話すから大丈夫です。いいですよね?」


「は?まぁどうでもええけど、とっとと書類かいてもらうから。」

警察官は交番に招き入れてきた。

俺とあゆみも続いてはいる。チラリと見たあゆみは緊張しているようだった。


書類に住所、氏名、財布の特徴などを、あゆみが話すことを俺が代筆して書いた。

手続きを終えて、寒い外に2人ででる。


「ありがとございます。」

あゆみは下を向きながらお礼を言う


「ええよええよ、あの警官嫌な人やったし、役に立ってよかった」


「あーの、えっと、、親迎えくるまでどこかでもっと話がしたい。よいですか?」

あゆみがお誘いしてきた。


「もちろん、じゃあ晩飯食う時間はないから喫茶店行こうか」


俺たちは2人で道の反対側にあった喫茶店に行き、温まりながら談笑した。

あゆみは地毛は赤茶色なのだが、ロックスターのアヴリル・ラヴィーンに憧れてブロンドのロングヘアーにしている。

外国人特有のハッキリとした顔立ちに、薄く緑の入った茶色の瞳が魅惑的だ。身長と体重がアヴリル・ラヴィーンと全く同じというのが自慢らしい。写真を見たが、10代の頃と見比べると瓜二つだ。

沢山話しをした。好きな物嫌いなもの。音楽、食べ物。

ブラジルではどんな生活だったか、日本ではどうか、

つたない日本語で話すあゆみはとても優しい人だ。


そんな楽しい時間も終わりはくる。親が迎えに来たそうだ。

名残惜しそうに別れを告げた。

でも、連絡先は交換した。財布みたいにスマホを落としてもいいよう、お互いの電話番号を紙に書いて持ち歩くことにもした。


それからは毎日連絡をとった。

最近の翻訳アプリはすごい。どんな言語も翻訳してくれる。

ブラジルでの公用語はポルトガル語なのだそうだ。

俺は日本語をポルトガル語に変換して送る。

あゆみから来たポルトガル語を日本語に翻訳しての返信。

手間はかかるが楽しかった。

家は自転車で1時間ほどかかる場所にあったので、毎回駅前の繁華街で会った。

何度も会って、俺は惹かれていた。あゆみもそうであって欲しいと思ったが、、告白して、今の関係が崩壊することが怖くて言えなかった。


12月中頃、いつものように繁華街で待ち合わせしてぶらつく。何度も何度も一緒に歩いた道も2人でなら楽しいコースに変わる。


晩御飯を2人で食べて、水を飲みながらお腹を落ち着かせていると、あゆみはソワソワしていた。


「どうしたん?」


「あーー、んーー、、えっとぉ、、」

目線をキョロキョロしながらしどろもどろする


「あー、ダメ、日本語じゃ、何て言えばよいのが分からない!」

「もういい、聞く!」

聞いてと言いたいのだろう。


「Eu gosto de você.

Adoro falar com você e ouvir você. É muito divertido estarmos juntos、Então, por favor, seja meu amante」


まっすぐ俺の目を見てポルトガル語で語りかけてきた。

俺には1つも言葉が分からなくて。ポカンとしていた。


「つまりは、幸太郎が好き。love you ok?」


「いえす、みーとぅー。。。。」


俺の人生初の女の子からの告白の言葉はポルトガル語だった。

そして初めての彼女は外国人。Brazilの同い年の女の子だ。


あゆみと付き合いだして2日後ことだ。

あゆみの母親が俺に会いたいと言ってきたと伝えられた。

早すぎるとは思ったが、あゆみの母親はもちろんブラジル人だ。向こうでは娘、息子の恋人と会うのが普通なのかもしれない。

もちろんいいよと言いはしたが、、、何十年もブラジルで生まれ育った人に日本語通じるのか、、?

親と会うだけでも緊張するのに、言葉や文化の壁がそびえ立った。

あゆみと話をしていて分かったのだが、どうやらあゆみ母はブラジルで結婚して、あゆみを出産してしばらくして離婚したシングルマザーらしい。

その時仕事で来てた日本人男性と恋に落ち、国際結婚したそうだ。男の子の女の子1人ずつ生まれて、幸せに生活していたのだが、旦那の仕事の都合で日本に来ることになったそうだ。

となると、日本人の旦那から日本語を教わっているだろう。と思い少し安心した。


クリスマスが近づいたころ、母親と会うために1度いつもの繁華街に待ち合わせをして、2駅ほど電車にのり、そこから歩いて家に向かった。

なかなか築年数の経っているであろう二階建ての一軒家。

ここで家族5人で住んでいるようだ。


あゆみに案内されながら玄関に入り、すぐ隣の部屋があゆみの自室だった。入ってみるとココナッツの甘い香りが部屋を満たしていた。

壁、天井に至るまでビッシリとバンドポスターが貼っていた。アヴリル・ラヴィーンが部屋の全面に貼ってあった。


「じゃあとりあえず座って待っててね」

あゆみはそう言って部屋を出た。


ドキドキする、、ソワソワしていたら目線の先にマリリン・マンソンのポスターがあった。

なぜだか分からないがマリリン・マンソンの顔を見ると心が凪になった。


あゆみが戻ってきた。

「寒いからストーブ持つって言った」


2人で正座しながらソワソワ待っていると、ガラガラと部屋の引き戸が開いた。

クリクリのブロンドヘアーに青と緑の瞳の白人がストーブを持って入ってきた。頭にはポンポンのついたニット帽をかぶっている。

こんな絵に書いたような外国人の母親とは思っていなかった為固まった。


コンセントをさして暖房をつけて、俺とあゆみの前に同じように正座をしてこっちを見てきた。

めっちゃ睨んでる、、とんでもないしかめっ面で俺を睨み付けている。めっちゃ怒ってるやん、、この人日本語なんか通じるんか、、とビビりはしたが、、


「初めまして、あゆみさんとお付き合いしている高橋幸太郎と言います、今日はよろしくお願いします。」

大きすぎない声でハッキリゆっくりと事故紹介をした

母親はまだ俺を睨んでいる、、、


「ふぅ、、、私の名前はクラウディアって言いますぅ、クララって呼んでーね、てへ♡」

とんでもなく明るい声で言い、母親はウインクしながらペロッと舌をだした。


高校1年生の俺の質の悪い頭では情報を処理できずに口を開けて固まってしまった。


「、、気持ち悪いんじゃー!くそばばばあーー!!」

あゆみは怒号と共にクラウディア、いや、クララを蹴った。


「いやーん、あゆーみが殴るぅー、幸ちゃん助けてー」

クララが俺に抱きつく。。クララめっちゃ酒とタバコ臭い。


「ぎぃゃやああーーー!!」

あゆみは絶叫しながら髪をクシャクシャにして今まで見たことない顔をしていた。


「幸ちゃんから離れろクソババア!!」

あゆみはクララをひきはがす。


「もう!なんで幸ちゃん何もしない!」


「すまん、何がなんだか分からなくて、、」

俺は呆然としていた。


落ち着いて話をしてみると、睨みつけていたのはドッキリの類らしかった。俺の緊張をほぐそうとしたようだ。

どうやらクララは絵に書いたような陽気な外国人のおばちゃんだった。凄まじくテンションが高い。

何より日本語があゆみより上手かった。


家では日本語ではなくポルトガル語でみんな話をしているようだ。母国語を忘れないようにするためらしい。

クララはポルトガル語、スペイン語、日本語の3か国語が話せる秀才のようだ。

あゆみはポルトガル語と日本語が話せる。

意外にも英語は話せないらしい。


「じゃあ後は若い2人でゆっくりしてね、SEXはだめだよー」

クララは笑いながら部屋を出ていった。


「本当にごめん、クララはあんなのだから嫌だったよね。」

あゆみはしょんぼりしていた。


「いやいや、あんなおもしろいお母さんなんて最高やんか」

俺は笑いながら言った。


「ほんとに?よかったー、、」


ガラガラ、、、引き戸が少し開いた。

知らない小さい女の子がこちらを見ている。


「もしかしてあゆーみの彼氏?」


「そうやけど、君は?」


「あゆーみの妹。ジュリ。」


「おー、妹って君やったんやな、初めまして、お姉ちゃんの彼氏の高橋幸太郎やで、よろしく。」

俺はニコニコしながら近づいた。


「幸太郎、あのクローゼット開けたらおもしろいものあるよ!開けて!ははは!」

ジュリはそう言うと笑いながら走って行った。


「あの野郎!いらないことを言うな!」

あゆみが叫ぶ。


俺は立ち上がりまっすぐクローゼットに向かう。


「待って待って待って、幸ちゃん!クローゼットは開けない。お願い、」

あゆみが立ち塞がる


「隠しごとがあるん?」

俺は詰め寄る


「隠し事なんて無い、でも、見てほしくない、、幸ちゃんにだけは。」

あゆみの目がバッキバキに光る。


「隠し事はなし!」

俺はそう言うとクローゼットに強引に手をかけて開けた。


ドサドドサ!!何かが大量に落ちてきた。

ポルトガル語に翻訳された少年漫画が大量に落ちてきたのだ。


「ん?これは、、」

と言いながら手に取る。


「これを隠したかったん?」


「そぉ、女やのに男が好きなマンガ読むは変だと思うから。おかしな女て思うはイヤ」

どうやら俺の前では完璧な女の子でいたかったらしい。

そんなものはクララに蹴りを入れたときに崩壊していたけども。


「なんで?俺もこの漫画好きやし家にあるで。これも、これも読んでる。好み一緒やな」


「ほんとに?嫌でない?」


「ほんとにほんと。」

俺は笑顔で言った。


「よかったー、、あー、安心した。嫌いなる 思った。」


ドアの付近からジュリの声がした

「あゆーみ昨日クローゼットに漫画投げ入れながら暴れてたよね」

ジュリからの言葉爆弾がまた投下された。


「このクソいもうと!!まて!」

あゆみが飛び出した


どうやらこの家庭はとんでもなく明るい楽しい家庭のようだ。


「幸ちゃん、晩ご飯だよ。」

クララが当たり前のように言ってきた。


「はーい。」

あゆみも当たり前のように立ち上がる


俺が呆けていると

「なにしてるの?ごはんは家族みんなでたべるものだから、幸ちゃんも早く来て」

クララが催促してくる。


はーいと言って俺もあゆみと一緒にリビングにいく。

女の子と付き合う=家族とも親しくなる

そういうものなんだなと思った。


リビングには父親と息子、ジュリもいた。

俺の箸やコップも当然ながら用意していた。


「初めまして。あゆみさんとお付き合いしている高橋幸太郎です、晩御飯までありがとうございます。」

父親と息子に挨拶した。父親を見た時久しぶりに日本人を見た気分になった


「いえいえ、あゆみは日本に来て友達もつくれなかったし、同じ職場にいるけど誰とも話さない子だから心配してたんだけど、いい人ができてよかった。」


父親はつよし さんと言うらしい。板金の仕事をしているらしくガタイのいい器の大きさがわかる人だ。


「初めまして、タケル言う、お願いします。」

息子はタケルくんと言うらしい。小学6年生だそうだ

日本語に苦戦はしているが、ハーフらしいイケメンだ。


食卓にはたくさんの料理が並んでいた。スクランブルエッグとソーセージ以外は見た事のない料理だ。

味も、今まで味わったことない味だ。美味しい。

米が進む。お茶を飲むとめっちゃ甘かった。


会話と食事を楽しみ一息ついた。

クララとつよしは酒を飲みながらタバコを吸っている。今でもラブラブなようだ。


「仕事ない時は学校終わったら、すぐ家に来なさい」

クララは俺が帰る前にそう言った


「分かった」

俺はあゆみ家の人達とサヨナラを言って帰った。最初は緊張したけど、とてもいい1日だった。


俺の家族はバラバラだ。両親は俺が小さい頃から毎日のようにケンカをしていた。

兄はいるが、特段仲良くもない。お互い思春期になると目も合わさなくなった。家族4人で食事しても会話も特に無く、テレビと食器の音が鳴るだけの食卓だ。

俺が中学にあがるとすぐ親は離婚して、父親は出ていった。

それ以来夜の店を歩き回ってスナックのママを彼女と呼ぶ。そんな変な親父だ。


高校進学の時、母親にもうあんたの面倒は見れん。学校だけは行け。後は好きにしろと言われた。高校生になると食事は稼いだバイト代で賄っていた。外食かインスタント。

高校進学後は家族とシェアハウスをしている状態だった。


あんな暖かく楽しい食卓と家は初めてだった。


俺はバイトのない日に着替えをカバンに詰め込んであゆみの家に行き、居候する事になった。

あゆみ家は心良く迎え入れてくれた。


「幸ちゃんはもう私の息子。一緒に住むなんて当たり前」

クララはそう言って笑っていた。


俺は外国人の彼女と家族同伴の同棲生活をすることになった。


「おはよう、あゆみ」


「おはよう、幸ちゃん」

あゆみの部屋に布団をしいて2人で雑魚寝をしていた。


6人で朝ごはんを食べ、俺、ジュリ、タケルはそれぞれ学校にいく。あゆみ、つよし、クララは同じ職場なので3人揃って出勤。


土曜日。つよし、タケル、クララは車でイオンに出かけに行った。

家ではあゆみが洗濯物を畳んでいた。俺はジュリの宿題を手伝っていたら、小3の勉強内容は思ったより難しい、、


「こうにぃ外遊びにいこう!キャッチボールしたい!」

宿題はもうやりたくないらしい。女の子でキャッチボールとはアクティブだ。


「いいよ、私家の事するダメだから行ってきて」

あゆみからOKがでた。


「よし、あゆみから許しもらえたから行くか!」

ジュリはボールとグローブを持って外に出た。俺にはグローブをくれなかった。


近くの公園で2人キャッチボールをして楽しんでいた


「ああああーー!本当に私を置いていくことないよー!!」

あゆみがなぜか両手にサンダルを持って裸足で叫びながら走ってきた。

本当に2人で行くとは思わず、誘われるのを待っていた。でも出ていったきりなので、いてもたってもいられず走ってきたのだ。


「私も遊ぶ!」

あゆみは両手にサンダルを握りしめて叫んだ


「じゃあ一緒に遊ぶか」

俺たち3人は遊んだ、高校生にもなってこんなに泥だらけになるとは思わなかった。


夕方の町内の音楽がかかった。

「帰る時間だー」

ジュリがそう言ったので3人で手を繋いで家路についた。


玄関を開けると、そこには般若のような顔をしたクララが靴べらを持って仁王立ちしていた。

「3人とも、、、言い残すことはあるか?」


「、、、、」

俺たちは3人とも下を向いて黙った。やばい。


「こうちゃん、あなたはもう私の息子。だから同じように怒る。覚悟しなさい」

「でぇえりゃぁあ!!!」


バシン!バシン!バシン!!

靴べらで1発ずつ頭をぶっ叩かれた。めっちゃ痛い。

ジュリは涙目だ。俺も泣きそう。


「さっさと泥だらけの服バケツにいれてきな!」

クララはそう怒ってリビングに入っていった。


俺たち3人は着替えて美味しい晩御飯を食べた。その頃にはいつも通りの仲良し家族だった。

仲の良い家族とは、怒っても怒られてもわだかまりの残らない信頼関係のあるものなんだろう。

俺はニヤニヤしながらデカいミートボールを食べた。美味い。



私の名前はレジーナ・あゆみ。Brazil生まれBrazil育ちだ。

物心ついたころには父親はいなかった。母親のクラウディアと親類、おじいちゃんおばあちゃんはいたけどね。


私が小さい子供の頃クララが男の人を連れてきた。日本人だ。

その時この日本人が新しい父親になって弟妹ができるなんて想像もできなかった。


学校で友達と楽しく遊んで、家でアヴリルの曲をきいて歌って踊る。パンクロックも大好き。

服はアヴリルが着ているのを真似していた。メイクもパンダメイクを真似してた。初めてした時はラクガキだったけどね。憧れのアヴリルと身長と体重が同じなのは私の自慢だ。


クララが再婚して、タケルとジュリが生まれてしばらくたった。ジュリは生意気すぎて、、あまり好きじゃない。


「日本に移り住むことになった。ごめんな。でもいい所だからきっと気に入る」

つよしが言った。


私の好きな漫画が日本のものというのは、つよしから聞いて知っていた。でも、知っているのはそれだけ。

どこにあるのかも知らない。日本語はたまにつよしが電話で話しているのを聞いたことがあるくらい。


それから私達3人はクララとつよしに日本語を教えてもらった。とても難しい。

1年たってから飛行機をいくつも乗り継いで日本にたどり着いた。空港にいる人も、書いてある言葉もBrazilとは違う。

私は英語も漢字も読めない。

別世界にいるようだった。私はイヤホンをつけてアヴリル・ラヴィーンを聞いた。心を強くもつために。


日本の中学校に編入した。みんな日本人。Brazil人は私だけ。男も女も先生もみんなジロジロみて、早口で分からない言葉を使ってニヤニヤしながら話しかけてくる。。気持ちが悪い。。こんな所にいたくない。

私はすぐに不登校になって、部屋に閉じこもった。

パンクロックを聞いて、ポルトガル語の漫画をよむ。

テレビをつけても何を言ってるのか分からない。

私は毎日泣いた。

ジュリとケンタは上手くいっていた。もっと小さい頃に来ていれば私も違うかったかもしれない。


辛い苦しい。家に引こもるのはよくないと、つよしとクララの職場で製造業をした。黙々と作業をするのは気が紛れた。

クララ以外とは職場の人と話さなかった。日本語なんて嫌いだ。日本なんて、、嫌いだ。


日本に来て2年がたった。不登校のまま中学校を卒業した。アルバムと卒業証書が届いたが、すぐに捨てた。何の思い出もないんだもの。


寒くなってきた11月、私は2駅先の繁華街に行きウインドウショッピングをしていた。

そろそろ帰ろうと思って駅に行き、切符を買おうと思ったらサイフがない、、、

どうしよう、外国人登録証明書が入ってるから血の気が引いた。

交番に行った。誰もいない。声をかけても反応がない。

日本の警察署は誰もいないの?私は信じられなかった。

クララに電話をかけて相談すると、届けはすぐ出しなさいと言われたので警官を待つことに。

交番の隣でソワソワしていたら声をかけられた。


今まで声を掛けてきた人はみんなナンパだった。ニヤニヤしながら日本語分かる?と言ってくる。

私はポルトガル語で酷い言葉を言っても、あーー、と言いその場を去っていく。日本人の男は最低だ。


でも今声を掛けてきた人は、心配そうな顔をしていた。

とてもゆっくり、わかりやすい言葉で話しかけてくれた。

最初は怪しいと思っていたけど、私のためにたくさん助けてくれた。こんな人もいるんだと、嬉しかった。


交番をでて、彼は帰ろうとした。本当に助けるためだけに声を掛けてきたのだとわかった。

私は勇気をだした、今声をかけないともう会うことは無い。


勇気をだしてよかった。クララにすぐ迎えに来てなんて言うんじゃなかったと後悔した。


できるだけ話をしたくて、彼の話をききたくて、今までほとんど使ったことない日本語を頑張って話した。

彼は私にもわかりやすいように丁寧に言葉を話していた。

楽しい時間はクララの連絡によって終わった。


私は初めて誰かに連絡先を聞いた。初めての日本人の友達ができた。

彼は連絡先消えないように、紙に電話番号をかいて渡してくれた。私も渡した。


スマホがなる度に顔が緩む。クララに彼氏?と聞かれても無視した。

彼はポルトガル語でメッセージをくれた。翻訳できるように簡単なメッセージしか送れなかったのは残念だけど、初めてできた繋がりを大事にしたかった。


こうちゃんは学校にいきながらバイトしていた。私は昼間ずっと働いていたけど、会ってもお店で話をするのがメインだ。

アヴリルが着てる迷彩の上着を着てニットをかぶり、練習したパンダメイクをして会いに行った。


何度も会う度に心が惹かれていった。私はずっと気持ち悪いと思っていた日本人。でも、日本人の彼を私は愛した。


美味しそうにご飯を食べる彼を見ていたら私はなぜか決心ついた。

話したくても日本語でなんて言えばいいのか出てこない、、


「Eu gosto de você.

Adoro falar com você e ouvir você. É muito divertido estarmos juntos、Então, por favor, seja meu amante」


「私はあなたが好きです。

私はあなたと話し、あなたの話を聞くのが好き。

一緒にいるのがたまらなくたのしい。

私の恋人になってください。」


私はポルトガル語で話した。彼はぽかんとしていた。でもそれでいい。なんて言ったか知られたら恥ずかしくて顔が爆発しちゃうから。


私とこうちゃんは恋人になった。

私の初めての彼氏は外国人だ。


12月24日。あゆみの誕生日だ。

ブラジルにもクリスマスという風習はあるようで、家族とご馳走をたべてケーキをたべて夜更かしする。

次の日の朝にプレゼントをもらうのは日本と同じだ。


あゆみは誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントのタイミンが1日違いなため、まとめて25日にもらうのか通例だ。

クリスマスのホームパーティーなんてのは初めてだ。

幼稚園児のころは俺の家もそんなことをしていたが、小学校にあがったら廃止されてた。


俺はココナッツの匂いの香水とゴシックピンクのニット帽をプレゼントした。

初めて女の子に、それも外国人の彼女にあげるプレゼントだから緊張したよ。あゆみはとても喜んで飛び跳ねていた。

ニット帽にココナッツ香水を吹きかけて、嬉しそうにかぶりながら、似合う?と聞かれた時、幸せすぎだろと思った。


ジュリとタケルに呼ばれてリビングに行くと、北京ダックのような鳥料理とライスペーパー。てんこ盛りのソーセージと、山盛りのサラダが置いてあった。

セルフでライスペーパーに肉や野菜、ソーセージを溢れんばかりに盛り付けて挟み、かぶりつく。旨みと家族との愛が口と心に洪水のようになだれこむ。

美味しい美味しいと、みんな笑顔で食べていた。

この家族と食べているからさらに美味しくなるんだろう。


食後につよしが電気を消した。

すると廊下からとデカいケーキにロウソクを突き刺し、キャンプファイヤーのごとく火がついたケーキをクララが持ってきた。


ジュリが嬉しそうに息を吹いても、消えない。

慌ててつよしがタオルで大きな風を起こして消した。

危ない場面だが、楽しくてしかたがなかった。

切り分けずに、みんなフォークで突き刺してケーキにかぶりつく。そしてクララのいれた甘いカフェオレで口の中をさらに甘くする。ブラジル人は甘党らしい。


爆発しそうなほど膨れたお腹を休めて、順番に風呂にはいって歯を磨いた。

俺はタケルとジュリとゲームをしてワイワイしていた。


「そろそろ寝ないと、サンタが通り過ぎちゃうよ」


クララはそう言ってつよしと一緒にタケルとジュリを連れて2階にあがった。


俺とあゆみも部屋に戻って談笑していた。


ガラガラっと引き戸が開いたらクララが立っていた。


「あゆーみ、来て」

クララがあゆみを呼び出す。


クララとあゆみは話す時ポルトガル語で話すため、声が聞こえても俺には内容がわからない。

あゆみが怒っているのは分かるが、


「こうちゃんもいいよね?」

クララに突然日本語で聞かれた。


「え?ああ、ええんちゃうかな?」

突然だったため咄嗟に肯定してしまった。


「ほらぁーー」

クララは嬉しそうに引き戸をしめて行った。


「何今の?」

俺は疑問をあゆみに投げかける。


「はぁーー、、クララが一緒に寝たいって言ってきたから、ふざけんなって怒ってた。」

あゆみが肩を落として言う。


そりゃ俺も嫌だ。


「マジかよ、、、ごめん。」


クララが布団を引きずって嬉しそうに入ってきた。


「今日は話すよーー!」

クララのテンションはタケルとジュリより高かった。


俺が真ん中で両隣にあゆみとクララが寝ることになった。

電気を豆球にして3人で雑魚寝。

ひたすらクララが喋っていた。あゆみはうるさい!としか言わなかったので、俺がクララの話に相槌をひたすらうち続けた。

しばらくするとクララのマシンガントークは終わっていた。

あゆみもスヤスヤと寝ている。クララも寝たようだ。

さて、俺も寝るかなと思って目をつぶる。。。。


ん?待て、、なんやこの状況、、、

俺は目を開ける。左隣にはブロンドのブラジル人の彼女。

右隣にはその母親のクラウディアが口を開けて寝ている。

外人親子と3人で雑魚寝している。この状況がいかに非現実的かということに今更ながら気がついた。

天井を見るとマリリン・マンソンの雑誌の切り抜き写真と目が合った。またあんたかと思ったが、、

周りをチラチラ見ても、あゆみの部屋で甘いココナッツの匂いのする部屋だと再確認する。眠れるわけが無い、、


マリリン・マンソンと見つめあってボーっとしていたら、クララがむくっと上半身だけ起こした。

トイレかな?プレゼントを置きに行くのか?と思って見ていたら


バンバンバン!俺の腹を勢いよくたたき出した。

「こうちゃん!こうちゃん!どうしよう、、あゆーみのパンツがない!」


ん?このクリクリおばさんは何を言ってるんだ?


「パンツ?」

俺は聞き返した。


「パンツ!あゆーみのパンツがないの!探して!」


あなたの娘なら俺の隣で天使より可愛い寝顔で寝てるぞと思った。

クララはずっとパンツパンツ!と喚いている、、、

仕方ないなと思い、あゆみを優しく揺すって起こす。


「んー?なにー?」


「、、なあ、あゆみ、今パンツ履いてるか?」

とりあえず聞いてみた。


あゆみはみるみる顔を赤くした、怒ってる

「履いとるわ!このアホー!」

バチーン! 激しくビンタされた。


「ふん!変態!」

あゆみはそう吐き捨てて布団を頭まで被った。

あゆみに殴られたのはこれが最初で最後だ。めっちゃ痛い。


クララはまだパンツパンツと言っている。


「クララ!クララ!あゆみ、パンツあったって言ってるで」

俺は嘘は言ってない。強烈なビンタと引き換えに得た情報をクララに渡した。


「え?○○○〰️」

○はポルトガル語で聞き取れなかった部分だ。

クララはそう言ってバタリと倒れて、爆睡した。


俺はわけが分からなかったが、なんとも言えない気分になり横になって目をつぶった。


いつの間にか寝ていたようだ。目が覚めると2人はいなかった。綺麗な布団とグチャグチャの布団が両隣りにあった。


クソ、、起きたなら俺も起こしてくれりゃいいのに、、俺はボーっとしながらも部屋を出た。


いつの間にやらタケルとジュリのプレゼント開封イベントも終わっていたようでリビングには無惨に破られた包装紙が散らばっていた。


包装紙を拾ってゴミ箱にいれていたら、ダイニングからあゆみとクララのデカい笑い声が聞こえる。

えらく盛り上がってるなと思ってダイニングの扉をあける。


「あ!やっと起きた!なぁなぁ、昨日の夜のことおぼえてる?!」

あゆみがハイテンションで聞いてきた。


昨日の夜?、、パンツの話か?と思った

「もしかしてクララがあゆみのパンツ探し回ってたこと?」


「そうそう!私あの時こうちゃんにパンツ履いてるか聞かれて叩いたから、大丈夫かなと思って」

昨日のことは夢ではなかったようだ。


「ごめんねー、こうちゃん、あゆーみがお風呂入るのにパンツがないって言うもんだから探してて」

クララは変な夢を見ていたそうだ。


「昨日の夜クララなにしたか教えて」

あゆみは面白そうに聞いてきた。


なるほど、クララもあゆみも断片的なことしか覚えてないから、最初から最後まで知ってるのは俺だけか。


俺はふふっと笑って昨夜のクララ夢オチ劇場を話した。

俺の外国人の彼女の家は今日も朝から賑やかだ。




私の名前はレジーナ・あゆみ。最近16歳になったブラジル人だ。

私には外国人の彼氏がいる。日本人の幸太郎。こうちゃんと呼んでいる。母親のクララもこうちゃんと呼んでいるのはなんだか嫌な気分もする。


こうちゃんは平日高校に通っている。

今日は終業式というこで早く終わるらしい、私は高校には行かずに働いてるから、もう年末の長い休みにはいった。

終業式が終わったらデートの約束がある。

日本の学校の制服は可愛いから、2人で制服を着てデートをしたかった。こうちゃんと同じ中学校に行けていたなら、不登校にもならなかったと思う。


私は驚かせようと思って、こうちゃんのいる高校に行くことにした。学校名は一応聞いていたし、スマホで行き方をしらべてバスに乗り込んだ。

漢字は読めないけど、同じ漢字のとこについたらゴールだ。

普段ならロックを聞いているところだけど、漢字を見逃すわけにはいかないから聞くのは我慢。

びっくりするかな?喜ぶかな?

私は色んな意味でドキドキしながらバスに揺られた。Brazilとは違う風景。私の住んでいた所は砂利道しかなかったからコンクリートの道路というのは今も馴染みにくい。

並ぶ家や店も人も、私にとってはまだ異国だ。


きた、この漢字だ。私は何度もスマホに映る漢字と見比べて降りるボタンを押してお金を払って降りた。

高校の名前のバス停が目の前にあるのは本当にラッキーだ。


大きな校舎が目の前に見える。ここに毎日私の家から通ってるんだと、しみじみ思った。

こうちゃんの家族とは会ったことがない。あんまり仲良くないみたい、、、母親と電話してるのも見たことがないし、何も言わず私の家に来たそうだ。

厳しい母親なら反対するだろうから、嬉しいような、、複雑な気持ちだ。学校行ってバイトもして、友達とはうまくいけてるのかな?私は1人の時こうちゃんのことばかり考える。

日本に来て私は人を憎むことしかなかった。クララにもつよしも、ジュリもタケルも好きじゃなかった。

でも、こうちゃんと恋人になり、一緒に住むようになって全て変わった。

家族と話す機会が増えた。笑って話すことが増えた。

クララには怒られるし、タケルやジュリに腹の立つことももちろんある。でも、幸せ。

この時間を作っているのはこうちゃんだから、支えたい、一緒に居たいって思った。

高校には可愛い女の子が可愛い制服を着て通っている。

私みたいな日本語も得意じゃないし、読んだり書いたりできるのは名前と住所くらい、、こうちゃんの名前は漢字で書けるけどね。

いつか面倒になって見捨てられる日が来るんじゃないかと思うと不安でたまらない。


高校に入るわけにはいかないから、入口らしき所でまつことにした。アヴリルを聞いていたら時間なんてすぐに経つ。


校舎のベランダにたくさんの生徒がでてきた。なんだかこっちを見ているような気がする。

中学校に編入した時に浴びた目線を思い出して怖くなった。

やっぱりこうちゃんが特別なだけで、他の日本人は怖い。おもちゃを見る目で私を見る。


私は走って近くのマンションの駐車場に入ってうずくまった。来るんじゃなかった、、私は激しく後悔した。

耳にはアヴリルの歌声が響く。私は泣きそうだった。


迷惑だと思ったけど、たくさんメッセージを送った。

今高校の近くのマンションにいるってね。

学校の中だから当然返事は遅い。


しばらく経つとスマホが鳴った。私は急いでタップすると、こうちゃんからのメッセージだ。

すぐ行くから待ってて

私は泣いていた。パンダメイクが落ちてお化けみたいな顔になってる。こんなみっともない姿も見せたくないし、迷惑をかけたことも、心が痛い。


こうちゃんはすぐに来た。息を切らして、とても辛そうな顔をしている。

「ごめん、、」

私は謝った。


「謝ることなんかない、わざわざ来てくれてありがとう。うれしい。学校の前にとんでもなく可愛い外人がいるって野郎共が騒いでたから、あゆみってすぐに分かったわ。とんでもなく可愛い彼女やからな」

幸太郎は少しチャカして言ってみせた。


「顔グチャグチャやから見んといて」

私は顔を埋めて言った。


「とりあえず帰るか、チャリは今度取りに来るから、今日はバス乗って帰ろう、な。」

幸太郎は優しく言った。


「うん、ごめん」

私はもう一度謝った。こうちゃんの前では最高の状態でいたいけど、猫は被れないみたい。




私の名前はレジーナ・ジュリ。Brazilと日本のハーフ。

パパの都合でBrazilから日本に渡ってきた。

日本はBrazilの私のいた所と違って都会だ。お店もたくさんあるし、土や葉っぱの匂いも全然ない。


日本語はあんまりだったけど、小学校にはタケルとも一緒に行くから怖くはなかった。実際たくさん友達もできたし、周りもチヤホヤしてくれる。勉強できなくても日本語は難しいと言うだけで怒られないしね。何か言われたらポルトガル語で罵ったら相手は黙る。楽ちんすぎる国だわ。


そんな私にはパパの違う姉がいる。あゆみっていう根暗なやつ。日本に来たら学校にもいかずに部屋で音楽ばかり聞いてるから、いつもからかってやるの。

そんな根暗な姉に彼氏ができた。日本人。

あゆみの彼氏はとことん優しい。遊びも宿題も手伝ってくれるし、いつもニコニコしてる。

私はこうにぃと呼んでいる。あゆみが羨ましいと思ったのは初めてだ。

私もタケルもあゆみと話すことってあんまりなかった。

ご飯食べる時もずっと暗い顔して下向いてるから。


こうにぃが家に住み出して、私達姉妹弟の関係はガラリと変わったわ。Brazilではよく遊んでいたけど、、

日本に来てからは遊ぶことなんてなかったのに。

話すことが増えた。遊ぶことが増えた。楽しいって思うことも増えた。あんなに楽しいクリスマスは初めて。

プレゼント開ける時こうにぃは寝てたのは残念だったけど。


年上の男の子はかっこいいし優しい。独占してるのもずるい。2人で遊ぶとタケルもあゆみも割って入ってくる。お邪魔虫め。


家で私とあゆみ、こうにぃの3人になった。

あゆみは服を畳んでいる。


「こうにぃ、あゆーみとちゅうしたことある?」


「いきなりなんやねん、、そりゃ、あるで、沢山な。」

幸太郎は赤面しながらも正直に答える


「Brazilでは誰とでもちゅうするんやで、挨拶やし」

ジュリは当たり前のように嘘をついた。


「だからジュリともちゅうしよー、ちゅー」

ジュリは幸太郎に迫った


「このクソ妹!くっつくな!離れろアホ!」

あゆみはジュリとクララには口が悪い。


「ええやん、ケチクソババア」

ジュリの方が口が悪いかもしれない。


「Brazilではわからんけど、日本じゃ恋人とかじゃないとそーゆのはせんもんやから、その辺の男にちゅっちゅしたらあかんぞ。」

幸太郎はジュリをなだめる。


「えーいーやん、あゆーみにもちゅうするから、こうにぃにも。」


「ジュリとキスとかありえへんから、ホントにやめて。」

あゆみの目は本気で拒否していた。


「じゃあ、まずはあゆーみから!」

ジュリはあゆみに飛びついてキスをした。


「こんのアホ妹ホントにした!」

あゆみは生ゴミを口に入れられたような嫌な顔する


「はい!次はこうにぃ!」

ジュリはあゆみがひるんだ隙に幸太郎に熱いキスをした。


「んが!」

幸太郎は変な声をだして固まった。


「ぎぃややぁぁあああ!!」

あゆみのヒステリックな叫び声が上がる。


畳んでいたタオルで幸太郎の口を乱暴にふく。

あああ、、あああ、、

あゆみはパニック映画にでる女優のように慌てふためいていた。


「ええやん、ちゅうくらい。あゆーみはまだまだガキやな」

ジュリが煽りのビッグウェーブをかます。


「こんのクソガキ!出ていけー!」

あゆみは阿修羅のごとく怒り狂ってジュリを追い出した。


幸太郎はとてつもなく気まづい時間を過ごしたのだった。




あゆみの母親のクラウディアことクララは変わっている。

おおらかで明るい。コメディ映画の主演を張れるような女性だ。

そんなクララが1度だけブチ切れ、レジーナファミリーを恐怖のどん底に突き落としたことがある。


年が明けて少したったある日の夜。

俺とあゆみは部屋でYouTubeのホラー動画を見ていた。


ドンドンドン!!引き戸を凄まじい勢いで叩かれた。

2人ともタイミング悪くホラー動画を見ていたため、ビクッ!とした。


「あけてくれー!助けてくれー!あゆみー!幸太郎!」

つよしの声だ。


俺たちは何事やと思ってドアを開けたら、顔面蒼白のつよしが居た。


「頼む!クララを説得してくれ!あゆみ、いや、幸太郎の説得なら聞いてくれると思う!」

つよしは俺に懇願してきた。


「いったいなにがあったん?」

俺はつよしの肩を持ち問いかける。


「つーよーしー、、、あゆーみとこうちゃんになーにを言ってるのだー?」

クララのドスの聞いた声が聞こえた。

パッとクララを見ると、寝巻き姿にポンポンのついた帽子をかぶり、タバコを咥え、ウイスキーの瓶を片手にもっていた。

スプラッター映画の悪役にしか見えない風貌だ。


「待て、話そう!幸太郎と話そう!」

つよしは俺を爆速で売り飛ばした。

こんなクララは見たことがない。こんなサイコクララと何を話せと?


「とりあえず、、何があったか教えて欲しいな。」

俺はおずおずと聞いた。つよしとあゆみは俺にしがみついていた。つよし、お前のポジションはそこじゃない。


「、、わかった。つよしが悪いかどうか、こうちゃんが決めて。3人ともこっちに来て」

クララは踵を返してリビングに入っていった。


怖すぎるだろ、、、なんやあの酒瓶、、


「私もいく?」

ビビりまくった顔のあゆみの問いに俺とつよしは強くうなづいた。


リビングに入るとクララは立っていた。新しいタバコに火をつけて。まるで新種のマフィアだ。


「こうちゃん、これを見て。」

クララはデスクトップパソコンを操作して、あるフォルダをクリックした。


「ああ。やめてくれ、あゆみの前でそれだけは、、」

つよしの怯えっぷりを見て俺はすぐにわかった。このフォルダにはポルノが入っていると。


クララは無言でフォルダのファイルを開けていく。

画面一面にブロンド女性のあられもない姿がドーンと出てきた。


「へんったい、、、」

あゆみは目をそらしながら呟く。

公開処刑どころか拷問だ。


クララは次々とファイルを開ける。全てブロンドのナイスバディの女性の写真。


「こうちゃん、、どう思う?」

クララは静かにきいてきた。

とんでもない質問だ、、、俺も男だ、気持ちは分かる。

でも家族共有パソコンに保存はダメだろう、、つよし、、

俺も絶望した。男同士守ってあげたい。

でも、サイコクララとあゆみが一緒にいるこの場で弁護は不可能だ。。


「これは、、つよしが悪い、、」

俺は心の中でつよしに謝った。成仏してくれ、つよし。


「そうだよね、、こんなものがあるから、つよしがダメになる。。。」

クララは歩きながら呟いた。そして、つよしのゴルフバッグを持ってきた。殺る気だ。


「おいおい、クララ、クラウディア!それだけはやめてくれ!悪かったよ!二度としない!」


クララは無視して1番デカいクラブをすっと抜き取った。


「ふぅあ!!」

バゴォーン! ゴルフクラブをパソコンに向かってフルスイングした。けたたましい音とともに画面が粉砕した。

本体を蹴り転がした。クララはデスクトップを分かっている。

ガン!ガン!ガン! 無言でクラブを何度も振り下ろす。その度に粉砕されるパソコン本体。

つよしは声をださずに泣いていた。


ふぅ。クララは息を整え、折れ曲がったゴルフクラブを床に放り投げた。

「今日は家からでていけ、つよしぃ、、」

クララは睨み殺す勢いだ。


でていけと言われたつよしは無言でよろよろと立ち上がりリビングから消えた。


「2人も、もう寝なさい。」

クララに言われて、俺とあゆみはそそくさと部屋に戻った。


次の日もつよしは帰ってこなかった。



2月14日。今日はバレンタイン。

日本には女の子が男の子にチョコをあげるイベントが今日はある。Brazilにはない文化だ。

私には女の子が男の子にチョコをあげて、1ヶ月後に男の子からお返しをする。私には理解できなかった文化だ。

お互いでチョコを交換すればいいのにと、女の子だけ不公平だと思っていた。


私は何も用意しなかった。こうちゃんは日本人だから期待しているのかもしれないけど。



今日はバレンタインだ、今まで友チョコは貰ったことはあったが今年は違う。俺には彼女がいる。

平日だからもちろん学校に行き、友達と過ごす。勝ち組の俺はフリーの男共を余裕のある眼差しで見ていた。


俺の通う高校は共学とはいえ男女比率が9:1のほぼ男子校。

1学年500人以上いる、いわゆるマンモス校だ。女の子は微妙なタイプの子でもイケメンの彼氏がいる。

女の子にはシンデレラのようにモテる魔法がかかるのが、この高校の不思議なところだ。


その魔法を私がモテるのだと勘違いさせて、10クラス以上あるからバレないと腹をくくって校内浮気をする女の子が後を絶えない。

中には校内で5股をして、彼氏5人からバレて追いかけられて学校から逃走する。ドロドロなドラマ顔負けの逃亡劇を繰り広げる女の子もいた。

そんなことを1年生の頃から見ていたため、校内の女生徒とはあまり仲良くしなかった。


楽しい学校時間の後は、楽しいデートの時間だ。

ウキウキでレジーナ家に帰る。あゆみ達が帰ってきて、チョコを期待してることを悟られないように自然に振る舞いすごす。


楽しい晩御飯のあと、2人で夜の散歩にいく。

居候しだしてからの平日は晴れていたら夜の散歩デートに出かけていた。特に目的地はないが、会話して歩く。これだけでこの2人には十分だった。


一緒に住み出して毎日会話していても、2人の会話が尽きることはなかった。

街灯と、ポツポツとある店と住宅の灯りのある通りを歩いていた。


「今日もしかしてチョコ待ってた?」

あゆみが突然切り出した。


「あ、ああ、そりゃ初めて彼女ができてからのバレンタインやから期待してまうかな」

幸太郎は照れながら答える


「、、ごめん、何も用意していない。」

あゆみは暗い顔で呟く


「Brazilにはない文化だし、私はそういうのした事ないから分からなくて、ごめん。」


「そっか、、そりゃ仕方ないよな。ごめん、俺の方こそ期待ばかりしてプレッシャーをかけたよな」

2ヶ月ほど一緒に住んでいたからすっかり文化の違いがあることが抜け落ちていた。幸太郎はバツが悪そうに謝る。

1人よがりの期待をしていたこの数日間が恥ずかしかった。


2人は立ち止まり、気まづい雰囲気が流れた。


「やっぱりチョコ欲しかったかな?」


「うん。」

俺は正直に答えてしまった。


しばしの沈黙のあと

「ちょ、、ちょっとここで待ってて!ほんの少し!」

あゆみが突然こっちを見て言った。


「え?あ、ああ、分かった」

突然なことに動揺した。


「ほんの少しだけだから!ここに!」

あゆみはそう言うと走り出した。その先にはコンビニがあり、中に入っていった。


もしかして、、と思いつつ幸太郎は言われた通り待っていた。

少しするとコンビニから出てきて、あゆみがこっちにブロンドヘアーを乱しながら走ってきた。


「待たせてごめん!はい!HappyValentine!」

あゆみは息を切らしながらも、白い歯をみせてニコっと笑った。

その手には青い袋が握られていた。


「もういいのが残ってなくて!コンビニのやつだけど、、」

あゆみの顔は笑顔ではなく緊張に変わっていた。


「嬉しすぎて言葉がでてこなかった、ありがとう、本当にうれしい。」

幸太郎の目は涙が溜まっていた。


「こんなのでごめんね、来年は頑張るから。」

あゆみの目はすでにリベンジに燃えていた。


「ホンマにありがとう、せっかくやから一緒に食べようか。俺飲み物かってくる。」

「あのコンビニに2人で入るの恥ずかしいやろうから、ここで待ってて。次は俺が行ってくる。」

幸太郎は笑顔で言った。


「恥ずかしくてあのコンビニには2度と行けないからお願い。」

あゆみは恥ずかしそうに答えた。


幸太郎はあゆみと同様走ってコンビニに行き、すぐに走って戻ってきた。

その手には甘党の2人が大好きな暖かいココアが握られていた。


「いつもの公園に行こうか。」


「うん!」


2人はお互い手を繋ぎ、もう一方の手にはココアをカイロ代わりに握りしめて。幸太郎の手にはココアと青い袋を持ったまま。


公園の冷えきったベンチに座る。あまり明るくない街頭がぼんやりと公演を照らしていた。


2人でココアを飲み、体の中から温める。


「じゃあさっそく開けてみよう。」

幸太郎はそう言うと、初めての本命バレンタインチョコの箱をあけた。


小さな箱の中にはそれぞれ形の違うチョコが6個はいっていた。2人それぞれチョコを摘み同時に食べる。


「うまいな!」

幸太郎が嬉しそうに言う。


「本当、コンビニのくせになかなかやるやん!」

あゆみが少し皮肉をまじえながらも嬉しそうに答える


その後も寒さで少し震えながらも、楽しいバレンタインの夜が過ぎていった。


あゆみは次の年のバレンタインはクララに頼み込み、2人でチョコレートを作った。

「このチョコレートを食べたらこうちゃん喜ぶよー」

クララはウキウキで秘伝のチョコレシピをあゆみに伝授した。


そのチョコはクララ愛飲のウイスキーがたっぷり詰め込まれたウイスキーボンボンだった。

チョコというよりウイスキーの固形物だったそれは幸太郎に新しい笑い話の思い出を作らせた。




レジーナな家の住むあたりは外国人が多く住んでいる。

在日外国人の人達はコミュニティサークルのようなものを作って、集会場となる人の家にみんな集まって楽しくすごすのだ。

幸太郎とあゆみはクララに誘われて、その集まりに参加することになった。

歩いて数分の場所にある家にお邪魔する。そのリビングに入ると様々な国の人達がいた。

Brazilはもちろん、アメリカ、メキシコ、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパ圏の人達も数人いた。


みんな出身国、人種、性別、年齢、母国語も違う。

来た理由は人それぞれで、中には留学生もいた。

そんな人達に共通点はただ1つ。外国から日本に来た。


みんな様々な悩みを抱えているのだろう、同じ気持ちを持つ人達が集まるというのが心の支えになるようだ。


幸太郎は純日本人の学生のため、大歓迎された。

みんなで楽しく食事して話す。コミュニティの集まりというよりホームパーティーの方が近い。


リビングの中では様々な国の言葉が飛び交う。はたから見れば不思議な光景だろう。

俺はもちろん日本語しか話せないため、みんな日本語で話してくれた。


あゆみは歳の近い外国人の女の子と会わせたくないという嫉妬全開の理由でコミュニティの参加どころか、存在すら幸太郎に教えていなかった。

教えたのも誘ったのもクララだ。あゆみが激怒していたのは言うまでもない。


俺はコミュニティで引っ張りだこになった。理由は日本語の読み書きがしっかりできる人がこの中にはいなかったからだ。

いつしかみんなに日本語の読み書きを教えるようになり、英語圏の人が多かったせいもあり、俺は少しなら英語が話せるようになった。最近までABCの書き方を学んでいたのにだ。

俺は人に教える楽しさを知った。


コミュニティにちょくちょく顔を出すようになると、週末にコミュニティメンバーの1人が経営するCLUBで貸切パーティーに誘われた。


タケル、ジュリはもちろん子供のため不参加。つよしがめんどうを見るため、幸太郎、あゆみ、クララの3人でクラブに向かう。

クラブの前には数人がグラスをもって喋っていた。もうパーティーは始まっているようだ。

店内に入るとEDMがかかっていると思いきや、カントリーミュージックが流れた雰囲気のいい場所だった。

みんなが会話を楽しむための配慮だ。


俺もあゆみも未成年だが、国によって酒の飲めるようになる年齢が違うため全員飲酒OKだった。

店内の隅っこで甘いカクテルを2人で飲みながら雰囲気を楽しむ。あゆみは人見知りなこともあるが、幸太郎を1人にさせない為に常に腕を絡めていた。


よく会うコミュニティの人達とハグし、みんなで会話を楽しむ。2人はほろ酔い気分だった。

クララはウイスキーをラッパ飲みして葉巻をふかしていた。新種のマフィアを再び見た。あんな葉巻きどこからだしてきたんだクララ。


クラブの中には時計がなかったため、時間が分からなかったがいつの間にか人数がかなり減っていた。みんな次の日のために帰って行ったのだろう。


そろそろお開きにしようということになった。すると仲良くなったヒゲモジャツルツルスキンヘッドが行きつけの店にみんなで朝食を食べに行こうと誘ってきた。

俺とあゆみ、クララを含めて11人の大所帯で行くことに。

外に出ると朝日が昇っていた。1晩飲み明かしていたようだ。


ヒゲモジャがついてこーいと言い、先陣きって歩く。

幸太郎たちはその後ろをついて行った。たどり着いた店はチェーン店の定食屋だった。

ここは本当に美味しい ヒゲモジャは目をキラキラさせて言い、店内に入った。


1つのテーブルでは座れないため、それぞれ別れてすわった。幸太郎、あゆみ、クララ、ドイツ人の留学生の4人ですわった。このドイツ人はエレーナという赤毛にソバカス顔の女の子だ。大人しそうに見えてかなり気の強いタイプだ。


4人でメニューを見るが、留学生のエレーナもまだ漢字は苦手らしく読めない。

これなに?と3人に聞かれて俺が音読するということをしていた。


すると、他の7人もメニューを持って俺に聞きに来た。なんで俺にだけ聞いてくるんやと幸太郎は不思議に思った。

ほろ酔いですっかり忘れていたが、このグループで日本人は俺だけだ。

特殊な状況にいることに今さらながら気づくと、ほろ酔いなんてものは消えた。


店内は10人の外国人が立ってワイワイと話しているように見えるため、誰も他に客は入ってこなかった。

俺も入る時こんな状況見たら入らないだろうと幸太郎は思いつつ卵丼をたべた。



レジーナ・あゆみは天然だ。

ジュリやつよしが言うには物静かな人見知りとのことだが、明るい姿しか見たことのない幸太郎はいつも不思議におもっていた。単純に心を開ける相手が幸太郎しかいないだけだが、幸太郎は知らなかった。


2人で外を歩いていると小さな神社が目に入った。


「ねーねー、あの大きい木の枝に板をひいて寝転がったら気持ちいいと思わない?」

あゆみの発想と見た目のギャップが激しい


「ちょっと寄ってみるか」

幸太郎も精神年齢はまだ低いようだ。


小さな神社に入ると、立派な大きい木があった。

あゆみは近くにあった汚いベニヤ板を嬉しそうに引きずって持ってきた。


「登るから、上まで来たらそれを渡して」

あゆみはやる気に満ちていた


「わかった、気をつけろよ」


スルスルと器用に木登りをするブロンドの外国人。シュールな絵面だ。

ブラジルの田舎育ちというだけあって慣れている。


「こうちゃーん、渡してー」

あゆみは太い木の枝に立って呼びかける


「わかったー、はいよ!」

幸太郎は背伸びして板を渡す


「よーし、ハンモックみたいで良い感じやろうなー」

あゆみは板をひくポジションを探して置いた。


ゆっくりその板に足を乗せて体重をかける。あゆみの体重は40kgほどだから大丈夫かなと幸太郎は楽観視していた。


バキバキバキ!

板が大きな音を立てて真っ二つになった。


「ぎゃぁあああ!!」

あゆみは地面に落ちた。


「ううう、、、」


「大丈夫か?!」

幸太郎が駆け寄る


「次こそは必ず、、、」

あゆみは根性がある。


とはいえ、全身痛いようなので幸太郎がおんぶして家に帰ることにした。背負った彼女からはココナッツの甘い香りと土の臭いがした。


土まみれになってしまったので家に帰るとすぐにシャワーを浴びに行った。俺は部屋でのんびりすることにして、ベッドに転がる。特に用もないがスマホを触っていた。


ガラガラと引き戸が開いた。クララだ。


「こうちゃん、あゆーみは風呂?」


「ああ、遊びすぎたから先に入ってるで」


「むふ、じゃあ今のうちにあゆーみの小さい時の写真見るぅ?」

クララはニマニマしながら聞いてきた。


間違いなくあゆみに怒られると思うが、、見たい気持ちが勝った。

「めっちゃ見たい!」


「アルバムあるよーー」

クララの手にはすでにアルバムがあった。


クララと2人で床に座って、ペラペラとアルバムをめくった。

ブラジルのホーム写真なんて見ることはまずないだろう。

写真を見るからに、かなりの田舎で育ったようだ。背景は山ばかりだ。


「これは私のお母さん、お父さん、」

「これは私の兄の子供」

クララが指をさしながら教えてくれる。


「これあゆーみ」

指をさしたのは3歳くらいの女の子だ、小さい頃から悩んでいたクリクリのくせっ毛で可愛い。何故か上半身裸だった。


「これもあゆーみ、これも、あー、、これも」

クララがページをめくって指をさしていく。それはいい。

なぜか指をさす写真に映るあゆみは全て半裸だった。小さい頃の写真とはいえ娘の半裸のホーム写真を、娘の彼氏に見せるクララはぶっとんでる。


気まずい公開羞恥が続いていると、あゆみがシャワーを浴びて戻ってきた。パジャマを着て頭にタオルを乗せてる。


「2人で何してるの?」

不思議そうに聞いてきた。


「あゆーみの小さい頃の裸♡」

クララは悪い母親に違いない。


「いいーーやーー!!」

あゆみの家を揺らす程の叫び声が上がった。


「このクソババア!よくもー!!」

あゆみがクララに飛びかかる。


「あはははーー」

クララは爆笑しながらアルバムを持って、あゆみを華麗にかわすと逃げた。


「はぁはぁ、、、こうちゃん、、頭のどこ殴れば忘れる?

どこをぶっ叩いたら記憶って消える?」

あゆみはタオルを握る手を震わせながら聞いた。


「ごめん、言い訳はしない。好きに殺してくれ」

幸太郎は潔く降伏した。

ゴルフクラブでパソコンを粉砕したサイコクララの娘だ。言い訳すれば苦しむだけだと悟りを開いていた。


その後、殴られはしなかったが、1晩顔を合わせてくれなかった。翌朝にはケロっとした顔をしながら家族で朝食をたべた。



季節はすっかり夏になった。幸太郎もタケルもジュリも夏休みに突入した。

とはいえ、幸太郎は実家には相変わらず戻らずにレジーナ家に居候している。年末年始も帰らなかったのに親から連絡のひとつもないのはおかしい。つよしとクララは幸太郎の家族関係を心配していた。


つよしは親に連絡して、幸太郎を連れて会いに行こうと提案していた。

クララはそんな母親に幸太郎を渡すわけにはいかない、もう私の息子なんだから、私達で育てよう。そう言い続けていた。


そんな大人の相談が夜な夜な行われていることも知らずに幸太郎達は平和な時間を過ごしていた。


「プールに行きたい!」

あゆみと幸太郎の部屋の引き戸を勢いよく開けて、すでに水着をきたジュリが吠えた。


「1人で行けクソジュリ!」

あゆみはスパッと妹の意見を両断した。


あゆみは見た目も相まって、人目につく。だから昼間は買い物以外で外にはでない。インドアタイプだ


「じゃあ、こうにぃ2人で行こう!」

ジュリは気にもとめずに幸太郎を見る。


「プールええなぁ、暑いし、ウォータースライダーすべるぞジュリ」

幸太郎はノリノリだった。


「え?行くの?!」

一瞬で仲間はずれになったあゆみは慌てる


「たまにはええやん、行こうや」

幸太郎は晴天の笑顔で誘う


あゆみは幸太郎の誘いを断らない。ジュリには全て読めていた。


「あーー、わかった、、でもプールには入らない!水着いや!」

あゆみは肌をだすのを極端に嫌う。白人系だから日焼けを特に気にしているのだ。

幸太郎とジュリは服の下に水着を着て、浮き輪も用意してすぐに外に出た。あゆみはなかなか出てこない。

玄関の前で幸太郎とジュリは大粒の汗を流しながら溶けそうになっていた。

あゆみが出てきた。迷彩柄の上着にスキニージーンズ。黒のキャップをかぶり、デカいサングラスをかけていた。

女ギャングにしか見えない。


「あゆーみ、頭悪そうな服着てる、、、」

ジュリは皮肉を呟いた。


幸太郎が自転車を漕いで、あゆみは後ろに座った。ジュリは小さい自転車に跨って、早く行くよー!と元気よく軽快に自転車をこいでいった。こんな夏の日も良い。


3人は市民プールにたどり着き、駐輪所に停める。たくさんの自転車と車が停り、近くのバス停から歩いてくる子供連れの家族がたくさんいた。


秒で服を脱ぎ、ロッカーにカバンと服を叩き込む。

更衣室をでるとすでにジュリがピンクのフリフリ水着を着てあゆみと浮き輪を膨らましていた。

人から見ると子連れの夫婦に見えるのだろうか?と微笑ましいことを幸太郎は考えていた。


女ギャング(あゆみ)は日陰にシートをひいてダラダラとしていた。幸太郎とジュリはとんでもなくはしゃいだ。


波の出るプールには指の皮膚がふやけるほどいた。

浮き輪の真ん中の穴に2人でズボッとはいって何周も流れるプールを周回した。


「ジュリ!ウォータースライダー乗るぞ!」


「いくー!」


幸太郎とジュリははぐれないように手を繋いで列に並びに行った。その2人の姿を嫉妬の目で睨みつける女ギャング(あゆみ)がいたのは言うまでもない。


食事も取らずにひたすら遊び尽くし、クタクタになった2人と女ギャング(あゆみ)はのんびりと家に帰った。

行く道中の勢いなどなく、ゆっくりと家族の待つ家に。




幸太郎とあゆみが恋人になり2年の月日が経とうとしていた。2人は変わらず仲良しで信頼し合う良い仲だ。

幸太郎は高校三年生になっていた。進路をどうするか、真剣に決める時が来ていた。


2年近くレジーナ家に居候をしている。バイトしたお金の中から生活費をクララに渡すのは今も欠かしていない。

つよし達の作業着の隣に学生服が掛けられているのも、今では当たり前の定位置だ。


ある夜

「このままじゃダメだと思う」


つよしとクララは夜中にダイニングでコーヒーを飲みながら大人の会話をしていた。


「幸太郎は来年の春前には高校を卒業する。でもずっと家で生活してて、実家にも1度も帰ってない。。幸太郎の母親はどうなってるんや、、、」


「つよし、何回も言うけど、幸太郎はもう私の息子だから関係ない。そんな母親は母親じゃない。生んだ人なだけ。」


「そうは言っても現実の母親はクララじゃない。俺は幸太郎のことを大事に思ってるし、いい子だ。あゆみを明るくして、この家族の一員だから、その母親に腹が立つ。」


「親子での進路相談だってあるし、進学か就職か、たくさん親が絡む事が増えるのに、、」

つよしは辛そうに言った。


放任主義にも限度はある。学費を払っている分まともなのだろうが、学費以外なにもしない。という見方のほうが正しいのかもしれない。


「ふぅ、わかった。私が本当の母親になればいい。それだけでしょう?」

クララはあきれたように言う。


「引き取るってことか?それこそ揉めるぞ。」

つよしは苛立ちながら言う。


「ちがう。」

「こうちゃんの誕生日は5月6日。その日に18歳になる。あゆーみはまだだけど。」

クララはニヤリと笑う。


「あ、、そういう事か。。」

つよしは気づいた。



次の週末の日曜日。クララとつよしに4人で話があると言われてダイニングに幸太郎とあゆみは行った。


「2人とも座りなさい」

クララが珍しく真面目な顔で言う。


4人席について、1呼吸しクララが話始めた。


「こうちゃん、母親とは連絡取ってるの?」

クララの言葉にあゆみが反応した。


「いや、高校に入るちょっと前くらいから1度も話してないし、2年以上顔も見てないと思う。」

幸太郎は正直に答えた。


「スマホを見せてくれ、電話の履歴にお母さんがいないか確認したい。」

つよしが続けて質問した。


幸太郎は、はいと言ってスマホを渡した。幸太郎とあゆみの笑顔のツーショットが壁紙につかわれている。

電話履歴をタップすると、あゆみ、クララの名前と友達らしき人物の名前しかなかった。

母親と兄の履歴はどこにもなかった。


「ライン見ても?」

つよしが尋ねる。


もちろんと言うので、ラインを開いてチェックする。

こちらも、あゆみとクララを筆頭にクラスのグループや男友達のものしか無かった。

初めて見る幸太郎の個人情報の塊をあゆみが1番食い入るようにみていたが。


「よく、、わかった。」

つよしが苦虫を噛んだような顔で言った。


「こうちゃんがあゆーみの恋人になった時から私の息子になったの。それは前から言ってたよね」

クララは優しく語りかける。


「うん、クララがオカンなら俺も嬉しい」

幸太郎はクララに真っ直ぐ答えた。


「もうすぐ18歳の誕生日だよね? あゆーみとその日結婚しなさい。」


「え?いいの?」

あゆみが嬉しそうに反応した。


「本当は20歳超えるまで待って欲しかったけど、もう2年近く一緒に住んでるんだからいいかなって。そうしたら私とつよしが親になれるし。」

クララはニコッと笑った。


「幸太郎はどう思う?10代でまだ学生や。これから色んなことが人生で起こる。しっかり考えて決めてくれればいい。俺もクララも待つから。。。あゆみは早く返事しろって顔をしてるけどきにするな」

つよしも優しい笑顔で言う。


「私はこうちゃんと結婚したい。こうちゃん以外なんて考えたくもないし。ありえない。ね、結婚しようこうちゃん。」

あゆみからの逆プロポーズを家族の前で受けた。


「俺は大学行って勉強しようなんて思ってないし、いつ言おうか迷ってたけど、3人のいる職場で働きたいってずっと思ってた。」

「こんな最高の家族の一員なって欲しいって誘われて、愛してる人にプロポーズもされて、、悩む理由も時間もいらん。」

「あゆみ、結婚しようか。」

幸太郎はあゆみに向かってにこやかに言った。


「やったー!」

あゆみは飛び上がり、幸太郎にキスをした。


「いやーん、あゆーみ恥ずかしいわー」

クララがいつも通りおどけている。



5月6日。幸太郎は学校をやすんだ。

婚姻届にはつよしとクララ、コミュニティで仲良くなった人に名前も書いてもらった。幸太郎がレジーナ家に婿養子になるとうことで、レジーナ・幸太郎になる。

結婚することは母親にも兄にも言わなかった。言う必要もないだろう。

2人で役所に行き、ただ紙を提出するだけだったけど2人には特別すぎる時間だった。


その日の夜は新しい夫婦になった2人と、賑やかな家族、コミュニティのみんなで、以前行ったCLUBで盛大な結婚パーティーが開かれた。


指輪もウエディングドレスもタキシードもないけれど豪華な食事にバカデカいケーキ。盛大に祝ってくれる人達がいる。この時代において最も人が楽しんだパーティーだろう。


近いうちにウエディングドレスとタキシードをきた2人をドレスアップしたみんなが祝う。そんな結婚式をあげるだろう。この時代において最も素敵な結婚式になるのは間違いない。


俺の初めての恋人は外国人だ。

私の初めての恋人は外国人だ。


お互い育った国も、母国語も違う。文化や風習も。

そんな2人は名実共に本当の家族になった。


レジーナ家からはいつも楽しそうな声が聞こえる。たまに女性の怒鳴り声や叫び声もあがるけど、その後必ず楽しそうな笑い声が聞こえる。

今日も明日もこの家族は賑やかだ。




実話ホラーもかいてます

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