第三話 これからも
「あれだけ確認したんだから、本当は絶対催眠に掛かってるはず! 解除! 解除!」
スマホを受け取った詩織は、再び俺に画面を見せながら『解除! 解除!』と繰り返した。
そんな彼女に、俺は我慢できなくなって──
「ぷっ」
思わず吹き出してしまった。
俺の様子を見て、詩織は頬を膨らませた。
「あー、もう! 台無し!」
「ごめんごめん」
「もー。健司くん変わらないなぁ。そういうノリが悪いところ!」
「ごめんって⋯⋯ぷぷ、でも去年はスニーカーで、今年は何かと思えば⋯⋯催眠アプリって⋯⋯ぷぷぷ」
「もう、一生懸命考えたのに! 意地悪!」
そう、これは⋯⋯。
俺と彼女の『ミニコント』なのだ。
詩織は記念日になると、二人の思い出の品を持って来て、俺にミニコントを仕掛けるのだ。
二人の記念日に、古い思い出を持ち寄って、新しい思い出になるように。
俺もできる限り乗るようにしている。
だから頭の中で役に入りきろうと、彼女の言動に振り回されているかのように色々考えていたのだが⋯⋯今年は詩織が持ってきたネタが、意外過ぎて乗りきれなかった。
今なら、あの時の高橋と渋沢の気持ちが分かる。
端から見ればバカバカしい、つまらないミニコントだとしても。
二人で楽しめるなら、それでいいじゃないか。
大事なのは、人にどう見られるかじゃない。
好きな人と、楽しさを共有する事なんだ。
「そう言えば⋯⋯実は今年は、俺も小道具を用意したんだよね」
膨れっ面の詩織が、興味ありげな表情へと変化した。
「へー、珍しい、なになに?」
俺は用意していた物をカバンから取り出し、詩織へと差し出した。
詩織は、俺が用意した青い箱、そして中にある指輪をしばらく凝縮してから、言った。
「⋯⋯これ、ミニコント?」
詩織の言葉に、再び笑いそうになってから、俺は答えた。
「そうだよ、でも⋯⋯今回のコントは一生続けてもらわないといけないけど」
俺の言葉に、詩織はにこりと笑って言った。
「それだとミニじゃないじゃん! ⋯⋯でも、そのコント、乗ってあげる!」
そんな言葉とは裏腹に、詩織は手を震わせながら、俺の指輪を受け取ってくれた。
──これは六年目の記念日。
端から見ればつまらなく、バカバカしいと思われるかも知れない、俺と詩織のミニコントの話。
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