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俺の死んだ日 〜猫たちの時間8〜  作者: segakiyui
2.夢少女
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「夢、少女……これ、何のキャッチフレーズか、わかる?」

「それぐらい知ってる」

 少々むっつりして答える。

「春日井製薬の鎮痛剤、ゼコムのキャッチフレーズだろ、『少女の悩みは失くなった』とか言う…」

 顔がなんとなく熱くなる。ゼコムは特に生理痛などの鎮痛によく効くらしい。

「それがどういう関係がある?」

「小沢薬品のパスフェンA錠って知ってる?」

「いや…聞いたこともない」

「実は、この2つの薬、ほとんど同じなのよ」

 ソファに凭れたお由宇は薄い笑みを刷いた。

「ほとんどってことは、どこか違うのか?」

「ほんの少し、ね。でも、それで、この事件が別の面から大きな意味を持ったわ」

「遠回しに言われても、俺にはわからんからな」

 不貞腐れてサングラスを鼻の上までずり落とすと、お由宇はくすりと笑った。

「簡単に言えば、今度の産業スパイ事件は、このゼコムとパスフェンAのことなのよ。初めに売り出したのは小沢薬品だったけど、その後、パスフェンA錠より鎮痛効果の高い、でもほとんど同じ種類の薬、ゼコムが春日井製薬から売り出されたわ。今の所、データが流れた経由は、小沢薬品が検査を依頼していた鳴田薬物研究所を通じてだろうと考えられている」

「ふん」

「これだけなら単なる産業スパイで済んだんだけどね、ゼコムとパスフェンAには大きな違いが1つあったの。それは『依存性』と言うこと」

「依存性?」

「この薬には、ある程度の投与量を超えると『依存性』が出てくる傾向があってね。それもアヘンアルカロイド系とは全く違う、一種の麻薬とでも思えばいいわ。その薬を常用していると、次第に症状がなくても飲まずにはいられなくなってくるの。この『依存性』を極力抑えたのがパスフェンA、逆にそれこそを売り物にしたのがゼコム」

「待てよ」

 混乱して口を挟む。

「薬っていうのは、体を治すためのものだろう?」

「ある説ではね」

 お由宇は皮肉っぽく笑った。

「でも製薬会社によっては、治療を第一とするより、売れ行きを優先するところもある。そういった意味ではゼコムは救世主よね。おまけにこの薬は『依存性』を抑えれば抑えるほど薬効が減るの。『そういった意味』で短期的に見れば、ゼコムの方が薬効も上で安上がりと言うことになるかしらね」

 いったい世間の大人どもは何を考えてるのやら。

 俺は溜め息をついた。

「…それで、ゼコムは『夢、少女』のキャッチフレーズで大々的に売り出された、と。それはわかったが、それが周一郎とどういう関係がある?」

「まあもう少し待ってよ。ところで、この小沢薬品のデータは、鳴田薬物研究所にほぼ納めてあるんだけど、それをマイクロフィルムに撮ったものが春日井系で発見されれば、ゼコム誕生の裏は白日のもとに晒されるわけよね? で、このマイクロフィルムを持っていたと思われるのが、父の補佐的な役目をしていたと思われる春日井あつし」

 マイクロフィルム。

 映画や小説ではお目にかかる単語だが、どのような形状のものか今ひとつピンとこない。

「あの、お由宇」

「なあに」

「マイクロフィルムって、その、今でも使ってるものなのか?」

「耐久性が100年~500年、リーダーさえあれば読み取り可能な媒体は他にはないわね」

「パソコン系のやつは」

「故障したり劣化したり、特に閲覧するための再生機器が次々変わるから保存性は悪いの」

 なるほど。

「で、小沢薬品のバックに居たのが、朝倉周一郎率いる朝倉財閥」

「!」

 お由宇の瞳が面白がってでもいるように、魔的なきらめきを宿した。


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