聖女は見た
「いえーーいかんぱーい!」
おじさんとこの高い酒もおいしいけど、わいわいと飲む安酒も美味しいよね。
「よぉねーちゃん! そんな若ぇうちから酒ばっか飲んでっと大きくなれねーぜ?」
「特にあそこがよぉ!」
「ぎゃっはぁ! 俺が大きくしてやんぜぇ!」
『風弾』
「がっ!」
「ぎっ!」
「ぐっ!」
あー魔法が使えるって素晴らしい。腐れゴブリンなんか全員ぶっ飛ばしてやるんだから!
「さすがは教師だけありますな。そこそこの腕を持つ冒険者に避ける隙も与えぬ風弾斉射とは。恥ずかしながら発射されるまで気づけませんでした。」
「お世辞はいーんですよ! どうせ風弾じゃないですか! こんなの当たっても死にはしませんから! げっふーい! おかわり!」
「いや、出会い頭にあれを撃たれると危険ですな。騎士団でも躱せる者が何人いることか。お見事です。」
もーレインフォレイトさんの嘘つき! 騎士ならあの程度の魔法なんかわざわざ躱す必要なんかないくせに! はぁ……私もお酒ばっかり飲んでないで強くならないとなぁ……結婚する前に死にたくないし。ぐすん……
『風弾』
「ちょっ、先生!?」
「ほらぁ! やっぱり! レインフォレイトさんたら避けずに防ぐじゃないですか! 分かってるんですから! 私の風弾の威力なんてその程度なんですから! うぇぇええーーん!」
「勘弁してくださいよ。手の平がめちゃくちゃ痛いんですから。ささ、おかわりが来ましたよ?」
「えへへ、わーい! かんぱーい!」
はぁ美味しい。それにしてもレインフォレイトさんて強いなぁ。魔力は全然大したことないのに。今の身のこなしからするとデルボネル先生と同じぐらいかな。私じゃあ相手にならないってことかぁ。なんとかびっくりさせてやりたいなぁ……はぁ冷たいエールが美味しいなぁ……
「それよりミシュリーヌ先生、私のことはクリスと呼んでくださいよ。いちいちレインフォレイトなんて長ったらしい呼び方をするのも面倒でしょう?」
「クリス……ですか……?」
「ええ、私達は同じ年齢なのですから。」
クリス……あのクソ貴族野郎……
「酔いが醒めたので帰ります……ご馳走様でした……」
「あ、ちょっ、ミシュリーヌ先生!」
うるさい! あいつみたいに私の名を呼ぶな!
「先生! お待ちください! 昨日の今日なんですよ!? どこにあいつらの残党がいるか……失礼なことを申し上げたのなら謝りますから! お一人では……」
うるさいうるさい!
『烈風弾』
「ぐはっ! ミシュ……」
「えっ? な、なんで……?」
なんで防がないの!? 今の中級魔法だよ!?
「ちょ、ちょっとレインフォレイトさん! 大丈夫なんですか!? 直撃したじゃないですか! 防いでくださいよ!」
「む、無茶、言わないで、くださいよ……下級魔法じゃ、ないんですから……ぐふっ……」
ど、どど、どうしよどうしよ! 騎士に怪我させちゃったよぉぉぉーー! 罰金じゃ済まないやつだ……終わった……
お父さんお母さん……あなたの娘は犯罪者になってしまいました……せめて連座だけは免れるように私を勘当して……
いやいや! そんな場合じゃない! レインフォレイトさんを治療院へ連れてかないと! 絶対肋が数本折れてるよぉぉぉーー! それから自首しよう……鉱山送りかな……
「……というわけなんです……お金はありませんが彼を治してあげてください……私は騎士団詰所に自首しに行きますから……」
「事情は分かったよー。でも詰所に行くのはやめた方がいいねー。騎士さんの出世に関わることだからねー。」
あっ、確かにそうだ……
私みたいなか弱い女に骨を折られたなんて知れたら面子が丸潰れになっちゃう……
なんてことしちゃったんだよぉぉぉーー! どうやって償えばいいのぉぉぉーー!
「あの、それからお支払いのことなんですけど……」
明日校長に前借りを頼もう……数ヶ月に渡ってお酒を控えるしかないよぉぉぉ……
「あら? ウネフォレト先生じゃないですか? 珍しい所でお会いしますわね?」
「せ、聖女様……」
最悪だ……
クタナツで一番恐ろしい方に見られた……私が今まで築き上げてきた教師としての評価が……灰塵に……