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失くした片靴

結局私は治療院まで連行されてしまった。治療費は銀貨九枚、九万イェン……はぁ……来月は飲みに行けないよ……

まあ骨折がすぐ治ったんだし……良しとしよう。


「立て替えていただきありがとうございました。来月末、必ずお返しにうかがいます。」


「お待ちしております。騎士は安月給なもので。それにしてもきれいなお顔に傷が残らなくてよかったですな。」


きれいな顔って嘘ばっかり! どうせ子供みたいな肌って言いたいんでしょ!


「はは……ありがとうございました……」


「おっと、そうそう。そのブレスレット、似合ってませんよ?」


ブレスレット? ああ、さっき貰った奴か……

あっ! これ……まさか『封魔の腕輪』!?

こんなお洒落なブレスレットタイプがあるなんて……知らなかった……だから魔法が使えなかったんだ……


あーんもー! 教師のくせにこの程度のことも見抜けないって思われてるよぉ!

んがー! もー! 恥ずかしい! これは飲んで忘れないと! でももうお金がないよぉ……うぇーん……






はぁ、クリストファーさんか……


顔はあいつと全然似てない……


あいつと違って、腕が立って……


あいつと違って、職務に忠実で……


あいつと違って、目が利いて……





あいつと同じ、最低の名前……






「校長先生、昨日は申し訳ありませんでした。以後、このようなことがないように努めます。」


「いいんですよ。人間誰しも心に傷はあるものです。ああそうそう、マーティン君は少し青春の理解が甘かったものですから、軽く忠告しておきました。いやいや、青春とは良いものですね。」


「はあ……そうですね……」


この校長も不思議な人だよなぁ……ごっついハゲの大男なのに喋りはやたら丁寧だし。その上クタナツ最強の一角、なのにずっと独身で女性の噂が全然ない。モテそうなのにな……





はあ……今日も一日頑張ったな。帰ろ……


「おいミシュリーヌ! 飲みに行くぞ!」


「私、お金ないですよ? 奢りですか?」


「じゃあまた明日な!」


あぁ……行ってしまった。同僚の体育教師デルボネル先生。赤い髪と引き締まった体、カッコいいけどケチなんだよなぁ。一度も奢ってもらったことがない。あんな奴でさえ結婚してるのに……奥さんはどれだけ出来た人なんだろう……

私なんか靴がないなら裸足で歩けばいいやって思っちゃう女なのに……

昨夜、治療院を出た後に気づいたんだよな……お気に入りの靴が片方なくなってたことに。あれすっごく高かったのに……

靴の名店チャウシュブローガでサントリーニ親方直々に仕立ててもらったジョッパーブーツ。ブーツが脱げても気づかないなんて……あぁもう……

とりあえず昨日の現場を探してみようかな。はぁ……




「こんにちはミシュリーヌ先生。」


「えっ? あっ、昨日の……クリス……いやレインフォレイトさん。昨日はお世話になりました。」


「ブーツをお探しなんでしょう?」


「え、ええ。落ちてました?」


「ええ、拾ったので届けておきましたよ。チャウシュブローガへ。四階から飛び降りたんでしょ? かなり傷んでましたから。」


「そ、それはどうも……」


靴底の打ち直しコースかな……絶対払えないよぉぉぉーー! 何余計なことをしてんのこの騎士さんはぁぁーー!


「ああ、代金はご心配なく。すでに払っておきました。昨夜大笑いをしてしまったお詫びです。ですが先生、お酒はほどほどにされた方がよろしいかと。」


もおぉぉぉーーー! どこまで私を……


「余計なお世話です……代金はいずれお返しします……酒しか楽しみがない女で悪かったですね……」


「いや! ち、違うんです! そんなつもりでは! ただ、その、先生があまりに可愛らしいので、つ、つい!」


「いい加減にしてください! 私もう二十九なんですよ! あなたみたいな若くして副長にまで出世してる騎士に何が分かるってんですか! 酒場で声をかけてくるのはカスみたいな男ばっかり! 職場の男どもは私のことなんか相手にもしないし! そんな私のどこが!」


自分で言ってて泣きそうだよぉ……ほぼ初対面で歳下の騎士を相手に何言ってるんだろう……


「あ、私も二十九歳です。確かに同期の中では出世してる方ですね。てっきり歳下かと思ったら奇遇ですね。」


「歳下でなくて悪かったですね……」


「いやー私もよく若く見られるんですよ。奇遇ですねー! どうですか? ここであったのも何かの縁です。軽く飲みにでも? もちろん私が持ちますとも!」


お酒! お酒が飲める!


「ち、ちなみにどこで飲むおつもりで?」


「ギルドの酒場でどうですか? なにぶん騎士は安月給なもので。」


「ぜひ! お酒が飲めるならどこでも!」


「少しは警戒しましょうよ……」


今さら取り繕ってもね……もう本性バレてそうだし。


「いいんです。もう私にはお酒しかありませんから! お酒を飲むためなら恥をも飲み込みます!」


「いや、恥って……私と飲みに行くぐらいでそんな……」


もうどうでもいい! お酒さえ飲めれば後はどうにでもなれ! はぁ……女子力って何だろう……

校長の忠告とはこんな感じです。


『68、カース、さらに酔う』


https://ncode.syosetu.com/n5466es/68/

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― 新着の感想 ―
[一言] >昨夜、治療院を出た後に気づいたんだよな……お気に入りの靴が片方なくなってたことに。あれすっごく高かったのに…… これぞシンデレラ!!!
[一言] いやそれでも、金がない時、飲めるのは「し・あ・わ・せ」。
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