ミシュリーヌとクリストファー
「この度はありがとうございました! これからは聖女様の教えを胸に刻んで生きていきたいと思います!」
「あら? 私の教えって何かしら?」
「はい! 奪われたら取り返せってことですよね! 確かにクタナツでは弱者に居場所なんかありませんもんね! 私、強くなります!」
ああ、なんてお酒がおいしいのっ! 止まらないぐーびっ。
「違うわよ?」
「はへ? 違うって?」
「当然だわ。泥棒猫ごときが奪ったゴミを取り返してどうするの? 私が言いたかったのは、貴方ほどのいい女を捨てる男なんか殺せばいいってことよ? さっきのように全力でね。」
「あ、あー……」
この人なに言ってるの……引くわー……ぐびっ。あぁーだから皆殺しの魔女って言われるんだなぁ……ごくり。
「じゃ、それは返してもらうわね。アランに貰った大事なネックレスなの。」
「えええぇぇぇーー!?」
そ、そんな大事なものを!? き、傷なんか付いてたら……
「大丈夫よ。金剛石は傷付かないの。さ、お代官様がお待ちよ。賞品を貰ってきたら?」
また私の心が読まれてるぅぅ……
「は、はいぃ!」
忘れてた! お代官様を待たせちゃってたぁー! よし……最後の一杯、ごくり。ぷはぁー美味しーい! この味、どこかで飲んだよね……どこだったかな……あ、おじさんのとこだ。
「ミシュリーヌ・ウネフォレト。貴殿の激闘に敬意を表してこれを授ける。また、魔女殿に臆せず攻撃を仕掛けた勇気にも感服した。今後ともその調子で子供達を導いてやって欲しい。」
「あ、ありがとうございます! がんばります!」
中身は何かな。どう見てもお酒じゃないよね。
はぁー緊張したぁ。あ、あっちのテーブルまだお酒が残ってる。もったいないよね。よし、私が飲んであげよう。ぐびりぐびり。おいしー。
「ミシュリーヌ先生、おめでとうございます。」
むっ、さっきは呼び捨てだったのに……
「もうミシュリーヌとは呼んでくれないんですか?」
「さっきは、その、勢いで……ミ、ミシュリーヌ……」
「なんですかクリス?」
あ、私も自然とクリスって呼べてる!
「本心を言います。一目惚れでした。満身創痍でも立ち上がり、一人でも毅然と歩くあなたの姿はとても美しかった。きっとそれこそがクタナツ女性のあるべき姿。私の心を捉えて離さないのです。」
「クリス……」
「それを貸してください。」
え、これ?
私の手から箱を取り、開けるクリス。
あっ! 金剛石のネックレス!? 小粒だけど私ではとても買えないやつだ!
「動かないで……」
きゃっ、こ、こんな人前で……首に……
「やはりあなたには金剛石がよく似合う。強く可憐なあなたに相応しい。ですが……いつかきっと、それより大きいのを手に入れてみせます。その日まで……そしてその日からも、ずっと一緒にいてくれますか?」
「いりません。必要なものはもう手に入りました。あなたこそ、浮気をしたら殺します。それでも私と一緒にいてくれますか?」
「ミシュリーヌになら殺されてもいい。もう、離さない!」
きゃっ! も、もう……こんなパーティー会場で抱きしめられたら……恥ずかしいよぉ。
はぁ……でも、なんだか安心するなぁ。
あっ、音楽が始まった! 今度こそ楽しく踊れるかな。
「クリス、踊ろう?」
「ああ、踊ろう!」
あぁ……楽しい。これが青春なのかなぁ……
今はただ、音楽とクリスに身を任せて……この夜が終わるまで。