余興の時間
で? 余興って何するの!? ぐびぐび。
『たまには童心に帰るのも良いとは思わぬか? そこでだ! 魔法対戦を行うこととする!』
魔法対戦かぁー。これならルールは王国中どこでも共通だから簡単だよねー。離れた所から魔法を撃ち合って、倒れたり円から出た方が負けなんだよねー。私ってこのルールならデルボネル先生にも勝てるんだよねー。えへへー。
『参加希望者は舞台に上がってくれ! 賞品も用意してあるからな!』
賞品かぁー。お酒だったらいいなぁ。
「ミシュリーヌ、挑戦するのかい?」
「するよぉー。クリスはぁー?」
「するわけがないよ。勝ち目がないからね。」
もー嘘つきぃー! いいもん! 賞品のお酒分けてあげないんだから! ぐびぐび。
『それでは参加を締め切る! ルールを確認しておく! と言っても何ら変わったことはない! 好きに魔法を撃って相手を円の外に追い出せばよい! なお! 魔女殿が防壁を張ってくださるので流れ弾や誤射の心配はせずともよい! おのおのがた! 全力を尽くされい!』
よっしゃー! やっぱり聖女様は参加しないよね! 読み通り!
えーっと参加者は……十六人かぁ。ぐびぐび。げふぅい。
『では始めるぞ! 第一試合は……』
へー。みんなやっぱり強いなぁ。油断できないよぉ。ぐびり。
『第四試合を始める! 一人目はミシュリーヌ・ウネフォレト! 二人目はクラリッサ・ド・クライン!』
げっ、あの上級貴族だ。
『始め!』
「ちょっとあんたさぁー? あんまりちょ『水球』っぼっげぇぇーー」
もう始まってるのにバカだなあ。
『二回戦を始める! 第一試合は……』
うーん。やっぱり何も気にせず魔法を撃てるってのはいいなぁ。授業だとかなり手加減しないといけないもんね。まあ全力を出しても勝てない生徒もいるけど……
『第三試合! 一人目はミシュリーヌ・ウネフォレト! 二人目は『水烈弾』
あーいっけなーい。開始の合図の前に攻撃しちゃったー。
『勝者ミシュリーヌ・ウネフォレト!』
それでも許されるのがクタナツのいいところだよねー。どんな手を使おうとも勝てばいいんだから。げふーぅい、ぐぁばぐぁば。ぷはー。
『さあ! 残り四人となった! 本来ならばここから準決勝といくのだが! 私は眠い! よって! 四人でバトルロイヤルとする! 何でもありだ! 始め!』
あらー、三人とも私を攻撃してきたよぉー。もー酷いなぁ。
『氷壁』
手堅く防御しよーっと。あれ? あっちの人ってもう魔力が切れてる。後先考えないで魔法使っちゃったのね。だめだなぁー。『水球』
はい一人だつらーく。やっぱり弱い者から仕留めないとね。
うわー……困ったなぁ……残った二人……強いよぉ。一対一ならギリギリ勝てそうだけど、どうしようかな……
「ねえねぇ、あなた達はどっちが賞品を貰うことになってるの?」
「何ですって!?」
「私に決まってるわ!」
「え、ちょっと!?」
「残存魔力は私の方が上! だからこの後の戦いは私の勝ちですわ!」
「ふーん。あなたはそれでいいのぉー?」
「ふざけっ『水烈弾』『水弾』
よーし後一人ぃー。バカでよかったなぁー。見覚えのない顔だし、きっとクタナツの子じゃないと睨んだ上での口車。だいせいこーう。
「なっ! そんな!?」
「後ろ、危ないよ?」
「はっ? その手には乗りっぶほぉぉー」
あーあ。さっき撃った水弾が危ないって教えてあげたのに。魔法使いは全方位を警戒しないといけないんだよ? 学校で習ったはずなんだけどなぁー。ぐびぐびぐび。ごふぅい……
『氷壁』
おっと危ない危ない。風斬が飛んできたよ。勝敗が決まっても攻撃が止むとは限らないんだよね。残心大事……え? ちょ、ちょっとぉーー!
「さすがウネフォレト先生ですわ。見事な勝利でした。その後も微塵も油断されてませんでしたね。それでこそクタナツの教師。この場の皆様も安心して我が子を預けられることを再確認しましたわ。」
せ、聖女様?
「は、はい! あ、ありがとうございます!」
ぐびり……
「そこで私からも賞品を出したいと思いましたの。気付かれました? 先生が今首にかけておられるネックレス。実は本物の金剛石なの。今から一分、私に好きに魔法を撃っていいですわ。私は魔法を使いません。一発でも当たったら先生の勝ち。そのネックレスをそのまま差し上げます。」
「じゃ、じゃあできなかったら……?」
ぐびり……
「レインフォレイト君に若くて可愛い子でも紹介しようかしら?」
そ、そんな……ぐびぐび。
「やってくれミシュリーヌ! 君の本気を見せてくれ!」
くっ……他人事だと思っ、違うか。彼は私を信じてくれてるんだ。ぐび、私なら聖女様に勝てないまでも、一発ぐらい当てられるって!
「分かりました聖女様。この勝負お受け『水弾烈破』
不意打ち上等! 有無を言わせぬ上級魔法! 後のことなんか知るか! まだまだぁ!『氷斬円陣』
反撃が来ない! でもまだよ! 『氷散烈弾』
とどめ! 『氷棺密葬』
あれ? おかしい……私の氷棺密葬は対象を氷の棺に閉じ込めてそのまま圧縮し何もさせずに圧死、凍死、窒息死させる魔法。なのに……氷が棺に成ってない? 形作ることなく散逸していってる……ぐびぐび……げふっ……
「お見事だったわ。一発当てるどころか私を殺す気で攻撃してきたわね。素晴らしいわ。でも約束は約束。レインフォレイト君には今度若くて可愛い子を紹介するわ。いい?」
「分かりました。いいです……」
「そんな! ミシュリーヌ!?」
「でも! 私は諦めません! 必ずクリスを奪い返してみせます!」
「ミシュリーヌ……」
やっと分かった。聖女様のおっしゃりたいことが。以前の私はあのクソ野郎に捨てられたからって諦めて世を呪ってた。でもそうじゃなかった。奪い返せばよかったんだ。たったそれだけのことに気付かずに……
私なんかのためにこんな大舞台でここまでして教えてくださるなんて。やっぱり慈愛の聖女なんだ……ありがとうございます……聖女イザベル様。ぐびぐび。




