深まる夜と酔い
うわぁ……会場が一気に静まっちゃった……
あぁー! 聖女様のドレス! 深い赤一色ですっごく綺麗……なのに脚のところが! 腰ぐらいまで縦に切れてるぅぅぅーー! な、なにそれ!? 細く美しいおみ足が!
聖女様がそんなことしていいのぉぉぉーー!? あの人って生まれは上級貴族なんでしょぉぉぉーー!? 左肩だって私と同じ! ばっさり切れてて肩が剥き出しになってるぅぅぅーー!
会場中の視線を集めたまま聖女様は夫のアランさんと腕を組み、ゆっくりと歩きお代官様のもとへ。軽く一礼をしてその場を後にした。次はどこへ行くんだろう。
え? 待って待って!? こっちに来てない? 嘘、やめて! こ、来ないでくださいよぉぉぉーー!
逃げようとする私の手が! レインフォレイトさんに掴まれたぁぁぁーー!
「ようクリス。お前みたいなのを古い言葉で『馬子にも衣装』って言うらしいぜ?」
「何を着ててもかっこいいマーティンさんと一緒にしないでくださいよ。それより聖女様、本日のために数々のご助力をありがとうございました。」
「あ、あり、ありがとうございました!」
レインフォレイトさんは普段だってかっこいいんだから! 何よ! 聖女様の旦那だからって調子に乗って!
「いいのよ。ちょっと酔狂なことをしてみたかっただけ。それよりどう? このドレス。春らしくて素敵でしょ?」
ふわぁ……すらりと伸びた白く細い脚。五人も子供がいるなんて信じられない。きれい……肩だって色気が霧になって漂ってきそう……
「あら、ウネフォレト先生にイザベルさんじゃない。いつも娘が世話になってるわね。」
ぎゃああぁぁぁーー! もうやめて! 私の体力はゼロよぉぉぉーー! クタナツで二番目の実力者ぁー! 騎士団の頂点、騎士長の奥様でうちの組のアレクサンドルさんのお母さんでアルベルティーヌ様ぁぁぁーー! 建国以来の名門貴族アレクサンドル家ぇぇぇーー! 聖女様のことを気軽にイザベルさんなんて呼んでるぅぅぅーー! 私は誰にこんな説明してんのぉぉぉーー!
「あら、アルベルティーヌ様。こちらこそうちの息子がお世話になってますわ。そのドレス、涼しくていいものでしょう?」
何してんのこの奥様たちはぁぁぁーー! 脚出しすぎぃぃぃーー! 肩もぉぉぉーー!
「ええ、肩周りも軽くていいわね。主人が泡を吹いて驚いていたわ。やっぱり魔女のセンスは飛び抜けてるわね。それに先生が流行に敏感だなんて知りませんでしたわ。そのネックレスも素敵ね?」
「い、いや、ちが、これは、その……」
「違いますわ、アルベルティーヌ様。ウネフォレト先生は流行に左右されるような軽薄な方ではありませんわ? 今回は私がお願いをして合わせてもらっただけのこと。ね?」
「は、はひ! そ、そう、そうなんです!」
どうなってるのぉぉぉーー! 何が起こってるのぉぉぉーー!
「ね、ねえちょっとあんたって……魔女様知ってんの……」
「なんであんたなんかが魔女様と……!?」
知らない知らない知らないよぉぉぉーー!
「え? あの平民がなんでよ!」
「ねぇ! 私達も行きましょうよ! 魔女様ぁー!」
「あっ、私も行く!」
よし! 今のうちに私は隅に行こう!
はぁ……もう喉がカラカラだよ……あーお酒が美味しい。あ、しまった……つい飲んじゃった……
まいっか。だって久々のお酒だし、あんな凄い人達に囲まれて疲れたし。ふぅー美味しいなぁ、ぐびぐび。
「ウネフォレト先生?」
「はぁ? さっきはミシュリーヌって呼んだよねぇ? それがなんで今は家名で呼ぶのよぉー!」
「え、だってこの間名前で呼んだら怒ったじゃないですか……」
「バカー! 女心も分からないのぉー! バカバカぁー!」
ぐびぐび。
「じゃあ名前で呼んでいいんですね? 呼びますよ。ミ、ミシュリーヌ……」
「だぁれが呼び捨てしていいって言ったのよぉぉぉーー! 絶対あんたのことなんかクリスなんて呼んでやらないんだからぁークリスぅぅぅーー!」
ぐびぐび。げっふーい。
「ミシュリーヌ。踊りましょう。飲むのは後にして、ね?」
「踊る……」
くるくる……ぐるぐる……
「うわぁあの子のダンスってすごくない?」
「ほんと! 軽快にくるくるまわってるわぁ!」
「服装だって聖女様とお揃いなのね!? すっごくお洒落ね!」
「よく似合ってるわ。あれが流行の最先端ってことよね!」
ダンスって気持ちいいなぁ。
『よし! 宴もたけなわ! 余興の時間だ!』
もぉー! なんで毎回私が楽しんでたら音楽が止まるのよぉー!