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女教師ミシュリーヌ


「皆さんおはようございます。今日も楽しく勉強していきましょうね。今日は昨日の続きをお勉強しましょう!『春暁』ですね。」


私の名はミシュリーヌ・ウネフォレト。ローランド王国は辺境の街クタナツの初等学校で教師をしている。

今は一時間目、国語の時間。私が担任を務めている三年一組の授業中だ。このクラスは貴族が多いので物覚えが早く、教えやすくて助かっている。


『春眠、暁を覚えず

処処断末魔を聞く

夜来風弾の声

砦落つること多少』


「ではアレクサンドルさん、この詩の作者は誰ですか?」


「はい、モウコ・ネーンです。」


「はい正解! お見事です!」


三年生で一番、学校内でも一、二を争うほどの最上級貴族のアレクサンドルさん。暗記力抜群だ。


「ではアポリネール君、一行目の意味を答えてください。」


「は、はい、え、えーっと、そ、その、春の眠りは暁を覚えてない……」


実力で二組から一組に上がってきたアポリネール君だけど、頭の出来はまだまだかな。


「うーん、残念、それは意味とは言いませんね。もう少し分かりやすく答えてくださいね。昨日やりましたよ? ではデュボア君、答えてください。」


「はい。春の眠りは心地よくて夜が明けるのも気付かないほどだ、です。」


上級貴族のデュボア君はさすがだね。えらいね。


「お見事です! デュボア君に拍手ー! では続けていきましょう。

二行目をバルテレモンさん、意味を答えてください。」


「はい、あちらこちらから断末魔が聞こえてくる、です。」


これまた上級貴族のバルテレモンさん。さすがだね。でも、これは覚えているかな?


「正解です! が、バルテレモンさん?

断末魔って何でしたっけ? それが分かるように答えると高得点ですよ。」


「えっ? いや、私はその……おそらく断末っていう魔物の声じゃないかと……」


やっぱりね。この子は物事を深く考えようとしないんだよな。説明したんだけどな。


「残念。断末魔とは人が死の間際に死にたくないと生に執着する悲鳴のことですね。それが聞こえてきたわけです。

では三行目をメイヨール君。」


「はい、そう言えば夜通し風弾を唱える声がしていたぞ、だと思います。」


やるなあ。下級貴族のメイヨール君。


「バッチリです! ではさらにメイヨール君、このことからどんな状況を想定しますか?」


「はい、二行目の断末魔、そして一晩中風弾の魔法を撃ち続けていたということは、拠点を攻められていたのだと思います。例えば魔物とかに。」


この子って脳筋タイプなんだけど、こっち方面なら頭が回るんだよね。いい子だよね。


「素晴らしい! 説明してないのによくそこまで考えました。拠点を守らんと命を散らす騎士達の姿が見えてきますね。

では最後、四行目をミシャロン君。」


「うーん、はい。一体どれほどの砦が落ちたのか? ですか?」


太めの下級貴族ミシャロン君。この子って可もなく不可もなくタイプなんだよね。


「はい! 正解です。ミシャロン君に拍手ー! 皆さんよく復習してますね。いいですね。

では最後に、この詩から感じたことを教えてください。じゃあマーティン君。」


下級貴族マーティン君。この子ってそこそこ頭がいいのに全然授業を聞いてないんだよね。テストでもつまらないミスをするし。もう少しがんばれば一位になれるのに、もったいないなぁ。


「はい。僕が感じたのは、騎士が奮闘しようが魔物が攻めてこようが砦が落ちようが世の中には何の影響もないということです。

そして春はやっぱり青春だということです!」


そうかと思えば深いことを言うし……

それにしても、はあ……青春かぁ……


「なるほど、深いですね。確かに外で何が起こっても気付かなければいつまでも眠っていられますもんね。

そして……今の季節は春、二度と戻らない青春……」


はぁ……泣きそう……

あいつ今頃何やってんだろう……噂じゃあもう何年も前に王都に行ったって……

ああ……嫌になる……マーティン君のバカ……嫌な思い出が……


「私ももうすぐ三十、両親からは毎日毎日まだ結婚しないのか男はいないのかと言われ続けるばかり……

私のような平民は早ければ十五、六で結婚するのに、もうすぐ三十……

生徒達を正しく導くことに青春を捧げ早十余年……

でも私の青春は二度と戻らない……

いいですか皆さん、青春は二度と戻ってきません……

私のように三十前まで独身でいたくなければ……

二度とない青春をめいいっぱい楽しんでください……

そして若いうちに伴侶を見つけておきましょう……

特に平民の女の子……

高望みして貴族との結婚など夢見てはいけません……

遊ばれて終わりです……

君のためなら家を捨てる……なんて言葉に騙されてはいけません……

イケメン貴族男はみんな嘘つきです……

男は腐れゴブリンなのです……」


十歳にもなってない子供達の前で私は何を言っているんだろう……

だめ……頭がまとまらない……

心が騒つく……マーティン君、酷いよ……


だめだ、帰ろう……校長先生に言ってから……

異世界金融本編の67話の裏話的な立ち位置です!


『67、カース、青春に酔う』


https://ncode.syosetu.com/n5466es/67/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の気持ちが痛いほど伝わってきます。 [一言] いくつになっても青春真っ盛り!
[良い点] そうそう! ウネフォレト先生結婚のいきさつは、気になってたんですよ!
[一言] 靴どころか、色々なものが今後脱げてしまうのか、と、わくわくさせる導入でもある一部でした。 続き楽しみにしています!
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