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第6話 初めての任務



「起きて 」


「………んっ!? 」


 体を揺すられ、慌てて体を柔らかいものから起こして当たりを見渡すと、ベットの上で膝を立てて座っている寝癖が酷い春翔ちゃんがボヤける視界に映り込んで来た。


「えっと…おはよう? 」


「おはよう…トイレって何処にあるの? 」


「あぁトイレね。着いてきて 」


 そう言えば春翔ちゃんにはトイレの場所とかは教えてなかったなと思い、ボヤける目を擦りながらベットから腰を上げ、部屋の外に出てトイレへ春翔ちゃんを案内する。

 相変わらず窓のない廊下のせいで時間の感覚が分からないけど、廊下に掛かっている時計を見るに、今は5時半頃だと言うことが分かった。


(今日は…よく眠れたな )


 私達が寝たのは11時頃だから、今の時間と計算すると、6時間も眠れたことになる。

 いつもは3時間や酷い時は1時間しか眠れないけど、今日は沢山寝ることができたなと少し喜びながら、長い廊下の曲がり角にあるトイレへ春翔ちゃんを案内する。


「それじゃあ私は待ってるからね 」


「ありがとう 」


「どういたしまして 」


 無表情でお礼を言ってくる春翔ちゃんに笑顔で言葉を返し、トイレへ春翔ちゃんが入って行くのを見終えてから、少し寝癖が付いた髪の毛を解いて、手ぐしで髪を整えていると、昨日の夜に苦しんでいた春翔ちゃんの事を思い出してしまった。


(…大丈夫、かな? )


 大切な人が死んでしまっても、すぐに現状を理解できずにその人がまだ生きているように錯覚してしまう事は私の時は沢山あり、何気ない日常の中で欠けてしまった時間を感じてしまうと、私は何度も吐いてしまった。

 だから大切な友達を失ってから日が浅い春翔ちゃんの事を心配していたけど、トイレの中から水で手を洗う音が聞こえ、何事も無かった事を安心していたけど、トイレの中から出てきた髪をびしょびしょにした春翔ちゃんを見て、かなり驚いてしまった。


「ちょっ!? 何してるの!? 」


「寝癖直した 」


「小学生じゃないんだから! ほら、部屋に戻るよ! 」


 髪をびしょびしょに濡らして寝癖を直すなんて事をした春翔ちゃんを怒り、少し濡れた手を掴んで私の部屋に引っ張って行き、自室にあるクシとドライヤーで濡れた髪を丁寧に乾かして上げる。


「もう、せっかくの綺麗な髪の毛が傷んじゃうよ! 」


「…? ごめん 」


 よく分かってなさそうに謝る春翔ちゃんを見てため息を吐き、水気が飛んだ髪の毛にクシを通して整えていると、嫌でも異様に細い春翔ちゃんの髪の毛が目に入ってしまう。


(ストレス? それとも栄養不足かな? )


「ねぇ、春翔ちゃんって何歳なの? 」


「19 」


「4つも下なんだね 」


 歳の割に小さく細い体と髪の毛を見て、やっぱりこの子は沢山の苦悩を抱えているんだなと再確認しながらも髪を整え、髪を後ろに集めてそれをピンで止めてあげる。


「はい、スッキリしたでしょ? 」


「うん…ありがとう 」


 何故か少しだけ不服そうにお礼を言う春翔ちゃんを見て、髪をまとめたのは余計なお世話だっただろうかと不安になっていると、後ろから扉を3回ノックされた。


「朝食ができたらしいわよ。さっさと来なさい 」


「ありがとう貞香 」


「分かった 」


 貞香の部屋と私の部屋はかなり離れているのに、わざわざそれを言いに来てくれた貞香に感謝していると、急に扉が開き、驚いた顔をした貞香の顔が扉の向こうに見えた。


「なんであんたがここに居んのよ!? 」


「………僕? 」


「あんた以外誰が居んのよ!! 」


 首を傾げる春翔ちゃんに貞香は怒鳴るように言葉を浴びせると、貞香は私に心配そうに顔を向けて来た。


「天羽…気に触るようなこと言われてないわよね? 」


「うん、そんなことないよ 」


「そっ…なら良かったわ 」


 なんだかんだ言いながらも、私を心配してくれる貞香の姿に穴だらけの胸の中に暖かさを感じていると、貞香は2つにまとめた髪を揺らしながら春翔ちゃんを睨み付けた。


「あんた…天羽の傷口に塩を塗るような言葉を吐いたら本気で殴るわよ。覚えておきなさい 」


「…? 分かった 」


 相変わらず首を傾げながら返事をする春翔ちゃんを貞香は何か言いそうに睨み付けるけど、そろそろ食堂に行かないと蓮から大目玉を食らう羽目になるから、2人の間に割って入ってから貞香を宥めようと言葉を考える。


「えっと…取り敢えず食堂に行こ。蓮を怒らせると怖いから 」


「…そうね。ほら、あんたもさっさと立ちなさい 」


「分かった 」


 言葉は荒いけど、春翔ちゃんも気にかけている天羽を見て頬を緩ませながら出入り口に足を運んで部屋の灯りを消す。

 そして3人で窓のない廊下を歩いていつもの食堂に到着すると、そこには朝なのに豪勢で作り込まれた料理が丁寧に並んでいた。

 まるで高いホテルの朝食のような料理に見惚れていると、親良の前にフォークとナイフを並べている蓮と目が合った。


「来たか…さっさと食え 」


「いつもありがとう 」


「ご馳走になります? 」


「ふん 」


「どういたしましてだ。だが…残したら殺すぞ? 」


 いつも美味しい料理を作ってくれる蓮にお礼を言うと、それに続くように春翔ちゃんは疑問形だけどお礼を言ったけど、貞香はそっぽを向いて自分がいつも座っている席に座り、手を合わせてパンをちぎって食べ始めた。


「ほら、私達も食べよ 」


「…うん 」


 遠慮している様な春翔ちゃんの手を引き、いつも私が座っている席に座り、隣に春翔ちゃんを座らせてから目を閉じて手を合わせる。


「頂きます 」


「………頂きます 」


 少し遅れて頂きますを言った春翔ちゃんはフォークをそっと手に取って1番にサラダをもぐもぐと食べ始めた。


 昨日の夜も1番にサラダを食べてたから、よっぽど野菜が好きなのかな?と思っていながらナイフで目玉焼きの黄身を崩して白身を切り取り、黄身を絡めた白身を口に運ぶと、卵の美味しい風味が口に広がった。

 次に目玉焼きの下に敷かれたベーコンを食べようとした瞬間に、春翔ちゃんはお肉が嫌いだったなと思い出し、隣に目を向けてベーコンを貰おうとしたけど、春翔ちゃんの目玉焼きの中にはベーコンは無く、よくよく見てみると、全ての料理の中にお肉は入っていなかった。


(蓮は優しいなぁ )


 昨日の事をちゃんと覚えていて、しかもわざわざ1人のために料理を少し変えた蓮を見て頬を緩ませていると、私達が入って来た扉の反対側から目の焦点があってないソライルが大きな欠伸をしながら食堂に入って来た。


「ふわぁ…おーす、おはよう 」


「おはようソライル 」


「おはよう 」


「………おはよう 」


「んっ? なんでそんな不機嫌そうなんだ? 」


「…別に 」


 今日も今日とで仲が悪いような貞香とソライルに、どうして2人はこんなに仲が悪いんだろうと思ってしまう。

 ソライルはたまに下品なことは言うけど優しいし、気遣いもできる。

 貞香は口は悪いけど他人を見て寄り添うことはとても上手だし、私はそれに救われた事も何度かある。

 だからこそ、なぜこの2人の仲が悪いのか、本当に良く分からない。

 そんな事をパンを齧りながら考えていると、右の方から手を叩く音が聞こえ、そっちの方を向いてみると、そこには口周りを醤油と卵の黄身でべっとりと汚した親良の顔が見えた。


「さて、全員揃ったことだし、今日の流れを報告しよう 」


「まずは口を拭け 」


「むっ、それは失礼 」


 蓮の言葉に親良は置いてあった紙で口周りを拭き取ると、綺麗になった顔で私達に今日の流れを説明してくれた。


「今日は昨日と同じように各自指定区域の見回り…といきたいことなんだけど、いつもは仕留めきれずに逃げる『処刑人(エクスキューソナー)』の1人を春翔君が仕留めたからね。向こうの動きが変わるかもしれない。だから今日は貞香とソライルは2人で住宅街を…蓮は私のサポートを受けながら人気がない広範囲の森に防衛ラインを引いてもらう 」


「りょーかい 」


「なんで私がこんな奴と一緒なのよ!? 」


「おいおいこんな奴呼ばわりはねぇだろ 」


「頭を触るな! 」


 目が覚めたのか元気よく笑いながら貞香の頭を撫でるソライルに、貞香は警戒心が強い猫のように叫ぶ。

 そんな2人を見て口から笑を零していると、私の隣にいる春翔ちゃんが手を挙げている事に気がついた。


「質問 」


「なんだい? 」


「僕と天羽さんは何するの? 」


 春翔ちゃんの質問に、今の作戦に私の名前を呼ばれてなかったことに遅れて気が付いた。


「あぁ、春翔君には天羽と一緒に一旦家に帰ってもらうよ。家に忘れ物とかあるだろう? 」


「っ!? なんでですか!? 」


 春翔ちゃんはともかく、私だけ防衛の作戦から突き出された事に驚き大声を出してしまったけど、落ち着けと言いたげに親良は赤い目を細めてメガネを上げた。


「まぁ色々と理由はあるけどね、1番の理由は春翔君と『処刑人(エクスキューソナー)』達が戦うことがあった場合を考えてだ。春翔君の力は強大だが防衛戦には全く向いていない。だから万が一戦闘が起こった場合は周りの人達の避難や保護を天羽にお願いしたいんだ 」


「あっ………大声出してごめん… 」


「私も言葉足らずだった、すまないね 」


 親良の説明はとても納得ができるもので、大声を出してしまった事を反省していると、手を合わせる音が横から響いた。


「ごっそうさん! 俺はいつでも出れるから準備ができ次第声をかけてくれ 」


「…ふん 」


 1番食堂に来たのは遅いくせに、1番食べ終えるのが早いソライルは言いたいことを言い終えると、自分の分の皿と貞香が食べ終えたお皿をキッチンの方に持って行ってしまった。

 相変わらずそういう気遣いができるところは尊敬できるなーと思いながら、私も早く用事を済ませて街の防衛に回らなければと考え、食事を口に運ぶスピードを早くした。



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