第10話 白い部屋での質問
「………っ? 」
重い瞼が開いた。
どうやら僕は横になっているようで…病院のような白い天井が見える。
とりあえず体を起こそうとするけど、力が入らずに体を起こせない。
まるで餓死する寸前みたいな感じ。
「むっ、起きているのかい? 」
隣から声が聞こえた。
すると天井を見る視界に、薄い青色の髪をした親良の顔が見えた。
「今…起きた 」
「そうかいそうかい、君は1週間寝てたんだよ。後遺症が残らないように色々と手を尽くしてくれた蓮に感謝する事だね 」
「…そう 」
別に後遺症が残っても良かったのに…
そう思ってしまうけど、アイツらを殺すためには後遺症が残ったらダメだと思い直していると、遠い昔のように感じる記憶の中に生まれた疑問を親良に質問する。
「しつ…もん 」
「なんだい? 」
「アイツらの…目的は…何? 」
「アイツらとは『処刑人』の事かな? それなら世界の意志に従って人類を」
「でもそれ…不可能だよ…ね 」
僕はただ気になった事を質問しただけなのに、親良は何故か瞳孔を細め、表情を薄い笑みのまま固めた。
「どうして…そう思ったんだい? 」
「…16人で、全世界の人を殺すのは…寿命が足りないと思う…後、わざわざ全国に足を運んで…1つ1つ国を滅ぼすのは…時間が…かかり過ぎる 」
「…これは驚いた。普通の人はそんな事を疑問に思ったりしないよ 」
普通の人は…その言葉に少し笑ってしまう。
だって僕は…普通じゃないみたい…だから。
「しょうがない、その質問には答えようか…春翔君が言った通り、いくら『幻想 変異』を使えようが全世界の人間を滅ぼすには寿命は足りないし、非効率だ。でも、それを可能にする方法がある 」
「…それは? 」
「『幻想器』を全て集め、それを世界の意志に吸収させる。そうすれば全人類を滅ぼす事ができる 」
納得した。
あの時僕を人質に取った時に、みんなに殺し合えや自害しろとは命令しなかったのは、『幻想器』があれば全員を殺せたからか。
でも1つ分かったことがあると、また1つ疑問が生まれてしまう。
「もう1つ…質問 」
「なんだい? 」
「『幻想器』って…どうやって生まれたの? 」
「………世界の意思が生み出したものさ 」
「…? 世界の意志って…人類の敵…だよね? じゃあなんで…僕達が持ってる…の? 」
ただ僕は普通に質問しただけなのに、何故か親良は目を細めてため息を吐いた。
「…この話は長くなるからやめようか。今はゆっくりと休みたまえ 」
「…うん 」
僕の感覚が鈍い胸に手を置いてくれる親良の体温を感じていると、ふと…曙希の事を思い出した。
いつもこうやって寝かし付けてくれた。
夜は嫌な事をたくさん思い出すし、たくさん頭の中で声が聞こえるから嫌いだけど、逆に曙希と隣に居れる夜は幸せだった。
たくさんおしゃべりしてくれた。
たくさん抱きしめてくれた。
たくさん…たくさん…僕を幸せにしてくれた。
ふと気が付くと…涙が出ていた。
涙を拭おうとするけど、体が動かないから涙は横に流れていく。
涙がゆっくりと肌を伝っていく感覚はとても気持ちが悪いけど、そんな事がどうでも良いと感じられる程の黒いものが胸の中で渦を巻いた。
僕の幸せを…曙希が歩めたハズの幸せな未来を…奪ったアイツらは…絶対に…絶対に…
(僕が…殺す )
そう決意して目を閉じると、すぐに重い体の感覚は鈍っていき、背後に何か暗いものが迫ってくるのを感じ取れる。
そんな中、ある疑問が浮かんでしまった。
(アイツらを殺した後は…どうしよう… )
生まれた疑問の答えを探そうとするけど、その答えが見つかる前に意識は暗闇に呑まれてしまった。