【ラブコメという普通の恋愛は存在しない】
「お前は一体誰を選ぶつもりなんだ!」
自己紹介すらまだしていないというのに唐突に
まるで学園ラブストーリーの後半にでも差し掛かったかのような
マンガでしか聞かない声が俺の耳に刺さった。
「選ぶって…誰を……何にだよ…」
俺もまるで天然が故にハーレムを形成してしまった
ラノベ主人公の如く小声で反応する。
「お前…本当に分かってないな…!」
本当になんなのか分からないのだ。
「この……」
その声は一息溜めてからこう言った。
「このクラスで誰が1番可愛いのかお前は誰を選ぶのかってことだ!!」
分かるか!!
俺は呆れた。心底呆れた。この冒頭という大切で貴重な時間に
誰が何を喋っているのかということにすら触れられず
自己紹介も出来ていないことに深く心の中でため息をついた。
俺の名前は秋川 良。良いと書いてマコトと読む。
そしてさっきからうるさいコイツはつい最近話し始めたばかりの
クラスメイト、武蔵野 剛士。
そう、冒頭でコイツ、剛士のせいで全く触れられなかったが
俺達はつい1週間前に入学式を終えたばかりの高校1年生だ。
なんやかんやで剛士とは話すようになり、こうして
お昼の弁当を一緒に食べているのだがここまで説明して
ようやく冒頭に戻ることが出来る。全く困らせてくれる。
「だからさー、お前、このクラスで誰が1番可愛いと思う?」
「入学してまだ1週間だぞ…そんなん分かるわけないだろ…」
俺は少しひっかかり気味に返す。
「いやいや〜、良さぁ、出会いってのは一瞬だぜ?
一目惚れから始まるんだぜ!?高校生活だぜ!?」
剛士が興奮気味に馬鹿な事を言ってるが、まぁ分からなくもない。
俺も高校生活には期待というか、楽しみはあった。
「そうゆう剛士はもうお気に入りの子がお見つかりのようで。」
「おうよ!よく聞いてくれた親友!!」
…親友になったつもりは無いが楽しそうなのでいいか。
まぁこの事は言えないが俺にも勿論気になっている人はいる。
青梅 楓
どこにでも居るようで稀にしか見ないようないわゆる美人。
入学式のあの日、皆が同じ制服に身を包んでいる場所で、
俺は彼女に周りとは違う輝きを感じた。
とは言っても…まだ彼女とは1度も話したことがない。
同じクラスなのに名前すら知られてるかどうか…。
俺のそうゆう所がダメなのは分かってはいるが如何せん、
女子には話し掛けにくい。特に気になってしまったのならもっとだ。
ヘタレとでも何とでも言ってくれ。本当にその通りです…。
横目でチラリと斜め前の席で友達と楽しそうに話している
彼女を見て心の中でまた深いため息をついた。
ーい…」
…。
「おーい…」
……。
「おい!良!」
「うわっ!!!」
素直にビックリした。
「なんだよ剛士急に大きな声で。」
「急に!じゃねぇ!ぼーっとしやがって、俺の話し聞いてたか!?」
全くもって聞いてなかった。
「あぁうん!その子ね〜、なんとなく良いなとは思うよ!」
適当な事を言ってしまった。自分の気になる人の事考えてて
上の空だったなんて言えないしな。
「お〜!良もそう思ってくれるか!やっぱな〜!
俺の目に狂いは無かったってわけだ!」
すまない剛士…!お前が誰の事を言っているのか分からないが故の
発言で誠にすまない……!
「やっぱこれからの学校生活期待しちゃうよな〜!
ラブコメとかなっちゃったりすんのかな〜!もしやもしや!
その子と同じ当番とかになって放課後の教室でふいに……」
剛士が止まらなくなった。
そんなこんだで話している内に昼休みも終わり、
1週間も経てば1日というのにも慣れてくるもので
あっという間に放課後になった。
「俺これからバイトあっから!先に帰るわ!良、じゃな!」
と言って剛士は教室を出て行った。
俺は少し図書室に寄って帰ろう。この学校に入学して、
まだ図書室は行ってなかったからな。
俺は階段を降りて1階の図書室へと向かった。
向かう途中には中庭を挟んでいるのだがそこから誰かの声がした。
「あの、俺!入学した時から!…」
ほぅ、これはコクハク。青春してんなぁ、…ん?
その声に聞き覚えのあった俺は申し訳ないと思いつつもつい
中庭を覗いてしまった。やっぱり…あれ、剛士じゃないか!!
今日バイトだったんじゃないのか!ってあれ嘘か!!
今日俺が図書館へなど向かわなければ剛士は今日バイトだったと
明日になってもそう思っていただろう。
だがしかし俺はこの場から離れられなかった。
今日の昼休みの事を思い出し剛士が誰の事を気になっていたのか
それが今になって知りたくなってしまったからだ。
剛士…こんな形で申し訳ない。だが見届けるぞ!俺は応援する!
一体相手は誰なんだ…?
少し首を伸ばす。
「え…?」
剛士の背中の奥に見える女子は間違いない。
よりにもよって俺が見間違えるはずがない。
(剛士の好きな人も青梅だったのか……!)
俺は完全に固まってしまい自分が覗いているという
自覚を忘れてしまっていたその時、
青梅がこちらに気付き目線を送ってきた。
(ヤバい!!…)
俺は瞬時に我に返りまた隠れたが時すでに遅しである。
覗いてた事もあって青梅の俺への印象は最悪だろう。
後ろなので剛士には見られてないがそれも時間の問題だ…。
パニックになりかけてたそばで
剛士が青梅にまた話しをし始めた。
「俺…入学した時から…その、
青梅の事!可愛いって思ってた!今日はここへ来てくれてありがとう。
その事だけで安心仕切っちゃいそうだ…。
でも、聞いて欲しい。俺…青梅の事が好きだ!付き合って下さい!」
剛士は言い切った。それはもう完璧に。
俺だったら青梅のような美人な女子を前にしてそんな事言える
度胸なんてない。その時俺はまた昼休みの事を思い出した。
「もし上手くいったら、応援してくれよな!」
「あぁ、うん。」
適当に返答してしまった事にまさか当日後悔するとは、
よりによって相手が青梅楓だったなんて。
まぁでも、当然だ。俺は心で考えるだけしか出来ないけど
剛士にはそうゆう行動力がある。
もしこれで上手くいったら、心から応援しよう。
やっぱ剛士は凄いな…。
そんな事を考えてたら青梅が口を開いた。
「ごめんなさい。」
俺は今ほど自分の事を嫌いになった瞬間は無いだろう。
入学して最初に仲良くなった友達の恋が失敗したってのに、
どうしてホッとしてるんだ……!!
(クソっ!!!!)
最低だ…!最低だ…!俺はぁ!!!!
中庭の壁から離れ、俺は泣きそうになりながら
走ってその場を立ち去った。
【エピローグ】
「ごめんなさい。」
「…、まっ、そうだよな!ごめんな青梅!今日急に
呼び出しちゃってさ。そりゃあまだ1週間しか経ってないし?
色々あるし!いやぁ〜俺は焦ってたのかもなぁ。
いや〜スッキリした!ありがとな!青梅!」
「……。」
「もしかして、聞いてもいい?青梅も実は、
気になってる奴とか居たりすんの?」
青梅は少し笑って答える。
「秋川 良くん。」
本書を閲覧頂きありがとうございます。
初投稿となります。
定期的に続きを書いていきたいと思いますので
よろしくお願いします。